9月5日の「先住民女性の日」に合わせてブラジル先住民カヤポ族の手描きの模様が入ったカジュアル靴がリリースされた。ブラジル北部、アマゾン地域の南東部に暮らすカヤポ族は、赤と黒のボディーペインティングに、極彩色の羽飾りとビーズで身を彩る誇り高き部族だ。
80年代末に歌手のスティングが、熱帯雨林の保護を訴えて、関係を築いた部族として知る人もいるだろう。
この度、カヤポ族と共同制作したのはブラジル南部ポルトアレグレ市で、主に伝統的な履物アルパルガタス(スリップオンシューズ)を製造している靴メーカー「パーキー・シューズ(Perky Shoes)」だ。2011年創業以来、アルパルガタス需要の高いブラジル南部主要都市、あるいは隣国アルゼンチンで店舗を展開してきた。
コラボ企画でカヤポ族の窓口となっているカブ協会は、政治・社会においてカヤポ族の認知を促す目的で、カヤポ族自らによって2008年に設立された団体で、外部からの人員も招いて、保護区の土地の保全や現金収入の獲得、保健教育、環境保護など様々な企画に取り組んできた。
このたびのコラボ商品の製作は、パーキー・シューズが、予め裁断した布地をカブ協会に送り、それを受け取ったカブ協会(Instituto Kabu)が、管轄する2つの保護区の11箇所の集落に届け、そこで集落の女性が模様を描き入れ、カブ協会がそれをパーキー・シューズに送り返して縫製するという手順で行われている。
幾何学模様とともに生きる
カヤポ族の生活には、幾何学文様が不可欠だ。生まれた子供は、へその緒が切られると、人間の証としてすぐにボディーペインティングが施される。模様の種類は数多く、そのほとんどは、魚、鳥、アリクイ、ヒョウ、植物、ヘビなど自らを包む自然界の要素が抽象化されたものだ。それを体に描き入れることは、自然界との対話を意味するとともに、身だしなみでもあり、かつ宗教的、社会的意味も持つのだという。
模様の描き入れは女性の役割と決まっており、ボディーペインティングや布地への描き入れが日常的に行われているため、カヤポ族の女性は常に片手が黒くインクに染められている。
社会活動に利益を求めず望んだパーキー・シューズ
模様の描き入れは、バウーとメクラノティという2つの保護区のおよそ300人の女性によって行われている。
商品販売の収益は、その30%が模様を描いた女性に直接支払われ、35%がカブ協会の共益基金に、そして残りの35%がパーキーの制作費に充てられる。つまりメーカーは利益を求めない企画なのだ。
「カブ協会がこれまで行ってきた企画で恩恵を受けてきたのは、もっぱら男性でした。女性の現金収入の確保には、伝統的な模様を活用するのが一番だと思いました」と語るのはカブ協会の持続可能性コーディネーターのクレベール・アラウージョさん。
「企業とのコラボ商品開発を求めていた際に、私は別の仕事でブラジル南部のポルトアレグレ市にいまして、そこでパーキー・シューズを知ったのです。経営者は、企業側の利益とならないにも関わらず、私の提案に二つ返事で賛同してくれたのです」と企画の経緯を語ってくれた。
様々な垣根を超えたコラボ
広大な土地のもと、先住民や各国からの移民が織りなすブラジルは、多様性に恵まれた国だ。この企画は、先住民の技と工業技術、北部と南部、あるいは異なる伝統文化といった様々な垣根を超えて生まれた。
ブラジルでは既にデザイナーと先住民、企業間などのコラボが盛んだが、先住民の利益を最優先しながらも、企業が利益を全く求めないコラボのあり方として一つのビジネスモデルとなりそうだ。