「生きた建築ミュージアムフェスティバル(イケフェス大阪)」を存分に楽しむための秘訣(後編)

▲住友ビルディング屋上から。Photos by Ai Takahashi

2018年10月27日(土)、28日(日)に開かれた、100以上の建物が一般公開される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(以下:イケフェス大阪)」に参加した。前編に続き、その体験記をレポートする。

住友ビルディング【ガイドツアー参加】

前編でお伝えした弁護士会館ツアーが一区切りした14時30分に離脱。15時からガイドツアーの整理券を受け取っていたので、やや急いで住友ビルディングへ向かった。推奨時間として知らされていたツアー15分前、14時45分に到着した。

御堂筋沿道で1920(大正9)年に施行された市街地建築物法の高さ制限によって、本来は31m(100尺)までしか建てられなかったなか、例外規定で45mの高さを1962年に実現できたのがこの住友ビルディングだ。

面積を確保するために横に広がって建てられているこのビル、貸室面積5,404m²は賃貸オフィスビルとして大阪最大だ。ガイドツアーでは各テナントの部屋まで見ることはできなかったが、ここに勤める方でもなかなか立ち入ることのできない屋上、そして本来は会員しか入れないレストランも見ることができた。

▲レストランにつながる室から窓を見下ろす参加者

大阪倶楽部

▲住友ビルディングにもほど近くにある、大阪倶楽部

要予約だったために残念ながら外観のみしか見ることのできなかった大阪倶楽部。財界人の社交場として1912年からスタートしている大阪倶楽部の拠点として現建物は1924年に完成。現在も現役だ。一息つくために道を挟んだとなりにあるコーヒー店のテラス席にいると、同じようにオレンジのカタログを持った人たちが入れ替わり立ち替わり外観の写真を撮影していく。気づきはじめると他にも街中にオレンジのカタログが溢れていることが見えてくる。今これだけの人たちと同じ場を共有しているという連帯感のようなものが感じられた。

▲隣のコーヒー店のテラスから

東畑建築設計事務所

▲新高麗橋ビル

新高麗橋ビルを本社とする、建築・都市にまつわる設計やコンサルティングなどを広く請け負う東畑建築事務所では特別展示が開催中。1932年に大阪で生まれ、現在も各地でプロジェクトを進める同社だが、そんな作品紹介展示にとどまらず、創設者である東畑謙三氏が集めた貴重書のコレクション「清林文庫」が展示されていた。写真撮影は禁止されていたのでビジュアルでの紹介はできないが、普段よほどのことがない限りなかなかアクセスすることのできない貴重な建築の資料、それも東畑氏が実際に紐解いたであろう資料にアクセスできる、またとない機会だった。

▲東畑建築事務所のプロジェクト展の様子

伏見ビル

▲手前が伏見ビル。奥が青山ビル

この時点ですでに16時。公開時間を終える建築物も多くなってくる時間帯だ。「こう回っていたら、あの建築物も見れたのでは?」「ここはまだギリギリ行くことができるのでは?」などと、カタログを見ながら後悔と一縷の望みが去来する時間帯でもある。今回は冷静に、近くにある伏見ビルと青山ビルという隣接するふたつのビルを眺めて、最後に芝川ビルを訪れるというコースをとった。

▲コンパクトな空間ながら丁寧にデザインされている伏見ビルの階段

1923年の竣工当初は「澤野ビルヂング」という名前でホテルとして使われていた伏見ビル、現在ではテナントビルとしてさまざまな店が軒を連ねている。昭和期にその転換点があったようだが、大規模な改修を経た現在でも、玄関下には竣工時からそのままのタイルが敷き詰められている。エントランスを入って小さいスペースながら左右対称になっている階段を上がっていくと、今回屋上まで見ることができた。

▲帰り際、案内係の方に教えていただいた玄関下のタイル

青山ビル

▲青山ビル。古そうで実は今年オープンのビアレストランが正面に

伏見ビルに隣接する青山ビルは、もともとは実業家の個人邸として1921年に建てられた。外観にスパニッシュスタイルを使い、屋上には庭園を設けてパーティーができるよう1階厨房からリフトを設置している。なお、地下はダンスホールにするなど、最新のモダンライフを実現したようだ。現在ではテナントが入っている。1階から最上階まで続く階段ホールは見通すと壮観。多様なプログラムが組まれていることが特徴だが、別日に開催されていた青山ビル建築当初の時代の探偵小説を再現した「ミステリ劇場」はぜひ体感してみたかった。

▲真っ白な壁と優雅な曲線の階段手すりが印象的

▲外観写真を撮影している参加者

芝川ビル

▲芝川ビル

江戸時代から大阪で多数の事業を手がけ、1912(明治45)年には千島土地株式会社も設立した芝川家の自家用ビルとして1927年に建てられ、戦前期には「芝蘭社家政学園」という花嫁学校としても使われた芝川ビル。現在はテナントが多く入居し、飲食店からセレクトショップまでバリエーション豊か。階段の側壁にパネル展示されていた芝川家の住宅建築にまつわる古写真が印象的だったが、ウェブサイトでも芝川ビルの歴史が丁寧に記録されている。

▲芝川ビル、エントランス入ってすぐの様子

▲屋上のイケフェスCafeはよい休憩スポットになっていた

100以上の建物をいかに選んで回るか

今回のイケフェス大阪では、午前中からスタートして、18時までにおおよそ10の建築物を見ることができ、そのうち2つの建築物はガイドツアーも楽しんだ。本町界隈は密集しているため比較的多数の建築物を見ることができるが、それでもすべての公開建築物を見て回ることは到底不可能であることをしっかりと実感する。割り切って訪れてみたい場所を選び、じっくりと見る、というプランのほうがスマートだろう。

また、同様に印象的だったのが、建築物を見て回る際にオレンジの公式ガイドブックを持った見学者の多さだ。ひとりの方も複数の方々も、思い思いに建築物を眺め、また写真に撮っている。大阪という都市の中で同じように建築物を愛し、この機会を楽しんでいる人たちが他にもたくさんいる、ということをこのオレンジの冊子を通して知ることができたことも、実際に訪れてみてわかる感覚だと言えるだろう。

2019年にはどんな新しい建築物がラインナップに加わるのだろうか。今から楽しみだ。End

▲街中に映える公式ガイドブックオレンジのカバー