デザインの価値を知るのは、デザイナーだけとは限らない。中でも、デザインとの強い結びつきを活かす「料理人」の考えには、学ぶところが多い。一皿の美食体験だけにとどまらず、シェフの感覚が強く反映される店舗、そこで過ごす時間に至るまで、あらゆる細部に彼らのデザインが宿る。
優れた料理人が持つデザインへの眼差しを知り、エッセンスを学ぶための最上の経験は、店へ行き、味わうことに他ならない。だが、そもそも「デザイン」と「料理」の関係性を考える素材が、まだこの空間には足らないかもしれない。
その呼び水となるべく、Webマガジン「AXIS」で本記事からスタートする新連載「料理人によるデザインーリアレンジ・レシピ」は、各地で腕を奮う料理人へのインタビューと、彼らのスペシャリテを自宅でも楽しめるようにリアレンジしてもらったレシピを紹介する。併せて感じとることで、デザインへの思考を深めるひと時になるはずだ。
初回は、東京・広尾「81 (Eightyone)」の永島健志を訪ねた。
“Memento Mori”、そして“image of death”と店のコンセプト文にも記されているように、黒を基調とした店内は、単なるコース料理を堪能する場ではない。非日常的な体験を五感で捉え、他の生命を「食べる」ことで我々が生きていることを認識する。「フードエクスペリエンス・デザイン」こそが、81の手がける本質にある。
「僕らは最高の食体験を届けるために何が出来るのか、常に考えています。食体験を作り上げるクリエイターとして、81は僕らが磨き続けているインスイタレーション・アートとしての作品です。だからこそ、81は店名というよりは、プロジェクトユニットであり、アクションの名前であり、概念の名前でもある。仮に店が潰れようが、81は死なない。食との向き合い方を考える、小さな革命なんです」
永島健志はデザインの最大の価値は「視点を変えること」だと言う。価値観や概念に角度からスポットライトを当てることで、「伝えたいこと」をより伝えるためのメソッドなのだ。
だからこそ、料理の先にある意味や意図こそが大切になる。
今回、リアレンジしてくれた「カルボナーラ」は、以前に81のスペシャリテを飾っていたものを、さらに作りやすくしたものだ。たしかにカルボナーラの定番材料だが、このチーズと卵の見た目から「鳥の巣」はたやすく想像できるが、まさに生命を表現した一品だ。現在ではさらにアップデートが加わり、このスペシャリテも新しいかたちとなった。
「ひとつのメッセージ性から、いかにストーリーテリングするか。僕らは時間と空間を提供するのではなく、お客様と共創していると思っています。それができなければレストランの未来はない。ただ、これは何百年も前に千利休が言っていることでもある。それを分解し、再構築しているんです。本質を見据えた上で、パーツを組み立て直しているのに近い。茶の一服のために存在している懐石を、リコンストラクションしたらどうなるのか?」
フルオープンのキッチンで、自らがデザインしたコックコートをまとったシェフたちと、所作ひとつに至るまで気を払いながら、81という作品を作り上げる。「僕らの表面だけ真似る店やシェフが増えてきたけれけど、本質を食っていなければエネルギーは生まれず、人を感動させたり心を動かしたりはできない」と永島健志は言う。
「本質は何か」を深く彫り、それを伝えるために削ぎ落とし、いかにデザインするのか。永島健志は「まさにキャッチコピーにも似ている。商品の説明をずらりと並べるよりも、鋭い一言で本質を表す。それが言葉のデザインであり、僕らはそれを料理でやっているんです」
81で過ごす、五感すべてで触れる体験。それは食だけでなく、デザインとの向き合い方を、あらためて突きつけてくれる時間になるだろう。
今回の料理「カルボナーラ」
オリジナルレシピ:【新カルボナーラ】
・パンチェッタを炒めて、そこにチキンブイヨン、クリームを入れ、一度沸騰させて火を止めて漉す。
・そこに卵を入れ、漉して、器に入れて蒸し上げる。
・できたものにパンチェッタを炒めたもの、卵黄、黒胡椒を振って完成。
リアレンジレシピ:【旧カルボナーラ】
・パンチェッタを炒め、クリームを入れ、馴染ませてソースとする。
・器にソースを盛り、パルミジャーノを削る。
・半熟卵を乗せ、黒胡椒を振って完成。
*ポイントは半熟卵。沸騰したお湯に容量1%分の塩を入れ、黄身が寄らないようにスプーンなどで回しながら茹でる。使う卵にもよるが、おおよそ4分半ほどで茹で上がる。
81 (Eightyone)
- 場所
- 東京都港区西麻布4-21-2 コートヤードHIROO
- 営業時間(2部制)
- 1st 5:30pm Open, 6:00pm Start
2nd 8:30pm Open, 9:00pm Start - 詳細
- http://eightyone.tokyo