AXHUM(アクサム)は、企業のブランディングやCI(コーポレート・アイデンティティ)を手がけるブランドコンサルティング会社。戦略立案とクリエイティブの両輪で、クライアント企業の理念や事業を再定義し、店舗デザインから広告、ウェブといったさまざまなタッチポイントを通じて中長期的に企業価値を高める。そこで策定されるデザインガイドラインでは、「書体」も重要な役割を担うという。半導体製造装置メーカー、東京エレクトロン(TEL)のブランディングプロジェクトを紹介する。
日本型ブランディングを極めるAXHUM
――数々のグローバル企業のCIを手がけています。
南山宏之(代表取締役・CEO、ディレクター) 当社は、CI コンサルティング会社PAOSから独立したブランドコンサルティング会社です。戦略策定からクリエイティブまでを一貫して提供し、企業のアイデンティティを明確にする、あるいは事業を再定義(リポジショニング)することで、企業にイノベーションと強い企業文化を構築していくのが仕事です。当社の戦略部門は、クライアントがどう理念やビジョンを再構築すればよいかをクライアントとともに考え、クリエイティブ部門はそのコンセプトを表現し、次の時代にあった見え方を創出します。プロジェクトは2、3年で完了しますが、その後10年以上継続するクライアントもあります。
――海外と日本の企業のCIではどんな違いがありますか。
南山 海外企業は、CEOが交代するとCIやブランドコンセプトもガラッと変わり、一気に現場まで浸透していきます。でも日本企業には創業以来大切にしてきた企業理念があり、現場もそれを大事にしていこうとしますから、全体を統合感をもって一気に変えてしまうことが難しい。海外のCIコンサルタント会社が苦労する理由はそこです。意思決定のメカニズムが全く異なるため、トップダウンで理念やブランドロゴを決めても現場までなかなか浸透しない。
私どもは日本の経営を熟知しているので、意思決定の仕組みもよく心得ています。日本独特の企業文化のなかで、理念、ブランドコンセプト、市場、そしてステークホルダーとの関係性をうまく調整していけることが強みです。
グローバル企業におけるロゴの決め方
――今回紹介する、TELのブランディングプロジェクトの概要を教えてください。
南山 TELのプロジェクトは2010年頃から始まり、さまざまな経営的な動きがあるなかで、2015年に中期経営計画と同時に、新しいビジョンとコーポレートロゴを発表しました。半導体の市場というのは激しいアップダウンがあって、なかなか未来の見通しがきかないところがありますが、そのなかでも半導体が活用される領域や成長分野を俯瞰しながら中長期のブランド戦略を立てていきました。同時に、そもそも「自分たちは何者なのか」という会社のアイデンティティと、将来のありたい姿を描きながらブランドコンセプトをつくっていきました。
藤田明浩(アートディレクター) TELはグローバル企業ですので、海外でのブランド力をより高めるため、AXHUMとニューヨークのLIPPINCOTTが共同開発しました。まず、クライアントの経営陣と我々AXHUMとLIPPINCOTTの戦略部門でブランドコンセプトをつくります。それをもとにデザインコンセプトをつくり、さまざまなロゴのアイデアを出します。AXHUMとLIPPINCOTT合わせて数百案を出して、一定の評価軸に沿ってひとつひとつのアイデアを検証し、絞り込みながら決めていきました。
――ロゴの絞り込みはスムーズに進むのでしょうか。
藤田 戦略部門とクリエイティブ部門が議論した上で、クライアントと一緒にコンセプト、ロゴ、デザインプリンシプルなど、全体の関係性のなかで決めていきます。コンセプトとデザインを行ったり来たりし、時にはおおもとのブランドコンセプトを構築しなおすこともあります。また絞り込みの段階では、実際の看板や広告に使用する場合のシミュレーションや、精緻化を行います。精緻化とは、例えば製品の回路に印刷される小さなサイズから、数メートルを超える看板のような大きなサイズまで、ロゴが耐えられるようにデザインを調整することです。こうしたプロセスを経て、ロゴの決定まで半年、導入までに1年はかかります。
――ロゴが決まると、続いて何を決めるのでしょうか。
藤田 VIシステムの重要な要素として、書体、色、写真、フォームランゲージを決めていきます。極端に言えば、ロゴがなくても、TELのスタイルを色や形でどう表現するかを考える。書体と色、フォームランゲージ、そして写真のトーン&マナーが決まっていて、それらを組み合わせて広告をつくっていくことになります。
