INTERVIEW | コンペ情報 / プロダクト
2019.03.12 10:00
「オートカラーアウォード」とは
車両のカラーデザインの企画力や形との調和を含む、内外装すべてのカラーデザインの美しさを評価する「オートカラーアウォード」。一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA)の主催で1998年からはじまり、2018年で21回目を迎えた。
当初はクルマのみを対象としていた本アウォード。17回目以降は対象を広く「車両」と捉え、二輪も審査の対象とし、開催している。本年度は四輪と二輪合わせて11ブランドがエントリー。2018年12月7日と8日の2日間にわたり横浜美術館(神奈川県横浜市)で各社の公開プレゼンテーションと審査が行われた。
2018年度グランプリは本田技術研究所「N-VAN(エヌバン)」に決定
本田技術研究所の「N-VAN(エヌバン)」が第21回のグランプリを受賞。テーマは「人に寄り添う 軽バンCMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)」、受賞したカラーは「ガーデングリーン・メタリック」(エクステリア)、「ブラック」(インテリア)だ。
JAFCAによる審査時の授賞理由は下記の通り。
これからのモビリティは個人が愛着を持って所有するものと、他と「シェア」して共有するものとの二つの方向がある。……受賞したグリーン系は、温かみと人間みを感じさせるニュートラルな色を探求した結果、シェアの時代に相応しい色を実現している。
ホンダとして久しぶりの軽商用車となった「エヌバン」で、なぜこのグリーンを打ち出したのか。担当デザイナーの本田技術研究所 四輪R&Dセンター 石田憲行さんに話を聞いた。
「人」中心のカラーデザイン
――「エヌバン」はどのように誕生した車なのでしょうか?
「日本の積む・運ぶ生活を豊かにする車」をつくろうというのが「エヌバン」のスタートです。当初は問題が山積みでした。というのも、弊社は約19年前に「アクティ」という軽商用車を発表して以来、軽商用バンの研究をほとんど行なっておらず、ユーザーにヒアリングをするところからのスタートだったからです。
調査で分かったのは、軽商用車にも乗用車同様、「安心や心地よさ」が重要だということ。ひと昔前であれば、荷物がたくさん積めることが重要視されましたが、荷物は詰めて当然。「人」を中心に考えた軽商用バンが必要なのではないか、という結論にたどり着きました。
――「人」を中心に考えたとき、どんなカラーが必要なのでしょう?
「エヌバン」ではビジネスシーンはもちろん、休日のレジャーシーンにもフィットするデザイン、それに加えてドライバーや周囲の人々への配慮といった社会性を重要視しています。そこで、乗る人のライフスタイルに合わせた3種類のグレードとそれぞれのカラーを用意しました。
G/Lグレードは大工さんや配送業者さんなどのために機能性を追求したベーシック/スタンダードモデル。+STYLE(プラススタイル)にはFUNとCOOLの2種類があります。いずれも今回受賞した「ガーデングリーン・メタリック」を含めた7色から選べ、特にアウトドアユースや釣りなどの趣味で乗りたい人の心を掴むようなカラーバリエーションになっています。
見るからに楽しいイメージのカラーを揃えたFUNでは、専用色として「プレミアムイエロー・パール Ⅱ」を用意。ケータリングやネイルショップ、洋服屋さんとしての使用を想定しました。ロールーフが特徴のCOOLではバイクのパーツショップや楽器屋さんなど、格好いいイメージ。COOL専用色は「プレミアムベルベットパープル・パール」で、スタイリッシュな印象を与えます。
――「ガーデングリーン・メタリック」はモスグリーンでもパステル系のグリーンでもない、絶妙なグリーンですが、どうしてこの色になったのでしょうか?
車のユーザー、周りの人、周囲の環境、その多くに受け入れられる色を探していたときに、さまざまな人の生活の中に存在する色としてクロスオーバーしたのがグリーンだったんです。
でも実は、グリーン系の色って日本では売れない(笑)。提案当初、営業の人からは「なんでグリーンなの?」と言われ、上司にも「ミリタリーっぽい」などと理解が得られませんでした。そこで、グリーンが売れにくく、ハードルが高いイメージに取られてしまう理由は何だろう?というところから改めて考え、再チャレンジすることにしました。
――グリーン自体にはナチュラルで優しいイメージもありますよね。
まさにそうで、「合わさる人やシーンによってイメージが変わる」のが今回狙った色域なんです。例えばですが、同じグリーンでも、アウトドア用品を持ったラフな格好をしたユーザーと合わせると「ミリタリーテイスト」に感じられますし、お花屋さんやコーヒースタンドに利用するユーザーと合わせると「ナチュラルでやさしいイメージ」を感じませんか?この色域はユーザーのスタイルによって周囲へ与える印象が大きく変化し、幅広いライフスタイルの表現が可能。人に寄り添った「ニュートラルな色」だと言えます。
今、求められる「ニュートラルな有彩色」
――ここにもいろんな色調のグリーンを検証した塗板が並んでいますが、最終の色の絞り込みはどのように進めたのですか?
