アルテック日本初の直営店Artek Tokyo Store、表参道にオープン。

▲Photo by Petri Artturi Asikainen

数ある北欧デザインのなかでもナチュラルでエレガントなスタイルで日本人に人気のアルテック。その日本初となる直営店Artek Tokyo Storeが東京、表参道にオープンした。設計はDAIKEI MILLSの中村圭佑。地階を含む2層の空間ながら光を取り込んで心地よいインテリアとなっている。

▲Photo by Petri Artturi Asikainen

日本人の北欧贔屓には長い歴史があるようだ。北欧のフィンランドとは、彼らが帝政ロシアから独立を果たしたわずか2年後の1919年にすでに正式な外交関係を結んでいた。そしてその記念すべき100周年にあたる今年、フィンランドのインテリアブランド、アルテックの日本初となる直営店、Artek Tokyo Storeが東京、表参道にオープンした。

アルテックと日本との関わりにもまた長い歴史がある。創業メンバーのアルヴァ、アイノ・アアルト夫妻は当時の駐フィンランド公使館一等書記官の市河彦太郎、かよ子夫妻と親交があった。アイノ・アアルトがかよ子夫人から贈られた絹地に想を得て生まれたファブリック「キルシカンクッカ」は、今回復刻され、Artek Tokyo Storeのオープニングを飾る「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」のひとつとしてお披露目されている。ちなみにブランドとしてのアルテックもすでに1950年代後半には日本に紹介されていた。白木屋日本橋本店で開催された北欧展で製品が展示されている資料画像が残っている。

表参道の喧騒を抜け一歩通りを入った同店の明るいガラス張りのファサードの先に、地階へと続く階段の開口部が、店内のほぼ中央に大きく口を開けている。

▲DAIKEI MILLSがこだわったポイントの1つが、店内中央に口を開けた、存在感抜群の階段。Photo by Petri Artturi Asikainen

「スツール 60」のパーツが壁面に並ぶスツールワークショップを後にその階段を降りきると、正面に名作イスたちが鎮座する壁一面の飾り棚が目に飛び込んでくる。

▲名作イスが天井の高い壁一面に並ぶ。ヴィトラのパントンチェアなども。Photo by Petri Artturi Asikainen

この東京旗艦店の設計を手がけたのはDAIKEI MILLSの中村圭佑。アルテック社長、マリアンネ・ゴーブル曰く「民主的なプロセス」によって選ばれたインテリアデザインは、店内床面をはじめとして随所に配されたレンガの赤が、取り澄ましたモダンさではなく血の通った温かみを感じさせる。

地階の高い天井をうねる波のように覆うルーバー状の曲面とともに、創業者アルヴァ・アアルトの建築へのオマージュだろう(現在「アルヴァ・アアルト-もうひとつの自然」展が国内を巡回している)。ゴーブル社長が望んだ温かさと同時にエレガンスを体現するデザインはたしかに成立している。

▲アルヴァ・アアルト建築を連想させる、地階の天井を覆う波打つルーバーが見える。Photo by Petri Artturi Asikainen

同店のオープニングを記念してバリエーション豊富なラインアップも用意された。「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」は今年の4月にミラノサローネで発表されたばかりだが、その全6ラインの中から早くも3つのコレクションが販売されている。両国の伝統技術と現代デザインとが融合したこのコレクションは、オープニングを彩るにふさわしいシリーズとなった。

「スツール 60 藍染」と日本とフィンランド外交関係樹立100周年のフィンランド親善大使でもあるファッションデザイナーの皆川明による書籍『ああるとのカケラ』、そして前述のフィンランド語で桜の花を意味し京都の工房で摺られるファブリック、「キルシカンクッカ」がその3作品である。

▲FIN/JPN フレンドシップ コレクションから「スツール 60 藍染」。付属の桐箱が展示台に。Photo by Petri Artturi Asikainen

なかでもファッションブランド、トリー・バーチとのコラボレーションなどでも話題な藍師・染師のBUAISOUによる「スツール 60」は、部材を直接藍で染めた深みのある青が美しい同コレクションを象徴するアイテム。桐箱入りで販売されるというのだからコレクターズアイテム化は必至だろう。ラッカー仕上げをせず藍染めの風合いを残したピースも10脚限定で販売される。このアートピースに実際に座るなら、本藍染めのデニムを穿いて臨みたい。

ほかに人気の「ドムス チェア」の開店記念特別モデルも用意されている。フィンランド語でおめでとうの意を持つ「オンネア」を冠したこのイスは、フィンランドで実際にこのイスに座って学んだデザイナーの熊野亘が、座面と背もたれにナチュラルレザーの張り地を選んだ限定品だ。経年変化が楽しみな優美な姿に仕上がっている。

▲Artek Tokyo Storeのオープンを記念した特別限定品「ドムス チェア オンネア」。Photo by Petri Artturi Asikainen

今回のオープンに際してはオーナーカンパニーであるヴィトラのCEO、ノラ・フェルバウムも来日していた。日本でのグループ初直営店はヴィトラではなくアルテックとなったわけだが、それは当然の結論だったようだ。「日本にはヴィトラの熱烈なファンは多いのですが、マーケットとしてはいちばん大きいというわけではありません。しかしながら、全世界的に小売が元気のない現在でも活況を呈している日本でなら店を構える意義があります(フェルバウム)」。加えて「アルテックにとって日本はフィンランド本国外でいちばん大きなマーケットです。直営店を開くタイミングをはかっていた(ゴーブル)」ところだったのだ。

▲アットホームなオープニングの会見風景。左から、ヴィトラCEOのノラ・フェルバウム、アルテック社長マリアンネ・ゴーブル、そしてDAIKEI MILLS代表の中村圭佑。

それにしても日本人はなぜこれほどに北欧が好きなのか。「フィンランドも日本も何とかして自然とつき合ってこなければならなかったという共通した歴史があります。自然に対して畏れの意識が備わっている点も共通しています。それらから我々は近しい感覚を持っていると言えるのではないでしょうか(ゴーブル)」。担当編集者を交え3人で話していると、ふとした沈黙が訪れる。静かに彼女が話を継いだ。「ほら、わたしたちは沈黙が怖くないでしょう? 慌てて何かとりとめのない話をする必要もないんです。心地よい沈黙もフィンランドと日本の共通した感覚ですね」。

Artek Tokyo Storeにはアルテック以外のブランドも並んでいる。ヴィトラ製品があるのは当然として、ほかにもLumi、ヨハンナ・グリクセンといったバッグやファブリックなどフィンランドの「価値観を共有する」ブランドも陳列されている。それは本国のショップがそのオープン当初から、ショッピングを楽しむ場としてだけではなく文化を発信する拠点ともなるべく開かれたことにならっている。フィンランドの文化を世界へ、また、世界の文化をフィンランドへ。商品を売るだけの店ではなく新進のアーティストの存在を伝えるギャラリーでもあった。

▲自然光に満ちた十分な明るさの地階、ドライエリアから店内をのぞむ。

例えばフェルナン・レジェを最初にフィンランドへ紹介したのもアルテックだったとか。ゴーブル社長によればヘルシンキ店は現在では聞き慣れたカテゴリーではあるものの、コンセプトストアの先駆けであった。そして東京店もコンセプトストアとしてスタートを切った。つまり今後なにがしか物販以外の活動が期待できるということだ。日本にまたひとつ訪れるべき新しいアドレスが誕生した。
(文/入江眞介)End

Artek Tokyo Store

所在地
東京都渋谷区神宮前5-9-20,1F・B1F
電話番号
03-6427-6613
営業時間
11:00 – 20:00
火曜定休