小豆島の“食”を巡る旅。
島育ちの無農薬野菜を食べに、
「HOMEMAKERS」へ

▲青空に映えるグリーンのフラッグ。この旗が掲げられていればカフェが営業しているサイン。Photos by Sohei Oya(記載のないカットすべて)

小豆島の中央にある「肥土山(ひとやま)」という地区で、農薬を使わず野菜づくりをする「HOMEMAKERS」。つくり手は三村拓洋さん・ひかりさん夫妻。築120余年という拓洋さんの祖父の家を改装した自宅で、金曜と土曜の2日間だけカフェを開いている。もちろんメニューの主役となるのは夫妻が育てた無農薬野菜だ。農業のかたわらカフェを営業するのは、週2日がちょうどいいのだそう。

▲集落の細道をゆるゆると進んでいくと現れる立派な石垣。小豆島は江戸城や大阪城にも使われた花崗岩の名産地だった。

食材からパッケージデザインまで、まさに“暮らしをつくる人”

店名の「HOMEMAKER」とは、アメリカでは主婦・主夫を表す言葉であり、文字通り生活周りのものを自分でつくる人のこと。名古屋の大学で建築を学んだふたりは、拓洋さんは造園設計業を、ひかりさんはIT企業を経て、2012年、当時5歳の娘さんとともに小豆島へと移り住んだ。日々の暮らしに必要なものを自分たちでつくるという、いわば労働の原点に立ち返るような生き方をしたいと思ったからだ。

働き方の質が問われている今、それは憧れのライフスタイルではあるけれど、伝統や古い習慣が残る里山の集落で、地域に溶け込み、独学で有機農業を始めるのは、決して容易いことではなかったはず。2013年の春から野菜づくりを始めて今年で7年目。栽培する野菜や果物は年間で60種類を超え、2014年からスタートしたカフェは、地元の常連さんと観光客で連日満席の人気となっている。

▲築120余年の一軒家をリノベーションした自宅兼カフェ。ブランコやウッドベンチが設えられ、松の古樹や多肉植物が共生する庭の景色がカッコ良くて、店に入る前からテンションが上がる。

▲野菜の梱包作業などに使われるカフェ隣の棟は、もとは蔵だったという建物。カフェの営業日はこの軒先で野菜を販売する。土壁のイラストはカフェのスタッフであり、小豆島で無農薬オリーブを栽培する「tematoca(手間土果)」の高野夕希子さんが手がけたそう。みなさん芸達者!

三村さん夫妻は野菜の栽培やカフェの料理だけでなく、店内も庭も、そして自家製ドレッシングやシロップのラベル、ウェブサイトのデザインまで自分たちで手がけている。写真もひかりさんの撮影というから驚く。

拓洋さんと話していて印象的だったのは、「(クライアントなどの)要求に応えるかたちでものをつくるよりも、自分が好きなものをつくって発信するほうがしっくりきたし、向いていたのかも」という言葉。確かに、建築や造園は常に相手があってのクリエイションだが、暮らしに必要なものを自分たちでつくり、その豊かさを伝える今のスタイルが夫妻にはより合っていたのだろう。

店内にはふたりの蔵書を並べた本棚があり、そこには建築やデザイン関連の名著も並んでいて、興味がある人ならつい読みふけってしまいそうだ。ふたりが発信するこうした1つ1つの“サイン”が接点となって、訪れる人たちと島とをつなげる場となっている。

▲自由に閲覧できる店内の本棚。植物や造園、料理のほか、レム・コールハース著「S,M,L,XL」など建築・デザイン関連のコレクションも並ぶ。この日はイギリスの映画監督であり園芸家でもあった故デレク・ジャーマンの名著「derek jarman’s garden」(中央)が飾られていた。2階席にはちびっ子用の絵本コーナーも。

▲収穫した野菜を梱包する店主の三村ひかりさん(右)とスタッフの山田清美さん。取材に伺った日は人参と新玉ねぎが豊作。

▲この時期、新玉ねぎは葉っぱ付きで販売していた。お土産に持ち帰り丸ごとグリルしてみたら、葉も実もトロリととろけて驚くほど甘かった…!新玉ねぎの販売は今年は5月中旬頃まで(予定)。

