小豆島の“食”を巡る旅。
島唯一の酒蔵
「MORIKUNI」と
「MORIKUNI BAKERY」へ

▲清々しい晴天の朝に訪れた小豆島酒造。醸造場に隣接するカフェ&バーは築70年超の佃煮工場をリノベーションした風情ある佇まい。Photos by Sohei Oya

小豆島の名水・星ヶ城山の湧き水で仕込むことで知られる、島でたったひとつの酒蔵「MORIKUNI」。2005年に創業した森國酒造が今年4月、小豆島酒造へと運営を移行し、ブランド名もMORIKUNIとして新スタートを切った。とは言え、商品も現場のスタッフも以前と変わらぬまま。今後は日本酒の魅力を世界へ伝えるため、より海外での紹介に力を入れていくそう。改めて、酒造りへの姿勢について伺った。

「森國」から「MORIKUNI」へ。新たな歩みがスタート

ブランドのルーツとなるのは香川県高松市で1872年に創業した老舗「池田酒造」。4代目の池田好輝さんが廃業を決意した際に、小豆島で醤油製造業を営む親戚からの誘いもあり、2005年、初代社長の森國幸広さんとともに酒造を開業した。清らかな湧き水があることも新天地での開業の大きな理由になったそう。島で最後の酒蔵が廃業してから実に35年目の復活。新しい蔵でいて、そこには創業約150年の豊かなスキルが息づいているのだ。

▲梁や階段など、佃煮工場時代の構造を効果的に活かした店内。ショップやギャラリーのほか中央のロングカウンターでは日本酒のテイスティグやコーヒー、オリジナルスイーツが味わえる。

音の響きも楽しい、島仕込みの地酒

代表作の「島シリーズ」は、ふわふわ、うとうと、ふふふ、ぴぴぴ……と、まるで言葉遊びのような、およそ日本酒らしからぬネーミング。酒づくりには、瀬戸内海沿岸の酒米と小豆島の最高峰・標高817mの星ヶ城山に湧く名水が使われている。さらに、米も地元産にこだわり、小豆島の棚田で収穫した希少な酒米で仕込む「はちはち」もある。

▲「島シリーズ」の4種。左より、「ふわふわ。」(純米吟醸酒)1,665円、「ふふふ。」(吟醸酒)1,582円、「うとうと。」(純米酒)1,536円、「びびび。」(本醸造)1,187円。すべて720ml。フェミニンかつモダンなラベルや店のロゴなどグラフィックデザイン全般は、高松市在住のデザイナー、柳沢高文氏が手がけた。

2009年から店主を務め、商品開発を手がける池田亜紀さんは、「名前もラベルのデザインも、最初は酒屋さんに受け入れられずとても苦労した」そう。確かに明朝体のひらがなが踊るラベルのデザインはエレガントな雰囲気で、ふと自然派ワインを思い起こす。これも「女性や若い世代にもっと日本酒を知ってほしい」という思いからなのだとか。池田さんの発案という100mlの小瓶と八勺枡を合わせた愛らしいギフトセットも、女性客を中心にヒット商品となった。商品開発から10年を経て、今やMORIKUNIの地酒は島有数の名産品となっている。

▲店主の池田亜紀さん。バーカウンターで島シリーズ4種の利き酒をしながら、それぞれの特徴を教えていただく。

杜氏の手で醸す、日本酒の伝統的手法を貫く

▲杜氏の井上 昇さん。杜氏歴30年の79歳。とてもお若く見える。「僕なんかでモデルが務まるかなぁ」とはにかみながら写真に収ってくださった。

MORIKUNIで何より心がけているのは、手仕事で丁寧につくるということ。「私たちは生産量150石ほどの小さな酒蔵。だからこそ、なるべく機械を入れず、昔ながらのつくり方を守りたいんです」と池田さん。その精神を物語るのが杜氏の存在だろう。現在は蔵元が杜氏を兼任する“蔵元杜氏”の体制をとる酒造が増えているが、池田さんは杜氏を迎えて仕込むという昔ながらの酒づくりを続けている。

▲火入れの蛇管のバルブを調整中だった井上さん。新酒を65℃まで温めて殺菌を施す大事な作業だ。杜氏さんの手はやはり、きれいだった。

MORIKUNIの味をつくるのは、但馬の杜氏、井上 昇さん。杜氏となって30年という、蔵の信頼も厚いベテランのつくり手だ。この日はちょうど新酒の火入れ作業中だったこともあり、特別に醸造場を見せてもらった。古いものは昭和30年代のものもあるという、使い込まれたタンクが並ぶ場内には、フレッシュで華やかな新酒の香りが漂う。

