和菓子の色に見る、
自然を写した小さな世界

先日、京都の街中で出会った京菓子に目を奪われました。小さな菓子に繰り広げられる、自然から切り取ったような「美」。この美しさはどのように生まれたのでしょうか? 今回は、和菓子の色や素材、ネーミングに注目し、そのルーツを探ってみたいと思います。

京都の歳時を物語る

京都には、様々な行事・伝統的なお祭り・庶民の風習など、今もなお、繰り返される歳時の数々があります。四季のみならず二十四節季・十二の月・花鳥風月といった日々のうつろいが感じられるのも京都ならではの風情です。京菓子は、そんな京都の歳時と密接な関係があり、味・香り・口当たりや喉越し・色や形・名前のつけ方に至るまで、多様な要素を小さなかたまりに凝縮し、私たちの五感を刺激します。

うつろう自然の表現

▲桜の頃から新緑の季節へとうつろいを感じるラインナップ
京都鶴屋 鶴寿庵「花霞」(左) / 長久堂「薫」(右)

▲新緑の頃の緑
鶴屋𠮷信「落し文」

2週間ごとに季節が変わると言われている京菓子。ひとつの季節を取り上げてみても、微妙に色や素材に変化をもたせながらうつろいを表現した京菓子を見つけることができます。なかでも緑は、野や山から色を写し取っているため、青と黄色の配分を細やかに調整しながら、新緑の頃の萌黄色から落ち葉の朽葉色に至るまで刻々と変化させているそうです。

▲うす紫と黄色のグラデーションで表現した趣のある花弁の色 亀屋良長「かきつばた」(上)
透明感が増していく夏の頃の緑、水の張った田んぼに注ぐ光と苗が揺らめくハーモニー 長久堂「早苗田」(下)

名から生まれる創造的なコミュニケーション

和菓子の世界では、つくり手はお客様の好みや食されるシーンを想像しながら形にして名をつけ、受け手はその小さな世界からつくり手の意図を読み取り想いを受け取ります。

それは、どこか知的で風情も感じられるコミュニケーションだと思います。京都の和菓子店では、皇居・宮殿で開かれる「歌会始(うたかいはじめ)の儀」の議題に合わせて、お菓子をつくるのが、明治以降の慣例となっているそうです。

昔から嗜まれていた知的なコミュニケーションは、街中で出会った京菓子からも感じ取ることができます。

▲鶴屋𠮷信「あじさいきんとん」 朝露がきらめく紫陽花の風情を表現。夜の間降り注いだ雨が上がり、優しく降り注ぐ朝日を思わせる情景が目に浮かぶ作品(左)、鶴屋𠮷信「蛍の袖」 蛍の儚くて美しい光を感じられる作品。ブルーとパープルのグラデーションからも幻想的な風情を感じる(右)

私たちのカラー提案活動の過程(企画・創色・提案)も、自動車を取り巻くシーンや乗る人々を想像しながら行います。色のディテールにも想いを巡らせながら新しい色をつくり出す点では共通しています。つくり手-受け手の心の動きに寄り添いながら、長く側においてくださるような色をこれからもつくっていきたいと思います。