幅広い生活に馴染む色というベース色(グリーン)に対して、個々のユーザーのスタイルにマッチする色味に仕上げていこうと考え、ベージュのハイライトを入れることにしました。ベージュはタフなイメージとフォーマルなイメージを併せ持つ色です。ファッションを見ても、ベージュはチノパンなどのカジュアルなアイテムからドレスやパンプスまでをカバーする色ですよね。
今は多様化の時代。だからと言って単純にカラーバリエーションを増やすのではなく、「この色だったら自分はこんな風に使うな」とイメージを広げてもらえる一色をつくり出そうと研究を重ねました。塗料のコストと見え方のバランスをギリギリまで調整し、理想の色をつくり上げました。
――従来の軽商用車は乗用車に比べ、カラーバリエーションが少ない傾向がありますね。
メーカー各社、効率を優先したいという思いがあるのかもしれませんし、今まではユーザーニーズを感じられなかったのかもしれません。実際、社内でも乗用車であれば色の重要性が理解されるところ、軽商用車の場合は乗り越えなければいけなかったハードルもありました。
「エヌバン」の場合は、企画当初からこだわり抜いたインテリアの使い勝手の良さがキーとなって、さまざまなお客様を想定したカラーバリエーションを設定できました。問題は最後まで多くありましたが、設計・営業・工場とさまざまな部署と一丸になって取り組み、ひとつずつクリアしていきました。カラーデザイナーとして、色数を絞ったなかでも、多くのお客様に喜んで乗ってもらえるよう心がけました。
売り上げにもその効果が反映されています。プラススタイルの売り上げ構成比はグリーンが24%で白が20%。通常は白が売れてその次は黒なんです。24%をグリーン系が占めることは今までになく、これはお客さんが「自分のスタイルに合うよね」と思ってくださったからこそ実現した数字だと思います。
さまざまな分野のクリエイターに審査される、アウォードの魅力
――見事グランプリを受賞されましたが、アウォードに参加されていかがでしたか?
色そのものに対してのこだわりだけではなく、「人」の生活を中心にしたHonda Designの思想を含め、全体を評価してもらえたことは、とても嬉しかったです。実際に使っていただけるお客様あっての色だということを「エヌバン」を通して伝えたかった。
アウォード全体を通してほかのメーカーさんのCMF(G)に対する考え方に触れられるのも刺激的でした。各四輪メーカーのCMFの美しさはもちろん、二輪の色の素晴らしさに気付かされる場面もありました。今年度のヤマハ発動機さんはパーツに経年変化を前提とした真鍮を使っていたりして本当にチャレンジング。それぞれの企業の姿勢や色に対するこだわりを感じられるのが、このアウォードの醍醐味ではないでしょうか。
――オートカラーアウォードはアウォードの審査員のほかに100名の一般審査委員の方々が審査するのも特徴的ですね。
自動車業界ではない、さまざまな分野のクリエイターが一般審査員として参加されていて、それが自分たちにとっては魅力でした。そういった方々に「いいよね」と言ってもらえたことで、「Honda Designのご理解にもつながっている」と実感しました。
――最後に、クルマのカラーに対する石田さんの想いをお聞かせください。
お客さまを主にして自動車のデザインを語る上で、色が占める割合は非常に高いと思います。もちろんスタイリングの美しさは大きな魅力ですが、パッと見たときに目に入ってくるのはカラー。なので、まずは人の気持ちをしっかり掴むカラーデザインは大切だと考えています。これからもHonda Designの「人」中心の考え方で、価値ある素敵なデザインを提案していきたいと思います。
――ありがとうございました。
「エヌバン」特設サイトはこちら。
2019年度のエントリーに関する情報は10月下旬頃に発表する予定です。
- 審査基準
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●市場に影響を与えたか
●車両のカラーデザインとして企画/発想が優れているか
●デザインの企画/発想が他業種の手本となりえるか
●従来にない色域に挑戦して成果をあげているか
●狙い通りのカラーが表現されているか
●車両全体でカラーの調和が考えられているか - 審査委員
- ●オートカラーアウォード審査委員(3名)
島村 卓実(Qurz〈クルツ〉Inc. インダストリアルデザイナー)
松田 朋春(株式会社ワコールアートセンター シニアプランナー)
大澤かほる(一般社団法人日本流行色協会 クリエイティブディレクター)
●日本流行色協会(JAFCA)自動車色彩分科会審査委員(12名)
川崎重工業株式会社、スズキ株式会社 二輪デザイン部、スズキ株式会社 四輪デザイン部、株式会社SUBARU、ダイハツ工業株式会社、トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技術研究所 二輪R&Dセンター、本田技術研究所 四輪R&Dセンター、マツダ株式会社、三菱自動車工業株式会社、ヤマハ発動機株式会社
●一般審査委員(事前登録した100名の一般審査委員) - 主催
- 一般社団法人日本流行色協会(JAFCA) (理事長 宮﨑 修次/トーヨーカラー株式会社 代表取締役社長)
公益財団法人 横浜市芸術文化振興財団 - 協賛
- 旭化成株式会社/長瀬産業株式会社/東レ株式会社 ウルトラスエード事業部/DIC株式会社/トーヨーカラー株式会社/大日精化工業株式会社/オー・ジー長瀬カラーケミカル株式会社/カシオ計算機株式会社/スミノエテイジンテクノ株式会社/セーレン株式会社/日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社/BASFジャパン株式会社/松崎化成株式会社/武蔵塗料株式会社/ヤマックス株式会社
- 後援
- 国土交通省/横浜市文化観光局/日本商工会議所/東京商工会議所/(公社)日本インダストリアルデザイナー 協会/(一社)日本インテリアファブリックス協会/(公財)日本デザイン振興会/(一社)日本自動車工業会/日本自動車輸入組合/(一社)日本テキスタイルデザイン協会/(一社)日本塗料工業会/(一社)日本自動車販売協会連合会