「Youはどうしてニッポンのインハウスデザイナーに?」
日本で働く外国人デザイナー7名の視点


日本で働く外国人インハウスデザイナーの目に、国内メーカーのデザイン組織はどう見えているのか?日本人ではわからないその特徴を、各メーカーの外国人デザイナーたちに語ってもらった。すると、これからのニッポンのインハウスデザインが採るべき道が見えてきた。




日本とその文化への興味がデザイナーたちを惹きつける

— 現在の肩書きとお仕事の内容、そして、日本でインハウスデザイナーの道を選ばれた理由をお話しください。

増田ブルーノ 竹中工務店の東京本店設計部で建築設計の仕事をしています。集合住宅のデザインチームで個人住宅や高級住宅を手がけていて、免震構造や金具のデザインなどを実践で学んでいます。仙台で2019年に竣工する、日本初の木造混構造10階建集合住宅にも関わりました。日本に来た理由は、私は日本のルーツも持ってますので日本とその文化についてより深く知りたかったのと、仕事のかたわら日本の建築を勉強したいと思ったためです。

ブライアン・ブリガム オムロンのUXグループでシニアデザイナーをしています。新製品を考える初期段階から携わる仕事です。工業デザイナーとして働いた後に、デザインストラテジーの修士号を取得し、卒業後はイノベーションコンサルティングファームで数年働いていました。TEDトーク「パワー・オブ・タイムオフ」に倣い、来日当初は7年働いて1年休むという生き方を実践しようと思っていました。しかし現実にはなかなか難しく、京都での暮らしやヘルスケアの仕事に憧れてオムロンを選びました。

白 鍾國(ペク・ジョングク) ホンダのデザイン室でクルマの外装デザインを担当しています。大学時代に工業デザインを専攻しましたが、モビリティに興味があって、クルマだけでなく一輪車(ユニカブ)から飛行機(ホンダジェット)までつくっているホンダであれば人の役に立つユニークなモビリティをデザインできると考えたのです。実際に、ロボットを含めてさまざまなプロジェクトに関わることができ、楽しく働いています。困ったときに同僚が助けてくれたり、見えない部分で支えてくれる日本人の国民性が、自分にはとても合っています。

エンリコ・ベルジェーゼ パナソニックのクッキングデザイン部でシニアプロダクトデザイナーをしています。母国イタリアで建築と工業デザインを、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)でプロダクトデザインを学びました。その際に才能ある日本人デザイナーたちと出会い、日本での仕事にチャレンジしてみようと思ったのです。家電から住宅まで幅広く手がけているパナソニックならば、自分が学んだことをすべて活かせると考えました。

ジェンティル・ティボー 三菱電機で車載機器のデザインをしています。生まれはフランスで、ミラノ工科大学とアアルト大学(修士)でデザインを学びました。学生時代に千葉大学の教授に出会って同大学でデザインマネジメントを学び、インターンシップ先が三菱電機でした。日本の文化に興味があり、他国の言語を学ぶことが好きだったのも理由のひとつです。三菱電機は、雰囲気も人もとても気に入っていますし、コンセプトから製造まで、デザインのプロセスをすべて学びたいと考えていた私にぴったりでした。

ダドーネ・アレサンドロ 同じく三菱電機で大型家電のデザインをしています。イタリアのトリノでデザインとビジュアルコミュニケーションで学士号を取得し、その後ミラノでデザインエンジニアリングの修士号を取りました。その間のインターンシップの一環で、日本に来る機会を得たのです。いつかは海外で自分を試してみるつもりでしたが、日本は想定外でした。見知らぬ国で、言葉の問題もあるので、最初は行くのが怖いとさえ思ったほどです。しかし、来てみるととても快適で、しばらくの間、プロダクトデザイナーとして働いたものの、より深い知識の必要性を感じて、三菱電機からの誘いに応じました。冷蔵庫、テレビ、オーディオ製品などを手がけていますが、日本のマーケットはとても特殊なので、もっと知りたいと思っています。

ハリー・フェアムーレン キヤノンでインタラクションデザイナーとして働いています。母国のオランダで工業デザインを学び、RCAのデザインインタラクションズで勉強をしました。その後インターンシップで来日し、京都の会社に勤めた後、キヤノンに入りました。学生時代に同社のカメラを愛用していたことが入社を決めた理由のひとつです。キヤノンでは通常の製品デザインとアドバンスデザインのプロジェクトを並行して行える点や、在籍するさまざまな分野のデザイナーと交流できることに魅力を感じています。

テクノロジー+スタイリング vs. ピープル×インサイト

— 日本企業はデザイナーにとって働きやすい職場でしょうか? また、デザインを行ううえで、学校で学んだことと実社会とのギャップなどを感じていますか?

