オカムラとジウジアーロ・デザインが新たなオフィスチェアを発表
美しさと機能性、カスタマイズ性を備えた「フィノラ」は2019年4月に発売

▲ジウジアーロ・デザインのマシモ・ボレーリ(左)とニコラ・グエルフォ。オカムラとジウジアーロ・デザインが共に開発したオフィスチェアは、2002年の「コンテッサ」に始まり、今回が6作目となる。

ジウジアーロ・デザインとのコラボレーションによって、オカムラが新たに発表した「フィノラ」は、オフィス空間の変容を踏まえ、快適さに加えて軽快な美しさと先進的なカスタマイズ性を備えている。どのようにこの椅子が生まれたのか、オカムラのフィノラ開発メンバーとジウジアーロ・デザインのニコラ・グエルフォに話を聞いた。

変わるオフィス、変わる椅子

「未来を感じさせ、かつグローバルに愛される椅子」。これは、新しいオフィスチェア「フィノラ」を開発するにあたり、オカムラがイタリアのジウジアーロ・デザインに投げかけたテーマである。ジウジアーロ・デザインでフィノラを担当したデザイナーのニコラ・グエルフォは、こう述べている。「私たちはオフィスチェアに求められるメカニカルな要素をどのようにデザインと融合させるかにフォーカスしました。背もたれと座面下のメカ部との連続性をもたせ、調和がとれた魅力的なシェイプを目指しました」。

彼の言葉の通り、従来のオフィスチェアに比べて、フィノラは椅子全体のスタイリングと多様な機能が一体になっている。柔軟性のあるフレームで構成された背もたれのラインが、座面の下へ続くフレームへと流れ、アームや座面など周囲のフォルムとの統一感を生み出した。どの角度から見ても美しいデザインには、自動車からのインスピレーションも活かされたという。カーデザイナーとして有名なジョルジェット・ジウジアーロが1981年に設立して以来、自動車はジウジアーロ・デザインの原点であり続けているのだ。

▲「フィノラ」のバックビューは、ジウジアーロ・デザインの原点である自動車のフォルムを思わせる。脚部も椅子全体のフォルムに合わせて新たにデザインされた。

座面の高さ、リクライニングの強弱、座面の奥行などを調整するレバー類やそのための機構も、座面の下にすっきりと収まっている。こうしたオフィスチェアが生まれた背景には、近年のワークスタイルの変化がある。フィノラを企画したマーケティング本部の髙橋卓也は、こう説明する。「多くの会社でフリーアドレスが定着し、ひとつの椅子を複数の人々が使うようになってきました。そのため誰が座っても座面などを直感的に調整できるように、操作性を向上する必要があったのです」。

▲「フィノラ」の開発に携わったオカムラの戸塚新平(左)、髙橋卓也(中)、五十嵐 僚(右)。 Photo by Kaori Nishida

広く愛されるデザインを妥協せずに完成させる

同時にフィノラに求められたのは、誰からも愛されるオフィスチェアであることだ。オカムラのオフィスチェアのなかで、フィノラは高性能と汎用性を両立する上位モデルと位置づけられる。また現在はオフィスのインテリアが多様化し、使用されるマテリアルの幅が増えてきた。同社のデザイン室長を務める五十嵐 僚は語る。「当初、ジウジアーロ・デザインから提出された複数の案からこのデザインを選んだのも、個性がありながら奇抜でなく、広く愛され得るものだったからです。彼らのイメージを重視しながら、自分たちもチャレンジして最終的な製品に仕上げたいと考えました」。

そのチャレンジのひとつは、背もたれからアームが伸びるという、オカムラのオフィスチェアでは初めてとなる構造だった。なかでも調整機構が搭載されたアジャストアームタイプが特に難しかったという。アーム部の実用化を担当した戸塚新平は話す。「ジウジアーロ・デザインが特にこだわった部分でもあり、彼らが意図するラインを崩すような妥協はできません。なめらかな動きや十分な強度を確保しつつ、よりコンパクトに美しくまとめるため、設計部門に相談しながら時間をかけて形にしました」。

▲アームはアジャストアーム・固定アーム・アームレス(肘無し)の3タイプ。写真はアジャストアームタイプ。座面はメッシュタイプとクッションタイプがある。ランバーサポートやヘッドレストなどオプションも豊富。 Photo by Kaori Nishida

このアームは、高さ、前後位置、角度、左右位置という4種類の調整が可能。従来の同価格帯のモデルには左右位置調整の機能がなかったが、より座る人の体型に合わせられるように追加した。アーム固定タイプとアームレスのタイプも取り揃えており、それぞれに自然なシルエットとすることもデザインのハードルを上げた。

薄さを強く印象づける背もたれのシンプルさも、これまでのオフィスチェアに比べて際立っている。美しさと強度や生産性のバランスを考慮し、柔軟性のある樹脂を使用することで、多様な姿勢にフィットするようにした。仕事中にスマートフォンやタブレットを使う機会が増え、姿勢も自由になってきたことが背景にある。「背もたれが身体に追従する感覚です。オカムラは働く環境や姿勢の変化に合わせて、それぞれの椅子で最適な座り心地を提案しています」と五十嵐は説明する。

さらに座面のクッションは、足の血流や快適さを考慮して、前側が柔らかく、左右や後部が硬めの異硬度クッションを採用した。見た目には表れない部分にも、性能を高める工夫を盛り込んでいるのだ。

オフィスの未来を指し示す4つのキーワード

もうひとつのフィノラの特徴に、カスタマイズのオプションを豊富にした点がある。象徴的なのは、背もたれの下部に装着されたカスタムパネルだろう。背面のフレームを覆うこのパネルは、メッキ、ブラック、ホワイトの3種類から選択でき、特注仕様も可能だ。自動車の装飾パーツを連想させる立体的なフォルムも目を引く。髙橋は語る。「オフィスチェアのカスタマイズは、今まではフレームの色と張り地の色くらいでしたが、カスタムパネルによって幅広い展開が可能になりました。これもわれわれの意向を汲んだジウジアーロ・デザインからの提案でした」。

▲写真左の背面のカスタムパネルはメッキ、ブラック、ホワイトの3種類から選択できるほか、中央のような特注仕様にも対応する。張り地は、標準14色のほかデンマークのクヴァドラ社など上質なクロスも選べる。

ニコラは、フィノラをデザインするのに際して「P」で始まる4つのキーワードがあったという。「Personal/カスタマイズできること」「Precious/細部までこだわったフォルム、機能、快適さ」「Pure/美しく無駄のないフォルム」「Powerful/軽さを表現しながら丈夫で高性能であること」である。それぞれが普遍的な価値を持つとともに、オフィスにふさわしいデザインの未来を指し示している。

「オカムラは社内でデザインする製品もたくさんありますが、ジウジアーロ・デザインに求めるのは特別に新しい何かです」と五十嵐は話す。ふたつの企業の相互作用から生まれたフィノラは、万人のためのグッドデザインとして、これから多くのオフィスに受け入れられていくだろう。(文/土田貴宏)End

▲オカムラのフィノラ開発メンバーはイタリア・トリノのジウジアーロ・デザインを何度も訪れ、試作品のチェックや現地での修正作業を行った。

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※この記事は「AXIS」198号に掲載された株式会社オカムラとAXISの企画記事の転載です。