カフェでは学生時代に飲食店の厨房に立っていたという拓洋さんがカレーやサラダなどの料理を、デザートはひかりさんが担当。素材の良さは当然のこと、都心のカフェと比べても遜色のないプレゼンテーションのセンスの良さも目を楽しませる。複数のフードライターさんから「小豆島に行ったらぜひ寄ってみて」とずっと言われていたのはこういうことだったか、と納得する。

今回は、自家農園の野菜を常時12種類ほどを盛り合わせたサラダプレートをオーダー。まさに小豆島の季節を映す一皿だ。この日はケールや菜花などの葉物野菜や、目を見張るほどジューシーで甘い新玉ねぎ、華やかさを添えるエディブルフラワーなどで美しく構成されていた。葉野菜も噛むほどに甘く、濃い。それぞれの野菜が持つ苦みや酸味も決して「雑味」ではなく、濁りのない旬の風味だ。畑で採れた生姜とダイダイ、小豆島産醤油でつくった「生姜ドレッシング」をかけるとさらに味わいが鮮やかになり、帰りのフェリーの時間が迫っているのにフォークが止まらない。

▲サラダプレート1,050円。「MORIKUNI BAKERY」の天然酵母カンパーニュ付き。野菜の内容は日替わりで、この日はレタス、ケール、新玉ねぎ、人参、紫キャベツ、菜花、チコリ、ブロッコリー、紅くるり大根、赤リアスからし菜、エディブルフラワー。2つのお皿は、なんとひかりさんのお母様が焼いたもの。右奥の「ダイダイ&レモンソーダ」は、スキッと酸っぱい柑橘の味わいが爽快!400円。

もう1つのおすすめという「ダイダイ&レモンソーダ」は、自社農園のダイダイとレモン、ライムに少しの蜂蜜と砂糖でつくった自家製ダイダイシロップをソーダで割ったもの。甘みはほとんど感じない酸っぱさのみのソーダで、それが最高に飲み心地がいい。無農薬ですくすく育った柑橘の酸味は嫌な刺激がなく、ほのかな甘みさえ感じる。「農作業で汗だくになったとき、酸っぱいのが飲みたくてつくったんです」というふたり。確かに、灼熱の日差しの下で飲んだらさぞや爽快だろう。

▲自家栽培の無農薬生姜や柑橘をたっぷり使った「HOMEMAKERS」オリジナルの加工品たち。右端から、「生姜ドレッシング」200ml 648円、だいだいポン酢200ml 594円、シトラスジンジャーシロップ300ml 1,652円、プレーンジンジャーシロップ300ml 1,652円、ハニーだいだいシロップ300ml 1,480円。

それにしても、賑わうカフェを眺めて感じたことは、島の方々と観光客が思い思いにくつろぎ、互いに調和していること。島の素材の魅力を伝えるにはお洒落なプレゼンも必要だけど、スタイリッシュになり過ぎては地元の人の敷居が高くなってしまう。そのさじ加減が島のつくり手にとっての難しさであり、腕の見せどころとも言える。「例えばコーヒーにしても、スペシャルティコーヒーのいい豆を使っているので湯温などにももっとこだわりたいのですが、“コーヒーはとにかくちんちんに熱くして”と常連さんに言われたりしますし(笑)。都会と同じようには“振り切れない”ところはありますよ」と笑う拓洋さん。地元客とビジター、そのどちらも共有できる心地よさが三村さん夫妻のセンスであり、それが賑わいをもたらしているのだろう。

小豆島では前回の2016年から3年ぶり、第4回目となる「瀬戸内国際芸術祭2019」が開催中。運よく週2日の営業日に滞在できたなら、里山の集落で瑞々しい旬の野菜をほおばってほしい。End

▲「HOMEMAKERS」チームで記念撮影。三村拓洋さん(中央)、ひかりさん(右隣)とスタッフの皆さん。Photo by HOMEMAKERS

HOMEMAKERS
住所:香川県小豆郡土庄町肥土山甲466-1
Tel : 0879-62-2727
営業時間:金曜・土曜 11:00~17:00(16:00LO)
定休日:日曜〜木曜
URL:http://homemakers.jp/