ネットで相手の顔を見ずに物が買える時代。自分でも、なんだかんだとオンラインショップで買い物はするが、“街中の店”で買うことの意味をふと考える。
小さい頃、知らない道を当て所もなく自転車を走らせるのが好きだった。あれは自転車に乗るのが目的ではなく、“店”を見つけることを楽しみにしていたのだと思う。すべての店で買い物をできる訳ではないが、街中に“店がある”情景が好きなのだ。
さて、先日、福井のデザインセンターの方が、1泊2日でものづくりを見学するツアーを組んでくださった。お勧めの場所以外に希望の場所を聞かれたので、「和釘をつくっているところ」と伝えた。自分で和釘を使う当てはないのだが、和釘という存在に憧れがある。残念ながら今、紹介できる工房はないが、“金物店”をはじめた人がいるので立ち寄ってみよう、ということになった。
武生(たけふ)駅から徒歩5分ほどに、昭和5年に建てられたという日本家屋が現れ、「和金物 小澤金物店」店主、小澤史郎さんが出迎えてくれた。学生時代は文学部で仏教学を学んだという。古い物への興味から、金具に関心が広がり、卒業後は金物屋に勤めた。2016年よりウェブサイトで “金物店”を営んでいた小澤さんが、縁あって出会ったこの建物で、念願の実店舗を開くことになった。元は薬局だった建物で、ほとんど手直ししていないというが、元の店主が丁寧に使っていたもの活かしながら、要所要所に小澤さんのこだわりが感じられる。
店の間と勝手の仕切の内暖簾は、屋号を染め抜き、まるで何代も続く店のような雰囲気を醸し出す。自ら生けたという花は、越前の山からいただいてきた野の花だ。手直しをした床の材は吉野まで探しに行ったという。床材を留めるのはもちろん、商売で扱う和釘だ。
ところで、金物の定義は?と尋ねると「建築、建具、箪笥などの指物などに使われる金物のうち和のもの、日本のしつらえにかなうもの、といったところでしょうか」と言うが、“小澤さんのいう金物”は扱い品を見ていけば、何を指していくか自ずと理解できてくる。
小澤さんの仕事の方法は至って古風で丁寧。ボタンひとつで決済されるネットでの注文とは訳が違う。オンラインショップで商品ページを見るとそこには買い物かごではなく、問い合わせ先が表示されている。オンラインショップにおいても、お客様の希望に応じて金物をお勧めするそうだ。オンラインでも実店舗でも、小澤さんは言葉の語調からお客の希望を感じ取り、求めていた以上のものを奥の引き出しから出してくれるに違いない。
「現代でも、指物の腕の立つ方はたくさんいらっしゃいますが、一方で、その方達のお仕事に相応しい金物は皆無に等しいです。もっと金物があれば、建築の方や指物・木工の方の表現の幅がぐっと広まると思っています。大工さんや指物の方が技術を込めてつくったそれに最後に取り付けるのですから、金物は技術と心が入ったものでないといけません」と話す小澤さんの言葉からは、自らの担う役割に使命のもとに店を開き、だからこそ、中途半端なものは扱えない、という決意を感じる。
実際に店を訪ねれば小澤さんとの話が弾む。金物の話だけでは留まらない。建築の話、材木の話、本人は「まだまだ修行の身です」と謙遜するが、その知識に驚く。そして、この知識があるからこそ、ただ希望されたものを売るだけでなく「提案する」力がある。ここに小澤金物店の強みがある。
さて、ここまで話したのはあくまでも「商品を買う」こと。店はモノを買う、それだけなのだろうか。
次の予定が近づき、店を後にする時間となり、外まで見送りに来てくださった小澤さんが、外観の説明をしてくれた。昭和5年に建てた家主がどのような心構えでつくったか、手直しながら自分で元の姿に戻したい、とエアコンをすべて外し、漆喰も一流の職人さんに塗り直してもらった。弁柄(ベンガラ)の跡が見え、弁柄は自分で塗り直した。隣が駐車場で全面が見えるので、より良くしたいと町家の本式の直し方をした。
ただ、店を開けるように直すだけでなく「町に立つ建物の意味」まで考える姿勢。こんな時代だからこその、“店の在りよう”を若き店主から学んだ訪問となったのだった。
和金物 小澤金物店
- 所在地
- 〒915-0075 福井県越前市幸町4-2
- 連絡先
- Tel:0778-42-5250 Fax:0778-42-5254
- ウェブサイト
- http://ozawakanamonoten.com
《前回のおまけ》
倉敷会場 / 倉敷意匠アチブランチ
- 会期
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2019年3月9日(土)〜4月11日(木)
10:00~18:00
※月曜定休(月曜祝の場合は火曜へ振替) - 会場
- 岡山県倉敷市阿知2丁目23-10 林源十郎商店1階
- 連絡先
- tel.086-441-7710