熊本県と大分県の県境に位置する、30軒の旅館から成る小さな里山の温泉地「黒川温泉」。2016年4月に発生した熊本地震の影響により、数軒の旅館が一部休館、または一時的な全館休業を余儀なくされた。

黒川温泉がある阿蘇地域は雄大なパノラマが広がり、世界ジオパークや世界農業遺産にも認定。豊かな自然環境のみならず、歴史に育まれた伝統や文化が今も息づく地域だ。

震災後は、さまざまな復興への取り組みにより、3年の間に休業中の旅館は順次営業を再開。2018年度の旅館宿泊者数は、震災前（2015年度）の90%を記録した。そしてこの度、最後の旅館「南城苑」がリニューアルオープンすることになった。

自然環境と調和した里山の景観づくりを維持するため、南城苑のリニューアルは、鉄筋コンクリート構造としながらも、化粧垂木や、杉材の付け柱、土壁風の外壁といった木造建築の要素を取り入れることで旅館が景観に溶け込むような意匠にしている。

また、傾斜地対策として建物をひな壇状に造成することで強度を確保しつつ、2階建てのボリュームに高さを抑えて、景観を損ねない構造を採用。客室は、1階から4階（地上からは2階立ての高さ）までの眺めの良い全12室。全室畳の部屋には、黒川温泉の景色が楽しめるように、一枚板のプライベートカウンターを備えた広縁を用意した。

英語で、「Beautiful Harmony＝美しい調和」の意味をもつ「令和」という新しい時代に、自然の景観と調和しながら暮らしと生業を営む小さな里山の温泉郷が新たな一歩を踏み出そうとしている。