企業のブランディングで重視される「普遍性」
――このVIシステムの書体としてAXISフォントを採用しました。その理由を教えてください。
藤田 TELはグローバル企業なので、まず欧文書体の「タイポナイン サンズ(Typonine Sans)」が先に決まりました。ブランドコンセプトのなかに「信頼、イノベーティブ」といったキーワードがあり、タイポナイン サンズはベースがしっかりしながら革新性を感じさせる。それと同等の意味合いを表す和文書体を探すなかで、シンプルでスマート、先進性、そして普遍性があるということで、AXISフォントが選ばれました。
――実際に広告などでAXISフォントを使用してみていかがですか。
岩田大輔(アートディレクター) 私は、新しいロゴの導入後のコミュニケーションアイテム全般を制作しています。TELは、B to B向けの冊子やスポーツ誌など、いろいろな媒体に広告を出しているのですが、AXISフォントはどんな媒体にもフィットしますよね。スタンダードでありながら、TELが大事にしている先進性と人間味も持ち合わせている。また、懐の広さ(文字の密度)がちょうどいいバランスで、読みやすいです。
桑原文子(アートディレクター) 私も広告制作を担当しているのですが、半導体製造装置という分野は一般にはわかりにくく、表現も難しいです。デジタル的なイメージの硬い絵をつくったときでも、親しみやすさのあるAXISフォントがいい感じにマッチする印象があります。AXISフォントは欧文も和文に合うようにつくられているので、文字を組む時に読みやすく、ほかの仕事でも、困ったら使うことが多いですね。
湯浅 響(デザイナー/IT統括マネジャー) 私が担当しているウェブの場合は、タイトルまわりなど大きく使うところで画像としてAXISフォントを使用しています。デジタル時代の書体という印象があるので、ホームページにも相性がいいと思います。
マーゴ・サイデン(デザイナー) 私はアメリカ人で、まだ日本語の書体には慣れていないのですが、それでもAXISフォントはシンプルで使い心地がよいと感じています。
南山 私どもが担当している企業のブランディングでは、一定以上の品格や存在感のなかで普遍性が求められるので、ニュートラルであることがまずは大切です。AXISフォントはニュートラルであると同時に、新しく、人間的でもある。これらのバランスがとれた書体だと思います。
成功するブランディングのために大切なこと
――今後について教えてください。
南山 ブランディングとは自分を再定義し、リポジショニングすることで自分の価値を高めるということです。時代もメディアもどんどん変わっていくなかで、「変えてはいけないもの(True)」と「新しく変えていくべきもの(New)」のバランスを常に考え、表象することが重要だと考えています。そのため店舗デザインなどでは数ヶ月に1回はガイドラインを見直して、更新するプロジェクトもあります。ロゴは変わらないけれども、写真の使い方やフォームランゲージなど、表現形式は意図的に変えていくのです。
――――毎年の定量調査でも、TELのブランド力は高まっているようです。ブランディングプロジェクトを成功させるには何が大切ですか。
藤田 クライアントのことをよく知り、そのなかでどういった表現が最適なのかを考えることです。日々クライアントと接し、また全体も俯瞰しながら、最適な表現を見出し、ひとつのコンセプトに集約していくことが大切です。
南山 クライアントとのパートナーシップですよね。ブランディングはひとりでやる仕事ではないので、クライアントや様々な表現者(デザイナーや建築家など)と一緒に走って、一緒に成長していく。議論を進めるなかで、時にはぶつかることもあります。でも最終的に、大きな成果として実った場合は全員の達成感が得られるのです。
それから、私どもに必要なのはイマジネーションですね。日常の中に溶け込んでいる「良いデザイン」をちゃんと掴み取って、イマジネーションを膨らませ、そしてそれを日常のものとして表現できるかどうか。それが何より大切だと思います。
――ありがとうございました。
現在、AXHUM Consulting / AXHUM LIPPINCOTTでは、戦略プランナーとCIデザイナー、プロデューサーを募集中です。詳細はこちら。
AXISフォントの詳細・ご購入・お問い合わせはこちらから。