増田(竹中) 学生の頃はプレゼンテーションの力がモノを言うようなところがありましたが、実社会では、現実につくることができなければ意味がありません。私が設計事務所ではなく、ゼネコンの設計部を選んだのも、基本設計から施工までをコントロールして責任が持てるからです。また、日本の協力会社は知識が豊富で、こちらの意図を汲みとって仕上げてくれます。一方で、すべての問題点がクリアにならないと次のステップに進まない点には、もどかしさを感じます。スペインでは、何事もまず始めてみて、走りながら考えることが一般的です。

ブライアン(オムロン) 日本企業の多くがエンジニアリング寄りの文化だと感じます。「何をつくるか」よりも「つくり方」への意識が強い。アメリカではすでにマーケティング寄りにシフトしていて、デザインリサーチやヒューマンセンタードデザインを通じて、デザインの重要性が組織内で高まっています。オムロンでも、デザインの価値を社内に示すために開発の初期段階からデザインが関われるような取り組みをしてきました。日本はこれからが移行期です。

▲増田ブルーノ(竹中工務店)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

白(本田技研) 大学時代には、スタイリング重視で新しくてかっこいいスケッチを描くことを目指していました。しかし、企業に入ってみると、最初はスケッチなど描かせてもらえません。何よりもコンセプトを大切にして、そこに1年はかけるからです。コンセプトがブレてしまうとクルマはつくれないですし、学生時代とは違って、ひとつのプロジェクトで何千人もの人々が動いていて、自分が描いた線1本で影響が出てしまうので、大きな責任を感じます。もちろん、自分がデザインしたクルマを世界の街やモーターショーで見るようなことは学生ではあり得ないので、満足感も大きいです。ビジネスですからお金も重要ですが、ホンダは、フォー・ヒューマン。利益よりも人のために良いものをつくるという意識が強いので、デザイナーにとっても魅力的な会社だと思います。

エンリコ(パナソニック) 学生時代にはデザインという共通言語で周囲とコミュニケーションがとれましたが、企業に入ると、異なる部署や立場の人に理解してもらえる言葉を身につけなければなりません。しかも、会議のなかでデザイナーに与えられる時間はわずかですから、ワンチャンスでしっかりアピールする必要があります。これは、インハウスのデザイナーにとって最大のチャレンジです。また、ヨーロッパでは提案する人の思いの強さがデザインや企画の採用につながりますが、日本では物事を考えるベースとなったデータが重視される傾向にあります。私自身は、一方的に周囲を説得しようとせず、自分の提案に対して他の部署がどのように貢献できるかを考えてもらえるように促したところ、皆が喜んで議論に参加するようになりました。このことは、大きな収穫でした。

ジェンティル(三菱電機・車載情報機器) ヨーロッパのデザイン傾向は、国ごとに異なっていて、例えば、イタリアのミラノ工科大学では企業からも講師が招かれ、学生は技術志向のデザイン開発にも対応できます。一方で、イギリスはサービスデザインが中心で社会学者による授業があったり、フィンランドではデザイナーを核としてビジネス戦略を決める企業が多く、学生にもマーケットの価値を学ばせるといった具合です。日本はひとつの企業のなかに異なる分野の製品開発を行う複数の部署があって、予算もそれぞれの製造部門から出ていたりするので、技術志向のデザインになりがちですが、日本の企業構造に対応した教育を行える大学がヨーロッパには少ないと感じています。

▲ブライアン・ブリガム(オムロン ヘルスケア)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

ダドーネ(三菱電機・大型家電) 大学生は、当然ながら、実際の企業における仕事を理解できるほど成熟していないので、デザイン提案といってもビジョンに過ぎません。大企業の製品デザインではディテールにこだわりますが、大学ではそこまで重視されないわけです。また、製品の差別化という意味では、デザイン以外の要素も絡みます。技術者やセールス担当者が、そのアイデアを持っている場合もあるのです。デザイナーがそういう人々と出会えたときに、マジックが起こります。さらに、インハウスデザイナーにとっては企業の戦略を理解することが重要ですが、これも学生時代には意識されることのない要素と言えるでしょう。

