REPORT | フード・食
2019.05.14 12:04
オリーブや醤油、佃煮、ごま油と並び、素麺もまた小豆島を代表する名産品の1つ。確かに島ではよく味噌汁などの汁ものに“ばち麺”と呼ばれる麺の端っこが入っていて、素麺がとても身近な食材であることを感じる。
島内には実に約150軒もの製麺所があり、その中でも伝統的な「手延べ」による素麺づくりを真摯に続ける「真砂喜之助製麺所」を訪ねた。1920年代に創業したこちらは、2代目の喜之助氏が製法を確立し、現在は3代目と4代目がその味を受け継ぐ家族経営の製麺所だ。あいにくの雨続きだった取材時、「明日は晴れそうなので天日干しをしますよ」と4代目の真砂淳さんが声をかけてくださったので伺うと、まさに作業の真っ最中。幅1mmほどに細く伸ばされた麺が朝日に透けて、まるで絹糸のように美しい。
原材料は小麦粉、塩、ごま油、以上。手延べから生まれる艶やかな喉越し
小豆島の素麺の特徴は、ほかの地域のように綿実油や菜種油ではなく、島の特産であるごま油を使う点。製麺時にごま油を塗る「アブラ返し」という工程を経ることで、麺の酸化を防止し、独特の風味を生むのだそう。真砂喜之助製麺所の作業場にも、ほのかにごま油の香りが漂っていた。
製麺作業は深夜3時頃から生地を練り上げる工程が始まり、乾燥、麺の裁断と、夕方まで丸1日続く。まさに夜明けから日の入りまでフル稼動だ。ツルリと絹のように滑らかな喉越しともっちりしたコシ、そしてふわりと広がる小麦の甘みこそ、喜之助の麺の持ち味だ。
「今は驚くほど美味しくて価格も安い“機械麺”をつくっていらっしゃるメーカーさんはたくさんありますし、それはそれですごいことだと思います。でも、昔ながらの手延べ麺がいかに手間暇をかけてつくられているかを、もっと皆さんに知っていただけたら」と真砂さん。確かに、この驚くほどの労力があってこそ、思わずスイスイと箸が進んでしまう喉越しと心地よい歯ごたえが生まれるのだろう。
つくり手同士の信頼関係から生まれたパッケージ
真砂喜之助製麺所が全国に知られるきっかけとなったのが、モダンで温かみのあるパッケージデザイン。都内では「TODAY’S SPECIAL」や「d47 design travel store」などでも扱っているのでご存知の方も多いはずだ。
手がけたのは香川県在住のイラストレーター、オビカカズミさん。実はかねてからこちらの素麺のファンだったそうで、それがご縁で淳さんと意気投合し、パッケージやリーフレットをデザインすることになった。今では小豆島に関する著作のイラストやグッズのデザインなど多くを手がけていて、オビカさんは島になくてはならないクリエイターとなっている。小豆島にはついつい購入したくなるデザイン性の高い商品が多いけれど、真砂喜之助製麺所はその先駆けの一軒であり、淳さんもまた島の伝統を次世代へとつなぐ、つくり手のひとりなのだ。
小豆島ならではのフォトジェニックなプロペラとは?
余談ながら、個人的にグッときたのが天井に設置された室内乾燥用のファン。40年ほど前に素麺店のご主人が独自に開発したのがルーツと言われているそうで、小豆島の製麺所にはほぼ必ず設置されているとか。酒蔵や製茶工場などの工房にはアナログで無骨な専用器具が多く、それを鑑賞するのがまた楽しいのだが、このスチールのプロペラもまるで店舗のオブジェになりそうなカッコよさと思ったら、実際に島内や東京でインテリアとして使っているお店もあるのだとか。
寒い時期に温かいつゆでいただくのもいいけれど、やはり素麺はひんやりとした喉越しが真骨頂。初夏に訪れたなら、ぜひ真砂さん家族が手塩にかけた麺をお土産にしたい。5月からは「太口そうめん」の製造が中心となり、梅雨に入ると中元の発送作業で製造はひと休み期間になる。自宅兼工場のため、購入&見学希望の場合は事前に電話で問い合わせを。
真砂喜之助製麺所(まさごきのすけせいめんしょ)
住所:香川県小豆郡小豆島町池田2484-2
TEL:0879-75-0373
営業時間:10:00〜17:00(要予約)
定休日:日祝
URL: http://www.kinosuke.net