昨今は活性炭などで濾過した無色透明な日本酒が一般的だが、MORIKUNIはあくまで日本酒本来の色にこだわり、濾過も最小限に控えている。うっすらと山吹色に色づいた液色がその証だ。これも「杜氏が丹精込めてつくる味をなるべくそのまま伝えたい」という池田さんの思いから。

島シリーズをテイスティングして、純米好きの自分は純米酒「うとうと。」を購入。広島県産八反錦を60%まで磨き、さらに古酒をブレンドした味わいは、旨味を感じつつ香りも味わいも丸く、清らかだった。

▲淡い黄色を帯びた「うとうと。」の液色。杜氏のつくり上げた味をできるだけ損なわず、そのまま瓶詰めするのがポリシーだ。

MORIKUNI 
住所:香川県小豆郡小豆島町馬木甲1010-1
TEL:0879-61-2077
営業時間:ギャラリー・ショップ9:00〜17:00、カフェ11:00〜17:00 木曜休
URL:https://www.morikuni.jp

醸しの郷にふさわしい、酒蔵発信のベーカリー

▲ベーカリーは酒造から徒歩1分の場所にある元機械倉庫だった物件。経年で錆びたトタンをあえて残した外観がいい感じ。設計デザインは大阪を拠点に活動するdot architectsが担当した。

そして、酒蔵が手がけるもうひとつの“発酵”がある。それが「MORIKUNI BAKERY」だ。2015年、酒造のお隣に、元機械倉庫をリノベーションして待望のパン屋さんをオープンさせた。愛らしさと美味しさで瞬く間に島の人気スポットとなり、島内でこのベーカリーのパンを使っているカフェも少なくない。

看板商品は酒米と酒粕を使った米粉のコッペパン、その名も「コメコッペ」。「島を散策しながら、小腹が空いたときに気軽に食べられるおやつを」というテーマで誕生したのだそう。

考案したのはイタリアンレストランRistorante FURYUや小豆島の食材を使ったジェラートが評判のMINORI GELATOを手がける渋谷信人シェフ。米粉仕立ての色白のコッペに、酒粕を加えた粒あんなどを挟んだサンドシリーズが約10種揃う。粒あんをはじめカスタードやミルクジャムなど、フィリングも極力手づくり。15cmほどの小ぶりなサイズが絶妙に食べやすい、まさにご当地フィンガーフードだ。

▲錆びたトタンの無骨な外観から一転、自然光が明るく降り注ぐ清々しい店内。大きくとったガラス窓から奥の庭園が一望できる。

▲アイデアに富んだフィリングをサンドした「コメコッペ」たち。昔懐かしい揚げパン(下段中央)シリーズもおすすめだ。きな粉などお馴染みのフレーバーから、「醤の郷」ならではの地元産醤油を使った「甘焦がし醤油」味も。各180円。

▲ふっくらと見た目も愛らしいコメコッペ。片手で持ってパクパクと食べ切れるサイズ感がちょうどいい。ほのかに甘酒が香る粒あんは、柔らかな甘みであんこ好き必食の美味しさ! 手前「酒粕あんこ」、奥はラム酒でなく日本酒で漬けたレーズンをカスタードクリームに忍ばせた大人の味わい「日本酒レーズン カスタード」各280円。

MORIKUNI BAKERY
住所:香川県小豆郡小豆島町馬木甲1010-1
TEL:0879-62-9737
営業時間:9:00〜17:00
定休日:木曜、第2、第4水曜

▲陽光が降り注ぐ、MORIKUNIのカフェエリア。「ブルーダニューブ」のコーヒーカップは器好きの先代が生前コレクションしていたもののひとつ。盃に入れたざらめ&ミルクなど、器づかいも目を楽しませる。コーヒー400円。

さて最後に、MORIKUNIは実はコーヒーも美味しい! 聞けば香川県高松市の老舗「カキ三コーヒー」にオリジナルのブレンドを依頼しているのだとか。一杯ずつハンドドリップするコーヒーにはMORIKUNI BAKERYの特製ラスク付き。こうした隅々まで丁寧な心遣いがお酒の味にも現れるのかも。

ここは日本酒とパンというふたつの“醸し”が味わえる、小豆島の食の発信基地というべき場所。はるばる島を訪れたなら、やはりこんなつくり手の「仕事」をお土産にしたいと思うのだ。End