ハリー(キヤノン) 大学で学ぶなかで私が感じたのは、デザインにおけるユーザーの重要性です。どんな望みや夢があるのかをくみ取ることが、デザインを始める前に求められます。ところが、日本を訪れてわかったのは、人々の考え方や社会との関わり方がオランダと大きく異なり、それがデザインにも影響していること。オランダでは、街に出て人々に話を聞いて意見を集めることが楽に行えますが、日本では突然街中の一般の人々に話しかけること自体が難しいといった違いを感じました。また、大企業になるといろいろな手続きを踏まなければならないこともあります。デザイン提案を行う前に、あらかじめ関係者の理解を得ておくことが重要ということもわかりました。

▲白 鍾國(本田技研研究所)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

ものづくりの伝統とスピード感のバランスで国際競争力を

— 日本のインハウスデザインに関して、今後の展望や期待することをお聞かせください。

増田(竹中) 世界に先んじてチャレンジすることが必要だと思います。そのためには、海外での売り方やアピールの仕方が重要でフレキシブルに考えるべきですが、同時に品質は守りたいですね。

ブライアン(オムロン) 企業におけるデザインの役割や重要性がより高まっていってほしいですね。さまざまなデザインリサーチの手法をとり入れつつ、伝統的なクラフトの技術や洗練されたディテールへのこだわりも持ち続ける。その両方で前進できれば。

▲エンリコ・ベルジェーゼ(パナソニックアプライアンス社)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

白(本田技研) 学生だった頃と比べて、今の日本のデザインには驚きがなくなったと感じます。考えてばかりで、行動に移せないのかもしれません。まだまだ技術もポテンシャルもあると思うので、一歩踏み出して、他に先んじてやることが必要です。

エンリコ(パナソニック) アップルのiPodのデザインには、新潟県燕市の金属磨きの技が不可欠でした。日本のクラフトには、他が真似できない技術が詰まっています。「メイド・イン・ジャパン」をもっとグローバルブランドとして育てるべきです。ちょうどデザインの世界における「メイド・イン・イタリー」のようにね。ものづくりの心を忘れずに新しい製品に活かしていけば、世界に通用するデザインが生まれるでしょう。

▲ジェンティル・ティボー(三菱電機)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

ジェンティル(三菱電機・車載情報機器) 自分たちが価値があると思うものを見極めて、それを追求する姿勢を保つことが大切だと感じます。そのためには、企業だけでなく、政府も積極的にそうした考え方ができる人たちを育成できる教育を推進する必要があるでしょう。

ダドーネ(三菱電機・大型家電) 単に技術的に進んだ製品をつくるのではなく、ユーザーとの強いコネクションが生まれるようなデザインが求められます。日本人は感受性が豊かなので、クラフツマンシップを活かして伝統的な価値観などを盛り込む正しい方法を見つけることで、そうしたコネクションを確立できるはずです。

▲ダドーネ・アレサンドロ(三菱電機)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa

ハリー(キヤノン) 新たなユーザーニーズへの対応という観点で見ると、日本は世界に後れをとっていると感じます。リサーチの結果を得て、半年から長くても1年以内には製品化することが理想です。長く考えるより、早めに簡単なプロトタイプをつくって、フィードバックを聞き、より良いものにしていくことが大切だと思います。日本の教育では、失敗しない方法を教えられているように感じますが、失敗を恐れず、そこから学ぶことを教育でも推奨するようにしていくことが重要ではないでしょうか。

▲ハリー・フェアムーレン(キヤノン)©宇田川俊之/Toshiyuki Udagawa




今回の座談会では、外国人デザイナーの目を通じて日本の企業風土の良い面や課題が明確に浮かび上がった。参加いただいた皆さん、ありがとうございました。End




本記事はデザイン誌「AXIS」197号「変わる、ニッポンのインハウス」からの転載です。

198号「鉄道みらい」では、鉄道をテーマにした外国人デザイナー座談会を掲載しています。