大学案内パンフレットは、受験生や保護者にとって志望校を知るための大切な資料。内容やビジュアルによっては、受験するかどうかの判断がわかれることもあるかもしれない。少子化が進むなか、ひとりでも多くの学生を取り込みたい大学側としても学校経営にも関わる重要な媒体だ。昭和女子大学は、そのパンフレットの表紙と本文にAXISフォントを採用した。この10年で受験者が倍増したという人気大学がパンフレットのデザインに込めた狙いとは?
1年かけて制作する大学案内パンフレット
――大学案内パンフレットというのは、大学にとってどのような広報物なのでしょうか。
西田昌平(昭和女子大学 アドミッションセンター 主任)
大学にはさまざまな広報物がありますが、受験生とその保護者が手に取る大学案内のパンフレットは特に重要です。パンフレットには学部や学科、入試などの情報が含まれ、大きな会場で行われる入試相談会では、職員が受験生と対面し、このパンフレットを使用して説明します。
宮本 崇(株式会社エデュケーショナルコンテンツ 募集戦略チーム プロジェクトマネージャー) 私たちは8年ほど前から昭和女子大学の大学案内パンフレットを制作しています。当社エデュケーショナルコンテンツは、大学、短大、専門学校などの教育機関をクライアントに、学生募集のサポートを行うことをミッションとしています。そのためのマーケティングと、大学案内パンフレットなどの広報物の制作が事業の2本柱です。
――どのように制作するのでしょう。
西田 大学案内は、受験生に対する広報戦略を考える「アドミッション会議(教員11名、職員6名)で、例年6月頃から話し合いが始まります。その際、制作会社にも同席してもらいます。
桃園靖子(昭和女子大学 大学院 環境デザイン研究専攻/生活科学部 環境デザイン学科 プロダクトデザインコース 教授)
普通は、学校が制作会社に依頼内容を渡して、出てきたレイアウトに対して「この文章はこうしてほしい」といった校正作業があると思います。私たちの場合は、文章や内容のことだけでなく、デザインのシステムやフォントに関しても制作会社と密接にやり取りをしながら決めています。
高村 亮(株式会社エデュケーショナルコンテンツ クリエイティブルーム マネージャー/アートディレクター)
当社がパンフレットの制作を担当しはじめてから、桃園先生と一緒にバージョンアップしてきたところがありますね。
桃園 それまでのパンフレットを通じた昭和女子大学のイメージは、「おとなしい、上品、地味」といった感じでした。実際は、行動的でリーダーシップがある学生が多く、大学としても「グローバルで活躍できる人材を輩出したい」というビジョンがあるため、そこがはっきりわかるようなパンフレットを制作したいと考えています。
グローバルを意識した強いビジュアル
――最新のパンフレットのコンセプトについて教えてください。
西田 昭和女子大学は2020年に100周年を迎えるので、特別感のある大学案内をつくりたいと考えました。新しい風を吹かせたいと多くの制作会社を呼んでコンペを行いましたが、結果的に例年協力していただいているエデュケーショナルコンテンツがパートナーに決まりました。
野中直己(株式会社エデュケーショナルコンテンツ クリエイティブルーム ディレクター/チーフデザイナー)
これまで昭和女子大学が発信してきたメッセージは「女子大のなかで一番」でした。就職率では8年連続女子大No,1(卒業者数1,000人以上)を達成と勢いも増してきました。次は「日本で一番、世界で一番」を目指していこうと提案しました。2020年は創立100周年であると同時に、オリンピックの年でもあるため、「昭和女子大学は日本を担う女性リーダーを育成する大学」というメッセージで、グローバルを意識した強いビジュアルを打ち出したんです。
桃園 今までのパンフレットでは彩度の高いビビッドな色を使ってきたのですが、今回は明るさを抑えた色でまとめていたのが印象的でした。
野中 2011年くらいから志願者が倍増して、競合となる大学もどんどん変わってきました。大学の人気が高まってくると、受験する学生の偏差値も上がり、他の女子大だけでなく、共学の大学とも比較される。そのときに違和感のないカラーリングは重要でした。競合となりそうな大学のパンフレットを並べて、どのあたりをターゲットにするのかを話し合うんです。女子大ならこのあたり、共学ならこのあたり、と狙いを定めて、そこに負けないようなデザインを目指しました。
――大学案内というよりは海外の雑誌のようです。
高村 海外の大学のパンフレットも参考にしました。ここまで振り切れたのは、昭和女子大学が女子高生にあまり媚びていないからだと思います。普通、女子高生向けであれば、かわいい、ふんわり、安心感、といったキーワードに寄せがち。同大学は、それを置いておいて、「ここを狙う」というのがはっきりしていた。
桃園 写真のアングルもこだわりました。教授や学生を紹介するページはどうもリアリティがないのが気になっていて。今回は、先生や学生が研究室や教室でどう過ごしているのか、できるだけ普段の様子を撮影してもらいました。
使い勝手がよいAXISフォント
――表紙と本文にAXISフォントを使っています。
桃園 表紙に関して、大学名の英文は「Didot(ディドット)」を使い、和文にはAXISフォントを採用しました。AXISフォントは、個性的なフォントと組み合わせても相性がいいですね。
野中 本文で組んだときも、AXISフォントは懐が大きいので、読みやすいと思います。パンフレットには情報量が多いページとそうでないページがあるのですが、AXISフォントはウェイトのバリエーションが豊富なので組みやすい。同じ級数でも抑揚やリズムをつくりやすく、使い勝手がよいのです。
桃園 太くすればそれなりに強調する力を持っているし、細くしても軽快感が出て、色々なニーズに応えてくれる。それから、柔らかさを持っているフォントですよね。実は私自身、AXISフォントが出たときに購入し、自分自身の仕事でも、大学のプロジェクトでも折に触れて使ってきました。例えば2014年から取り組んでいる木曽漆器デザインプロジェクト「cocoro concept」のなかでも、学生のデザインを商品化したカタログにAXISフォントを使っています。昭和女子大学はやはり女性をターゲットにすることが多いため、ほかのゴシック体に比べて見た目の優しさがあるという点でも有用かと思います。
とても近い距離感でのコミュニケーション
――大学案内パンフレットを制作する上で大事にしていることを教えてください。
西田 本学の場合は、グローバル、プロジェクト、キャリアという3つの要素がストロングポイントなので、基本的にはそれを明確に見せることですね。
宮本 制作会社としては、大学が置かれている状況や課題を踏まえて、デザインに落とし込むということを意識しています。PRすべきところを自覚していない大学もありますが、昭和女子大学の場合は戦略がしっかりあるので、それに則って提案しています。
高村 学校が本当にやりたいことの話を聞く、というところが一番大事なのかなと。昭和女子大学では職員や教員の方ととても近い距離感でコミュニケーションできているので、皆さんの純度100%の気持ちを形にしていきたいと思っています。
桃園 大学と制作会社のあいだに密なコミュニケーションがあると、こうした大学パンフレットの誌面も変わってくると思うのです。もちろん、戦略やターゲットを共有してこのデザインにたどり着くまでは時間や積み重ねが必要なのですが。今年度のパンフレットは見ていてドキドキするし、「なんだろう」と興味をもって読み進められる。期待して見ていただけたらと思います。(Photos by Kaori Nishida)
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