首都大学東京 インダストリアルアート学域の授業「プロダクトデザイン特論D」において、学生の皆さんが3チームに分かれ、第一線で活躍するデザイナーの方々にインタビューを実施。インタビュー中の写真撮影、原稿のとりまとめまで自分たちの手で行いました。シリーズで各インタビュー記事をお届けします。
デザイナー 深津貴之のあり方
今回、THE GUILDの代表でデザイナーの深津貴之さんにお話を聞きました。大学で都市情報デザインを学んだ後、英国で2年間プロダクトデザインを学び、現在はiPhoneアプリなどのUIデザインを中心に幅広く活動されています。そんな深津さんのこれまでについて触れながら、「深津貴之のあり方」を探っていきます。
つくってなんぼ、手を動かしてなんぼ、行動してなんぼ
――デザイナーになる原点、キッカケについて教えてください。
日本の大学では、ITやテクノロジーで人の生活や文化がどう変わるかを研究するゼミにいました。そこでUIやテックのトレンドを勉強したり、ワークショップをやったりしていたんです。その後に、モノの設計やUIに興味を持って。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズに留学。そこでは普通のプロダクトデザインをやっていました。そして、日本に戻ってきたころにiPhoneが出たのですが、iPhoneのアプリケーションは、今までのパソコンのそれと全く違いました。日々触れて、毎日起動してと、人間とすごく密なアプリが増えていくのを見て、これは面白いと強く意識したんです。
――学生時代に強く意識していたことはどんなことでしょうか。
つくってなんぼ、手を動かしてなんぼ、行動してなんぼ、という意識があったかな。コードもいっぱい書いたし、サイトもいっぱいつくりました。大学生になって初めてインターネットを触りましたが、何かをつくって出せば、世界から反応が返ってくる。そういうことが始まった時代だったので。
「何やりたいんだっけ?」を忘れない
――UIデザインにおいては、どこから着想を得ているのでしょうか。
半分は今までの仕事や書籍、リサーチなどから学んできたことです。あと半分は、肌感覚というか、あり方というか、生き様というか。お金を稼ぐというビジネス面のサクセスと、自分自身のあり方が両立できるかというところは肌感覚なんです。つまり、「自分は何やりたいんだっけ?」を忘れないでいられるかということですね。
――その肌感覚を鍛えるためにはどうしたらいいのでしょうか。
僕のオススメは、ゲームやアプリ、ハンドメイドのなんでもいいんだけど、自分でつくって、自分で売ってみること。自分がつくったものが売れたかどうか、その結果を知ってるかどうかでデザイナーの性質が変わってくると思います。自分でお金と時間を使って、血を吐きながらつくって売るということを一度やると、楽しさや正しさ、やることの意味と金銭面でのバランスを取ることが大事だとわかる。やりたいこと、意味のあることをやらないとだめだけれど、それ続けるためには燃料としてお金が必要で、そのためにはそれなりにビジネス的に成功しないといけないというのが肌感覚です。
目的と手段がマッチしていれば幸せになれる
――深津さんが考える良いデザインとはどういうものですか。
デザインの意味を、僕は「造形」ではなく「仕組み」と考えているので、回らないものが回るようになるのが良いデザインだと思います。ビジュアル的なデザイン要素は手段レイヤーの話なんです。美しい造形をつくるのが目的なのか、美しい造形で別な目的を解決したいという話なのかで全然違ってくる。目的と手段がマッチすれば幸せになれるし、目的と手段がマッチしないと幸せになれない。僕自身の話をすると、触れなかったものが触れる、見られなかったものが見られる、届かなかったものが届くみたいのが自分にとっての目的レイヤーなので、そこに到達するための手段レイヤーとしてUX・UIデザイナーになったんです。
――テクノロジーが急激に進化している今、デザイナーはどういう立ち位置で活動すればいいと思いますか。
テクノロジーは道具としては関係あるけれど、結局自分が何をつくっていのるかをどう意識するかが大事だと思います。自分がつくっているのが画面なのか、レイアウトなのか、アプリ、サービス、コミュニティ、文化、記事なのか。目的をはっきりさせること。アプリをつくっているんだったらアプリのデザインがあるし、文化や社会運営でもそれに応じてつくるものがある。何をつくりたいかによって、やらなきゃいけないポイントが全然違ってくるんです。
視点の数を増やすこと
――これからデザイナーを目指す学生にアドバイスをお願いします。
デザインにおいては、お金サイドとクリエイティブサイドの両方が成立して初めてエンジンが回るんだけれど、みんな片方に突っ走ることが多いので、両方やるのが大事だよってこと。人からお金をもらってやるのと、自分でお金を払ってやるのでは全然違うので、学生のうちに自腹ででかいチャレンジをやっておくといいんじゃないかな。学生のうちなら貯金の大半で勝負というのもしやすいけど、年をとるほど難しくなる。自分の好きなものつくるのではなくて、人に欲しくさせるにはどうしたらいいか、存在を知ってもらうにはどうしたらいいかとか、周辺全部を考えなければいけない。
そうして全部を経験した後に自分の専門に戻ってくれば、自分だけでは持てない視点がいっぱい持てるようになります。マーケティングやテック、メディアの人と会話ができるようになって、いろんな立場の人の意見や考えを集積すればするほど、自分の手技だけで生きている人とは全然違うポジションになっていくと思います。
そして、デザイナーで最も重要なのは視点の数だと思います。デッサンとか学校の課題と一緒です。エスキースをいっぱい描いたりとか、モックアップ何個もつくるのと同じことをやればいい。最初に思いついたひとつのアイデアだけで突撃すると、なんか材料が足りなかったり、途中で欠陥が見つかったりする。ずっとスケッチだけやっていると、課題が間に合わなかったりする。社会にいても同様で、人生も同じだと思うんです。リサーチして人生のモックアップを10個くらいつくって、仮説検証して、当たったもの楽しかったものを採用すればいい。最初にエスキースをいっぱい描いて、比率測って触って、近づいたり、離れたり、何度も消したりしながら、大きなバランスをとってから、細部を描いていくということを人生のスケールでやれば、上手くいくんじゃないかな。(インタビュー・文・写真/首都大学東京インダストリアルアート学域 阿山 航、石曽根奏子、伊藤ももこ、櫻井 蒼、髙橋詩織梨、富永茉衣、仲西慶晃、福山貴広、鷲田恭嘉)
深津貴之/1979年生まれ。THE GUILD代表。ブログ「fladdict.net」の運営や日経新聞電子版アプリのリニューアルにおける基礎設計と監修、日本最大のハンドメイドマーケットminneのスマホUL顧問、ピースオブケイクCXOなど、多岐にわたる活動を展開している。
https://theguild.jp