ローザンヌ美術大学ECALを世界屈指の大学に押し上げた元学長、ピエール・ケラー氏を偲ぶ

▲Portrait of Pierre Keller Photo by Anoush Abrar ©️ECAL

ピエール・ケラー氏をデザイン誌「AXIS」で初めて取材したのはおそらく2007年だっただろう。ローザンヌ州立美術大学(ECAL)の学長として、現在の校舎を建設していた時期だ。

ECALでグラフィックデザインを学び、ロンドン、ニューヨークなどでグラフィックデザイナーとして、またアーティスト、写真家として活動していたケラー氏が、ECAL学長に就任したのは1995年のこと。それまではスイス・フランス語圏の一美術大学にすぎなかった存在を、ミラノ・デザインウィークに出展したり、著名デザイナーを教授に招いたり、世界的なブランドと産学協同プロジェクトを実施するなどして、世界屈指のデザイン大学へと押し上げた立役者だ。

2007年のインタビューでは、「ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)やオランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンというヨーロッパの二大大学と肩を並べるまでに成長した」とケラー氏は語った。

同時に、歯に衣着せぬ言葉も記憶に残る。例えば、世界的に有名なデザイナーを教授や講師に迎えることについて、「チューリッヒのファーストクラスのデザイナーより、ロンドンのファーストクラスのデザイナーを招聘したほうが、リーズナブルなうえにレベルも上」「他の大学関係者だったら絶対言わないだろうけど、私はあえて言いたい。大学にとって学生はクライアント。彼らを満足させることが最も重要だ」。

そんなケラー氏が推し進めたのは、卒業後すぐに現場で活躍できる人材育成だ。「学位をもらうためでも、肩書きのためでもなく、即活躍できるように学生のクリエイティビティを引き上げたい」。

現在のECAL学長は、ケラー氏が引き抜いたアレクシス・ゲオルガコポロス氏。当時、24歳という若さでインダストリアルデザイン学部を率いていたが、日本のデザイン大学と比較して、その若さに驚いたことを覚えている。

近年のECALの躍進は多くのデザイン関係者が知るところだが、ケラー氏は2011年に大学を退いたあとも、スイスデザイン界の発展に尽力した。

2019年7月7日肝臓癌で逝去されたという報を受け、心から哀悼の意を表します。End

▲「AXIS」2007年10月号より。建設中の校舎を案内してくれたケラー氏(右)と、現学長のアレクシス・ゲオルガコポロス氏。インタビュー時、ローザンヌ連邦工科大学(EPFL)と校舎を隣接させることで、より一層連携を図りたいと語った。Photo by Satoshi Suzuki