なぜそこまで予定を詰め込むのか
頻繁に地方のつくり手を訪ねるひとり問屋
2018年 ジタバタ出張記

▲思えば、11月末から、怒涛の年末出張は始まっていた。秋田駅にて。

年中ジタバタ動いているのだが、自分で忙しくしているのだ、と平成最後の師走に自覚した。今年は、山形エクセレントデザインに出品した奨励企業のステップアップを目的とした「ブラッシュアップスクール」という企業講座の講師として、山形県工業技術センターに1年通った。山形県工業技術センターとは山形エクセレントデザインの審査員として2013年に呼ばれてからの縁だ。その最後の回が12月11日に行われることになり、まず、山形出張を決めていた。

▲こんな感じで、講義は開かれる。会場は技術センター併設の「ものラボ」 。

お恥ずかしい話だが、私は朝が苦手だ。苦手がすぎて、40代までは起きられないから徹夜して、移動中に睡眠を摂って、どうにかやり過ごしてきた。だが50代になり、そのごまかしがいよいよ効かなくなった。切迫感が足りないのだろうが、一度布団に入ると6時はおろか、7時でも、どんな目覚ましでも起きない。眠りを浅くしたら、どうにか起きられるはず……と、板の間で寝たりしたが、そうすると安眠できてないので、睡眠不足となり、結局、睡魔に襲われ仕事が全うできない。結果、去年から、日帰りで済む出張も前乗りすることにしている。もちろん自腹だが背に腹はかえられぬ。

山形の出張が決まった後に、新潟・燕の出張がたまたま前日の10日に決まった。今年3月にiF Design Awardのレポートでご紹介した「conte」 の新しいアイテムのプロジェクトの打ち合わせが目的だ。山形も燕も日帰りできるが、とにかく早起きは避けたい。そして、燕から大宮を通って、東京に戻った翌日、大宮を経由して山形に向かうのは虚しい。そこで、山形の宿をキャンセルして、大宮のホテルを予約した。と、なると、今度は燕も前泊することになるのだが、せっかくならば、と新潟市内の作家訪問を決めた。2018年12月20日〜2019年1月7日まで、ハイアットリージェンシー京都の1階にあるギャラリー「セレクトショップ京」の企画展に参加していただく、卵殻細工の泉 健太郎さんの工房訪問はタイミングを逸していたのでちょうど良い。泉さんの工房訪問は、午後をお願いする。午後ならば、無理せずに起きて間に合う。

▲泉健太郎さんの卵殻細工の文鎮。本当に美しい仕事をされている。

さらに、燕のconteの打ち合わせ会場の一菱金属の徒歩圏にある、鎚起銅器の富貴堂さんには、連載している「料理通信」の「日常に使いたい日本の器と道具」の取材もしたかったことを思い出す。そこで10日はconteの打ち合わせ前に、富貴堂さんお邪魔することになる。

▲新潟鎚起銅器の富貴堂さん。言葉で説明しにくいところは、丁寧にデモンストレーションをして見せてくださった。

▲新潟・燕のステンレス工場は分業で成り立っている。今回は、カトラリーの一作業を担う工場にお邪魔した。

こうしてあれよあれよという間に、年末出張は山形の講師の仕事だけのつもりが、2泊3日、4件の用事となった。その10日後、前述の「セレクトショップ京」の設営準備のために京都に向かう。

久々の京都を楽しむ予定だったが、東京と京都の間にある四日市で開催中の「萬古焼の粋」 という、萬古焼の始祖である沼波弄山の生誕300年を記念した企画展を見に行くことにした。

▲「萬古焼の粋」展は陶芸家の内田鋼一さんが監修。建物全部に目を配った構成が素晴らしかった。好評につき、2019年2月3日まで会期延長が決まった。

京都はまた、撤収の際にゆっくり回ろう、と思い、撤収の日の宿を取ろうとしたところ、話題のホテル「ENSO ANGO」が取れた。泊まるのは、陶芸家でありギャラリー「ギャルリももぐさ」オーナーである安藤雅信さんが手がけた部屋だ。四日市と多治見はちょっと離れているが、東京から行くよりは近い。せっかくだから、宿泊前に安藤さんにお目にかかり、見所を伺おう、ということで、京都から四日市経由で多治見に向かうことにした。これまた、用事が3件に増えた。

▲「ギャルりももぐさ」を訪ねて安藤さんに伺った話は、また来年。

自分でも読み返して、「慌ただしい」と思う。どうも「ゆっくり」が、性に合わない。「時間貧乏」という言葉を使っている友人がいるのだが、私はまさにそれだ。使える時間は限られている。ケチケチと、くっつけられるだけ用事をくっつけたくなる。その真意は、人に会いたい、現場に行きたい、に尽きる。わざわざアポを取って会ったからこそ聞ける話がある。

展覧会でつくり手に会い、制作物を見たとしても、その人のつくる現場を見ると、また違った発見があり、自分のモノへの理解度が格段に変わる。その実体験があってこそ、問屋という「つなぎ手」として、人にものを紹介ができるのだ。ただ、工房訪問はつくり手の制作の手を止めている、ということは忘れてはいけない。貴重な制作時間に見合うだけのことを、後で返さねば、と自らを戒めながら、アポを取るようにしている。

ひとつの出張が決まると無意識に「ついでにどこを回れるか」を考えているために、ついつい、「移動のしりとりゲーム」を続けてしまう。疲れないか、と聞かれるが、何かを得たり、会った人と今までとは違う関係になれた達成感は充足感につながり、疲れは出ない。おそらく、60過ぎてもこれは変わらないだろう。人には「聞いているだけで目が回る」と、言われながら、楽しんで続けていくと思う。

そんなこんなで、今年もありがとうございました。

2019年は、10年続いている益子での展覧会が仕事始め。旅を伴う仕事で幕を開けるのは自分らしくて、気に入っている。
と、いうことで、来年もよろしくお願いします。

前々回のおまけ》

▲11月24日、25日に開催された第1回アートクラフトフェア竹田。無事に終了。いい会になりました。

日野明子企画展〜円満具足〜


ゆく年、来る年。
カレンダーの最後の一枚が終わり、新しい暦に変わる。
誰もが清々しい気持ちで迎えたいひとときです。
その一ページに加えていただきたい、美しい手仕事をご紹介いたします。
                          (日野 明子)

会期
2018年12月20日(木)~2019年1月7日(月) 最終日15時まで
会場
ハイアットリージェンシー京都 ロビー内
セレクトショップ京
参加作家
泉健太郎(卵殻細工・新潟)
h collection 廣島晴弥 (切子硝子・石川)
大下香仙工房(蒔絵ジュエリー・石川)
大桃沙織(金工ジュエリー・新潟)
素竹庵 佐川岳彦(竹工芸・栃木)
マエストロ貴古(京焼清水焼・京都)
米沢研吾(樺細工・秋田)

「日野商店」開催

会期
2019年1月5日(土)~1月14(月・祝)
会期中休館日:10日(木)
会場
「Loveit!」(旧 tonerico)
〒321-4217 栃木県芳賀郡益子町益子3278−1
詳細
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