水戸岡鋭治のキャラクター路面電車「チャギントン」、岡山で運行!

▲ブルースター号。 目は運転席の窓。目玉は窓のシェードなので、運転時は外されるが、最後部のシェードはおろして運転する予定だ。

アニメのキャラクターの電気機関車が 路面電車になった!

「なんてこった!」「レッツライド」は英国の子ども向けテレビアニメ「チャギントン」に出てくる電気機関車を擬人化したキャラクター、ブルースターとウィルソンの口癖だ。ふたりのセリフは、街でこの路面電車に出遭った人も思わず口にしてしまいそうだ。

両備グループの一企業で、岡山市内の路面電車やバスを運行する岡山電気軌道は、青と黄色の顔のブルースターと赤い顔のウィルソンを連結した本物の電車をつくってしまった。

「道楽って言われています」と両備ホールディングス代表取締役副社長の松田敏之は笑う。総工費は5億円。通常の車両の約2倍の費用を投じ、7年前から構想を練り、製造に4年の歳月をかけて完成した。「平米あたりの製造コストを考えるとおそらく世界でもっとも高価な路面電車だと思います」。

松田の思いを形にしたのは、岡山出身で車両デザインの巨匠、水戸岡鋭治。水戸岡がすでに手がけ、現在走行しているMOMO2(1011号)をベース車両に、鉄道車両・路面電車のメーカーである新潟トランシス社と九州艤装が製造を担当した。

アニメの世界から飛び出してきたかのような、鮮やかな青、黄、赤のカラーリング。車体前面の丸い鼻は、熟練の職人が鉄板を叩き出して生み出した。FRP成形などでは出せないしっかりとした重量感があり、遊園地のライドとは違う、本物の「電車」としての迫力がある。実際実物を目の当たりにすると、電車に命を吹き込んだかのよう。ブルースターのつぶらな瞳を見つめていると、大人でも情がわいてくるのが、なんとも不思議だ。

▲車庫に置かれたウィルソン号。ブルースターの最後尾にまわると、このように赤い顔のウィルソンが現れる。

しかし、チャギントン電車には単なる「道楽」では終わらない、実はもっと壮大な構想が隠されている。それは、「キャラクター電車が走る街ではなく、岡山の街自体を乗り物のテーマパークにしたい」という考えだ。

地方公共交通を問い直す

松田の父は、和歌山電鉄貴志駅に猫の駅長「たま」を任命し、地方公共交通の救世主とも言われる小嶋光信。両備グループを率いる代表兼CEOの小嶋は、「電車と街づくりはセットなんです」と語る。「地方公共交通が消滅すると、地方自治体が消滅する。地方自治体が消滅すると、そこに残るのは人の住まない土地だけです。私たちのような地方公共交通は、いかに効率よく旅客を運ぶかということでなく、どうやって電車やバスに乗ってもらうかということを常に考えなくてはならないのです」。

人口は70万人を超え、しかも過疎どころか増加傾向にある岡山市にありながら、発せられた小嶋の言葉から、現在の日本の地方都市が置かれている厳しい状況が窺い知れる。「岡山では両備グループが、電車はすべて、バスは73%、タクシー29%を走らせています。それなので、大都会とは違って街全体の交通を楽しいデザインにすることが可能です。乗り物に乗るために岡山に行きたいと、世界中から思われるような街を目指しています」。

▲通常の路面電車より狭く高い位置にある運転席。死角となる部分が増えるため、モニターで視界を補う。

2019年3月16日から運行を開始する予約受け付けのちらしには、「さあ! 岡山に行こう!」と記されている。貸し切りでミュージアム入館料、路面電車1日乗り放題料金が含まれるとはいえ、休日大人3,500円の料金は、通常の片道運賃100円〜140円に比べると割高な気がするが、3カ月先まで予約はすでにいっぱいの人気だそうだ。電車は岡山駅前を中心に、ミュージアムのある東山、岡山市役所方面にある清輝橋を行ったり来たりする。

▲アニメには出てこない電車内部。水戸岡ワールドが広がっている。貸し切り、土足禁止の運行を予定しているので、電車内を自由に動きまわれるという、子どもにはまさに夢のような世界が実現する。

「チャギントン」は、キャラクターの名前ではない。電車と人間が一緒に暮らす街の名前だ。1両の路面電車だけには終わらない、チャギントンのような街が、ここ岡山で、本当に実現するかもしれない。文/編集部・辻村亮子

本記事はデザイン誌「AXIS」198号「鉄道みらい」からの転載です。「AXIS」198号「鉄道みらい」では、チャギントンの他、デザインで魅せる日本のローカル線を掲載しています。

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