INTERVIEW | コンペ情報 / プロダクト
2019.03.14 10:00
「オートカラーアウォード」とは
車両のカラーデザインの企画力や形との調和を含む、内外装すべてのカラーデザインの美しさを評価する「オートカラーアウォード」。一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA)の主催で1998年からはじまり、2018年で21回目を迎えた。
当初はクルマのみを対象としていた本アウォード。17回目以降は対象を広く「車両」と捉え、二輪も審査の対象とし、開催している。本年度は四輪と二輪合わせて11ブランドがエントリー。2018年12月7日と8日の2日間にわたり横浜美術館(神奈川県横浜市)で各社の公開プレゼンテーションと審査が行われた。
2018年度特別賞はトヨタ自動車「JPN TAXI」に決定
2018年度グランプリは本田技術研究所「N-VAN(エヌバン)」、特別賞はトヨタ自動車「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」がそれぞれ決定した。テーマは「日本の風景を変える、伝統色、おもてなしの心を込めた空間」、受賞したカラーはエクステリアが「深藍(コイアイ)」、インテリアが「黒琥珀(クロコハク)」だ。
JAFCAによる審査時の授賞理由は下記の通り。
「コイアイ」は手間と時間をかけてつくることで得られる、深い味わいのある色で、日本の文化を象徴する色のひとつと言える。……今後ますます海外からの観光客も増えると予測されることから、国やタクシー会社を巻き込んで、日本らしさを表現するタクシーのデザインを広めた。
最近では都心でもよく見かけるようになった「ジャパンタクシー」。この「コイアイ」に込められた想いを担当デザイナーのトヨタ自動車東日本 デザイン部 花本詩織さんに伺った。
調査で浮かび上がった、これからの「タクシーのあり方」
――「ジャパンタクシー」のコンセプトを教えてください。
日本のおもてなしの心を反映させたさまざまな人にとって優しく快適なクルマ、そして「日本の風景を変える」ことをコンセプトに、車両開発を進めてきました。
これまで約20年にわたり、トヨタではセダンタイプのタクシー専用車を製造してきました。しかし、これからの日本が超高齢化の社会になっていくという事実や、世界有数の観光立国になっていきたいという未来の日本のありたい姿を考えたとき、タクシーもそれに相応しい形にしたいと考えました。これから先、車椅子などで乗車されるお客様や、スーツケースなどの荷物を持ち込まれるお客様などの需要がますます増えてくると思います。
万人にとって利用しやすいタクシーを新たに考え普及させることで日本の風景を変える。外形デザイン、内装デザイン、カラーデザインすべてをこのコンセプトで統一しています。
――具体的にどのように相応しい色や形を決めていったのでしょうか?
最初に、各地でタクシーがどういった扱われ方をしているのかを調査しました。北海道から九州まで実際に足を運んでいます。ただ観察するだけではなく、タクシー事業者様の協力で企画担当者が実際のタクシーの助手席に乗せてもらい、どういったお客様が、どういう風にタクシーを捕まえ、どういう利用の仕方をしているのかということを密に調査するなど、現場の声を集めていきました。
私はカラーデザイナーとして事業者様を訪問し、現状のタクシーの色のバリエーションやメンテナンスのされ方などを見てきました。タクシーは通常の乗用車とは違い、5年間で500,000キロメートルといった長距離を走る車なので、長期間使用しても車体の色が綺麗に保てることが重要です。
また、公共交通として日本の景観に相応しいと感じていただけるタクシーはどんな色であるべきなのか、という観点でも調査を行い、色をいちから考えていきました。
――実際に調査をするなかで、現場のタクシーにどういった問題点があったのでしょうか?
今までのセダンタイプのタクシーには高齢者の方々が乗り降りする際に捉まるところがなく、補助がないと乗りづらいという場面がありました。そこで「ジャパンタクシー」では乗り降りする際に手助けとなる手すりを設けています。カラーデザイン面での工夫としては、乗車時には手すりの位置がよく見えて、乗車中はその色が目に入りづらくなる角度にのみ部分的に色を施すことで、複数の色で車内がチカチカしないように配慮しています。これは、日本人らしい気遣いかもしれないですね。
「コイアイ」が日本の風景を変える
――外装色「コイアイ」はごく黒に近い、深い藍色です。この色はどのように決まったのですか?
