マリメッコやARABIAで活躍するデザイナー・石本藤雄
「MUSTAKIVI」はその世界観を堪能できる場

「石本藤雄」、北欧や布のデザインが好きな人なら一度は耳にしたことのある名前ではないだろうか。

彼の手がけた作品は、大胆でシンプル。更に思わず高揚してしまうような色づかいにいつも魅了されてしまう。それでいて、日本での暮らしにも溶け込むデザインに心を掴まれているファンも多い。

石本さんは東京芸術大学にてグラフィックを学び、日本で広告デザイナーを経た後、世界を旅することに。その旅で訪れたフィンランドに留まり、数々の名作を生み出し続けている。

フィンランドでの活躍は言うまでもないかもしれないが、マリメッコのテキスタイルデザイナーとして32年ものあいだ第一線でファブリックを制作。現在は陶磁器メーカー「ARABIA」のアート部門である ARABIA ART DEPARTMENT にてアーティストとして作陶と自分自身に厳しく向き合う毎日だ。

ルーツである愛媛県砥部町とMUSTAKIVI

石本さんの扱う素材は布から陶へ変わっているものの、モチーフは一貫して草花をはじめとした自然にまつわるものが多い。
フィンランドの自然からイメージを得て制作をしているのかと思いきや、自身のルーツは故郷、愛媛県の砥部町であるという。

砥部焼きの産地である障子山の麓で育った石本さん。

子どもの頃を思い返すと、焼き物が辺りに転がっているのが当たり前の風景で、よく登り窯でも遊んでいたそうだ。

デザインを学んだ若い頃は焼き物には殆ど興味がなく、車のような “かっこいいもの” に惹かれていたというが、無意識のうちに石本さんの根幹には焼き物の存在があったのだろう。

そんな故郷である愛媛県に2017年、「MUSTAKIVI(ムスタキビ)」という石本さんの世界観を堪能できる場所がオープンした。

ここは石本さんの監修したショップと茶房、そして地下にはギャラリ-が併設された空間からなる施設だ。茶房スペースでは1974年から2006年までのテキスタイルデザイン、そして今でも新作が生み出されている陶芸作品を楽しむことができる。

地下のギャラリーは石本さんだけではなく、フィンランドや日本で活躍しているテキスタイルデザイナー、愛媛県にまつわるクラフトなど、様々な美を柔軟に紹介する空間となっている。さらにショップでは石本さん自身がプロダクトやパッケージのデザインを手がけた砥部焼きや銘菓などの様々な商品が取り扱われている。

「MUSTAKIVI」はいわば石本さんのデザインを常時体感できるファンにとっては念願の場所なのだ。オープンしてまだ一年ではあるが、石本さんにとっても既に “実家” のような存在だという。

愛媛・京都・東京の3会場にて行われる 石本藤雄展

そんな石本さんの原点と新たな作品を展示する展覧会「石本藤雄展 ー マリメッコの花から陶の実へ ー」が2018年10月27日(土)から石本さんの故郷の愛媛にある愛媛県美術館で開催されている。同展覧会は、2019年の春には京都の細見美術館、そして夏には東京のスパイラルホールを巡回する予定だ。

愛媛県美術館で石本さんの展覧会が行われるのは2013年から実に約5年ぶり。また、全国を巡回する大掛かりな展示をするのは日本で初めてのことだ。ここ5年の間に石本さんの人気は広がりを見せており、今回の展覧会でも更に多くのファンを増やすことだろう。

愛媛・京都・東京の三会場ともに趣向を変え、違った誂えが楽しめる展示となるようだ。

愛媛県美術館での見どころ

それでは、現在開催中の愛媛県美術館での見どころを少しご紹介しよう。

取り合わせの妙

まずは、愛媛県美術館のコレクションとの共演を楽しめる《取り合わせの妙》のコーナーから。

石本さんが最近お気に入りのモチーフのひとつである “冬瓜” 。数年前に初めて対峙したのをきっかけに、気になってよく作っているという。

この冬瓜と組み合わせたのは、松山市生まれの書家・三輪田米山(みわだべいざん)が1897年に書いた「福緑寿」。

石本さんの冬瓜と約120年前の作品である「福緑寿」は、同郷、そして偶然にも互いに77歳の時に製作したということもあってか、時空を超えて作品を瑞々しく引き立てあう。

この他にも数々の愛媛県美術館の所蔵品と石本さんの作品が出合い、新鮮な空間が生まれている。

マリメッコの仕事

また、《マリメッコの仕事》のコーナーでは石本さんのテキスタイルデザインを存分に体感できる。

A4ほどのサイズの紙にデザイン画を あまりに手早く書くので “神風 / カミカゼ” のようだと社内で評されていた石本さん。マリメッコでは300以上ものデザインを手がけてきた。

布を吊り下げた一般的な展示方法に加え、数多くのデザインを楽しめるように布を筒状に吊り下げて見せている空間も印象的だ。石本さんが個人的に所有していた貴重なものも多数展示されている。

テキスタイルで一番重要なのは “色” だと語る石本さんの “色の森” を体感できる空間だ。

また、ここではデザインした当時石本さんの名前は伏せて作られた「onni / 英訳:happy」のテキスタイルも展示されている。

そして、このデザインは、2019年の春にテキスタイルや器などのアイテムとしてマリメッコが復刻する予定とのこと。これがどのようなかたちで商品化されるかを考えながら、展示作品を鑑賞するのも楽しみの一つになるだろう。

現在開催中の愛媛県での石本藤雄展は、愛媛県美術館のほか、砥部町文化会館など3会場は2018年12月16日(日)まで、MUSTAKIVIでは2019年2月11日(月・祝)まで開催される。

フィンランドで生きるということ

最後に、石本さんが1994年にフィンランドの優れたデザイナーを表彰するカイ・フランク賞を受賞した時のポスターをご紹介して締めくくりたい。

こちらは石本さん自身が上は日本の伊勢神宮、下はフィンランドのラップランドを訪れた際に撮影したもの。「上の石は日本に留まっていたらこうなっていただろうなという私、下はフィンランドにいる状態の私」と語る石本さん。

北欧というイメージからくるものだろうか、ほっこりとした印象で語られることも多い石本さんだが、お会いしてみると実直なアーティストという印象を感じる。自分に厳しい石本さんが穏やかにバランスを取っていられる場所としてフィンランドは最適な場所だったのだろう。

石本さんの布を見ると少し自由に、軽やかな気持ちになれるのは、石本さん自身がそのような状態で生きることを試行錯誤しながらも続けているからかもしれない。

石本さんの感覚に近づくことのできる石本藤雄展と「MUSTAKIVI」。是非足を運んでみてほしい。End

「石本藤雄展 MUSTAKIVI 2018-2019」

会場
MUSTAKIVI
愛媛県松山市大街道3丁目2-27 美工社ビル1F&B1
会期
2018年10月27日(土)〜2019年2月11日(月・祝)
営業時間
10:00~19:00(木曜:10:00~18:00)
定休日:火水(その他、年末年始等 特別休業あり)
詳細
https://www.mustakivi.jp

「石本藤雄展 ーマリメッコの花から陶の実へー」愛媛展

会期
2018年10月27日(土)~12月16日(日)
会場
愛媛県美術館
砥部町文化会館
同時開催:茶玻瑠、MUSTAKIVI
詳細
https://www.fujiwo-ishimoto.com
その他
京都展は細見美術館で2019年春に
東京展はスパイラルにて2019年夏開催予定