前回は、台南のデザイナーズホテル「ザ・プレイス」の室内デザインを中心にまとめたが、今回はその設備や展示に目を向けてみよう。
このホテルの特徴のひとつで、フロアを贅沢に使っていると感じたのが、上層の3フロアに設けられたギャラリーエリアだ。エレベーターを降りると、間口、奥行き共に10m前後あるスペースがそのために使われており、例えば、宿泊時の8階の展示作品は、「Room883」というものだった。
一見、ホテルのモデルルームのような設えの「予約できない部屋」としてつくられており、宿泊客はいつでも訪れて、くつろげるようになっている。そして、ホテルスタッフやシーツをクリーニングする地元の業者が働く様子などで構成されたビデオインスタレーションを観ることができる。
作者のウー・シャンリンの意図は、ホテルの快適な環境をつくり上げるために、スタッフや地場産業の関わりを宿泊者に意識してもらうことにあり、日本ではあえて見せずにいる舞台裏にスポットをあてた作品と言える。
同様に、別の階のギャラリーでは、刺繍が施された写真が多数展示されており、こちらは台湾の宗教フェスティバルをモチーフにした「The Believers」というシリーズだ。クオ-チュン・チウという作者は、ニューヨーク大学で写真を学び、台湾文化をさまざまな角度から切り取った作品を日本や中国でも発表している。
「ザ・プレイス」が台南紡織と深い関わりを持っていることに前回触れたが、ギャラリーの作品もすべて糸や繊維、布に関係したもので、本業を意識したキュレーションが行われていることが感じられる。
また、宿泊用の部屋のいくつかは、さまざまなアーティストにプロデュースを依頼したアートルームとなっており、残念ながら中を覗くことは叶わなかったものの、ドアのデコレーションとその脇にある説明によって、どのような雰囲気かをうかがい知ることができた。
各部屋のドアにも小さくルームナンバーが付いているが、それとは別に、廊下を歩きながらでも確認しやすいように、壁に行灯風の番号表示も埋め込まれている。木材や金網を組みわせてつくられた凝ったもので、殺風景になりがちな廊下に情緒をもたらす存在だ。
エレベーターは、台湾三菱電機製のものが導入されていた。よく見ると、樹脂製の階数表示パネルのアクセントとして建築の青図的なグラフィックスが使われており、バックライトで浮かび上がるさまが美しい。
そして、ホテルには土産物コーナーが付き物だが、ザ・プレイスの場合には、フロント近くのオープンスペースに置かれた展示台と、その背後の天井まで届く棚がその役目を果たしている。そこに並ぶ製品も、AXISビル内のデザインショップ、リビング・モティーフに置かれていても不思議ではないようなセンスの良いアイテムばかりで、特に、ホテル内のレストランでも使われているカトラリーが気になった。
それは、ナイフ、フォーク、スプーンの側に切れ込みがあり、紙ナプキン立てを兼用するスタンドに引っ掛けておけるようになっているというもの。シンプルだが、合理的かつ衛生的なアイデアと言える。
このように、ザ・プレイスにはさまざまな工夫が詰まっており、改めて台南を訪れることがあれば、再度投宿しても良いと思わせる魅力を秘めていた。
次回は、台北の中心部にあるデザイナーズホテル「アンバ台北中山」を紹介する。