タクシーの外装色は事業者ごとに異なる色数があり、開発当時、流しで捕まえるようなカジュアルな色のタクシーがある一方、ビジネスシーンでは「黒色タクシー」と呼ばれる黒塗りのタクシーが利用されるなど、大きく分けて2種類のタクシーが存在しています。
そこで、ふたつの役割を1色で担えるような色、かつ「これが日本のタクシーだ」という存在感を与えることのできる日本独自の色をつくりたいと考えました。日本の伝統色からさまざまな色の候補を検討したのですが、古くから日本人に愛されてきた「藍染」の色からインスピレーションを受けて、「フォーマルさと親しみやすさを兼ね備えた色」である深い藍色(コイアイ)を設定しました。
銀鼠(ぎんねず)と呼ばれる、シルバーに近い色なども検討したのですが、このクルマの形と合わせたときに商用車のように見えてしまったり、街の景観と合わせたときにシルバーは目立ってしまいます。「ジャパンタクシー」では景観に溶け込むことをとても大切に考えていたので、藍色はしっくりきました。
――「コイアイ」のほかにも「ブラック」と「スーパーホワイト Ⅱ」という設定色がありますが、街中で見かけるのはなぜ「コイアイ」が圧倒的に多いのでしょうか。
現状のタクシー専用車は事業者ごとの指定色での塗装も行っていますが、「ジャパンタクシー」ではこの3色を提案しています。なかでも専用色として開発した「コイアイ」を推奨し、普及することで、日本の街の風景を変えるほどの効果を発揮できるのではと考えています。
色を統一するということは、もちろん弊社だけで決められることではなく、事業者様にご理解いただかないとできません。事業者様には長年にわたってトヨタの車をご購入頂くなかで、クルマの安全性や耐久性を育てていただいてきました。そういった信頼関係の上で今回「コイアイ」の導入を進めさせていただきましたが、事業者の皆さまとこれからの日本のタクシーに対する想いを共有し、議論をしながら設定色を決めさせていただきました。
――改めて見てみると、落ち着いた色ではありますが、光の当たる角度によって色の深みを感じさせます。
建物の中で見る「コイアイ」の深い藍色はごく黒に近いような色に見えるのですが、光の下、外を走っているときには青が綺麗に映えるんです。
今回の開発にあたり、補修がしやすい色という点にもこだわっています。事業者様を訪問した際、バンパーなどの車両に傷がついたときに各社で補修をされていることを知りました。よく聞いてみると、メタリックの色の場合、補修した際にどうしてもムラが出てしまうそうです。そのため、「コイアイ」はメタリックを入れていない、ソリッドの色にしています。そうすることでコスト面も抑えられ、事業者様のところでも簡単に補修が可能になりました。
内装色で快適空間をつくリ出す試み
――インテリアのカラーデザインのポイントを教えてください。
今回内装色では、ドライバーの方と乗車されるお客様のスペースをカラーによって快適に分けることを意図しました。従来のタクシーの内装色は黒一色で、ドライバーとお客様の間に境目がないようなデザインでしたが、ドライバーの方にとってタクシーは「プロの仕事場」。室内灯が消えたときに料金袋が乗客からわからない位置にあるなどの防犯の役割を兼ねつつ、いかにドライバーの方々のプロとしての気持ちを高められるかを考え、ドライバーのエリアは「ブラック」で統一しました。
助手席を含めたお客様のエリアには、「クロコハク(上級グレード)」と「コハク(標準)」という2種類をご用意しました。お客様に少しの時間でもゆったりした気持ちになっていただけるように、落ち着いたフォーマルな色になっています。傷や汚れが目立ちにくい色を設計者と一緒に考えながら、開発しました。
――助手席も後部座敷同様、ゆったりとしているのが印象的です。
今までのセダンタイプのタクシーでは、助手席に座ったとき「ドライバーとの距離が近いな」と思われることもあったかもしれませんね。「ジャパンタクシー」では助手席側もお客様の席としての印象をしっかり与えられるように足元を広くし、ドライバーのエリアと色を分けるなど、心地よさを感じられる工夫をしています。
アウォードを通して得られた「広まっている」実感
――アウォードでは特別賞を受賞されましたが、実際に参加された印象はいかがですか?
やっと新しいタクシーとして一般の人々に広く認知していただけるように感じています。電車や新幹線もそうなのですが、タクシーも新しい車両が出たときには宣伝されないことが多く、日本中をスーッと静かに走り出していつの間にか浸透していく。「ジャパンタクシー」も同じで発売当初はPRの場がほとんどありませんでした。
今回のアウォードを通して一般審査員の方からや、ショッピングの帰りに寄ってくださった一般のお客様から直接感想を聞くことができたことは大きな喜びでした。「タクシーってこういう風に考えて、デザインされているのか」「この形や色にはこういう意味があったのか」という感想を頂いたり、「もっとこういう風になっていってほしい」というような、これから先への要望なども頂き、励みになりました。カラーに込められた意味合いを広く知っていただける機会になったと思います。
――最後に、クルマのカラーに対する花本さんの想いをお聞かせください。
今は働き方やライフスタイルがどんどん変わっていっている時代だと思います。カラーにおいては、単にたくさんの色から自由に選べますよという選択肢を与えるだけではなく、お客さんにとっての「新しい色の選び方や買い方」という体験そのものが大事になっていくのではないでしょうか。
色単体で「素敵でしょう」というよりも、色を通してどういった新しいことを提供できるかということに、これからもチャレンジしていきたいです。
――ありがとうございました。
2019年度のエントリーに関する情報は10月下旬頃に発表する予定です。
- 審査基準
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●市場に影響を与えたか
●車両のカラーデザインとして企画/発想が優れているか
●デザインの企画/発想が他業種の手本となりえるか
●従来にない色域に挑戦して成果をあげているか
●狙い通りのカラーが表現されているか
●車両全体でカラーの調和が考えられているか - 審査委員
- ●オートカラーアウォード審査委員(3名)
島村 卓実(Qurz〈クルツ〉Inc. インダストリアルデザイナー)
松田 朋春(株式会社ワコールアートセンター シニアプランナー)
大澤かほる(一般社団法人日本流行色協会 クリエイティブディレクター)
●日本流行色協会(JAFCA)自動車色彩分科会審査委員(12名)
川崎重工業株式会社、スズキ株式会社 二輪デザイン部、スズキ株式会社 四輪デザイン部、株式会社SUBARU、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技術研究所 二輪R&Dセンター、本田技術研究所 四輪R&Dセンター、マツダ株式会社、三菱自動車工業株式会社、ヤマハ発動機株式会社
●一般審査委員(事前登録した100名の一般審査委員) - 主催
- 一般社団法人日本流行色協会(JAFCA) (理事長 宮﨑 修次/トーヨーカラー株式会社 代表取締役社長)
公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団 - 協賛
- 旭化成株式会社/長瀬産業株式会社/東レ株式会社 ウルトラスエード事業部/DIC株式会社/トーヨーカラー株式会社/大日精化工業株式会社/オー・ジー長瀬カラーケミカル株式会社/カシオ計算機株式会社/スミノエテイジンテクノ株式会社/セーレン株式会社/日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社/BASFジャパン株式会社/松崎化成株式会社/武蔵塗料株式会社/ヤマックス株式会社
- 後援
- 国土交通省/横浜市文化観光局/日本商工会議所/東京商工会議所/(公社)日本インダストリアルデザイナー 協会/(一社)日本インテリアファブリックス協会/(公財)日本デザイン振興会/(一社)日本自動車工業会/日本自動車輸入組合/(一社)日本テキスタイルデザイン協会/(一社)日本塗料工業会/(一社)日本自動車販売協会連合会