REPORT | 展覧会 / 工芸
2018.11.16 17:24
いつの頃からかシャープでかっこいいものより、ざらりとした手触りがあって、いつも側に置きたいような温もりのあるものを求めるようになってきたように感じる。デザインという言葉よりも “クラフト” や “暮らし” という言葉を目にする機会が多くなったせいもあるだろうか。
また、“民藝 MINGEI” という言葉や、それにまつわるものをメディアやライフスタイルショップで見聞きして、気になっている人も多いのではないだろうか。
そのような民藝の世界を、ものづくりに携わる多くの人に知ってほしいという願いを込めた展覧会、「民藝 MINGEI -Another Kind of Art展」が、2018年11月2日(金)から21_21 DESIGN SIGHTにて始まっている。
民藝はかわいい⁈
“民藝” という言葉だけを耳にすると、どこか古めかしく、難しい印象を持つ人も少なくないかもしれない。
だが実は「民藝はかわいくて、ヤバいものなのだ」と語るのは、プロダクトデザイナーであり、今回の展覧会のディレクター、そして2012年から東京の駒場にある日本民藝館の5代目館長も務める深澤直人さんだ。
この展覧会では “民藝 MINGEI” の魅力を感じるきっかけとなるよう、日本民藝館の所蔵品を中心に新旧、国内外を問わず選ばれた民藝品が展示されている。
民藝の定義
そもそも、民藝とは “民衆的工芸” の略称で、プロダクトデザイナーの柳宗理の父である思想家の柳宗悦が、同時期に活躍した作家 河井寛次郎や濱田庄司らと共に作り上げた言葉。
“民衆的工芸” と言ってもまだ少し難しい響きだが、簡単に言うと、つくられた時代や作者によって価値が決まる美術品のようなものではなく、「多くの人が暮らしの中で使うような何気ないもの」のことだ。
日本民藝館と “直観”
日本民藝館は柳宗悦が主に中心となって集めた民藝品を、“直観” で見られるように展示した世界でも珍しい美術館である。
“直観” というのは、様々な先入観を取り去り、ものの持っている魅力を感じ取ること。できるだけ直観で見て欲しいという願いから、日本民藝館の展示品のキャプションは極力シンプルなものとなっている。
また日本民藝館の、”目が行き届く範囲で活動したい”という思いを体現した、鑑賞者がどの位置に立っても、展示の全体感を感じ取りやすいコンパクトな規模感は、今回の展示会場でもある21_21 DESIGN SIGHTと共通しているところだ。
今回の展覧会でも日本民藝館と同様に “直観” を体感して欲しいとの願いから、展示品に関する説明は入場時に渡される紙にまとめられている他に、展示物の個々の具体的な説明は特に記載されていない。
これにより作者や時代などにとらわれず、自由な視点から “民藝 MINGEI” を楽しむことができる。
深澤直人さんが2121で民藝を展示する理由
では、なぜ今深澤さんは、デザインの専門施設とも言える六本木ミッドタウンの21_21 DESIGN SIGHTという場所で、民藝にまつわる展覧会を開催することにしたのだろうか。
「21_21は現代のものごとを作る人が訪れる場所だと思っていて、21_21に来る人にこそ民藝や日本民藝館のことを知ってほしいからです。民藝の魅力は、あえて言葉にするならば『かわいい』こと。かわいいと言うと軽率に聞こえてしまうかもしれないけれど、それ以外に言葉が見つからない」
「ただし、かわいいというのは英訳するならばLoveryやCuteという意味では決してなく、 “Cherish” の意味合い。すなわち、『思わず抱きしめたくなる、いつも側に置いておきたいような愛おしい存在』のことを指します」
今のものづくりで重要な要素は”愛おしさ”
「そして、かわいいという要素は現代のものづくりにも重要なことなのです。例えばジャスパー・モリソンのように、もの作りに “かわいさのエッセンス” を効かせられること。これが今の社会では求められつつも、実際にできる作り手やデザイナーはごく僅か。エッジの効いた格好良さというのは、現代では時として “格好付けた” という意味合いになってしまう。なので、かっこいいより “愛されるもの” であることが大切だと思っていて。
民藝品には、かわいい要素が大いに含まれているので、現在ものづくりに携わる人にこそ見て、“かわいい” を直に感じてほしい」
民藝であって民藝でない、それくらい自由な “MINGEI”
「また僕は、いい民藝品を見ると、つい『ヤバい』とも思ってしまう。ヤバいというのは、作ったルーツや意図などが探り知れず、作り手として “負けた” という気持ちになること。わからない魅力、言葉では表現し得ない魅力が民藝には詰まっているのです。言葉にすると色々とあるのですが、本来民藝は自由なものであり、思想。民藝の自由さを表現するために、展覧会のタイトルには “Another Kind of Art” と付けました。
これは96歳になった今も現役で活躍している染色家、柚木沙弥郎がフランスで展示した際に評された言葉からとったもの。“もはや民藝という枠組みさえ飛び超えた新たな種類のものごと” という意味合いを含んでいます」
映像や実物に触れて見えてくること
会場では現代の作り手の作業風景や伝え手のインタビュー映像も展示されており、作業の風景や言葉から現代のものづくりに関して感じることもできる。
こちらの映像とは別に民藝運動初期のものづくりの様子が収められた〈民藝運動フィルムアーカイブ〉の映像も流れているので、新旧の作家の作業風景を時空を超えてみることが出来、比較するのも面白いだろう。
また現代の作り手の品物は、実際に展示もされており、そのうちの一部や民藝にまつわる関連書籍はミュージアムショップで求めることも可能だ。実際に手に取って、暮らしの中で使ってこそわかる民藝の魅力を体感できるのも展覧会の楽しみの一つとなっている。
いま民藝 “MINGEI” を考える
もともと、民藝にまつわる運動には『社会の主流ではないことを、すくい上げていく活動』との捉え方もある。芽が出る少し前のタイミングの空気感を感じ取り、ものごととして形にしていく。つまり、民藝の活動を探ることは、現代のものづくりに携わる人々に大きなヒントをもたらしてくれるのではないだろうか。
また私たちが最近、愛おしいものに思わず手が伸びる背景には、どこか心許ない社会に対する安心感を “モノ” に求めたいという気持ちがあるのかもしれない。
まずは民藝に馴染みのない方こそ、何も考えずに会場を訪れ、目の前にふっくらと大らかに佇む “民藝 MINGEI” を見て欲しい。そしてその足で、会場からほど近い駒場の日本民藝館にも足を伸ばしてみることをおすすめする。
思わず抱きしめたくなってしまうような “民藝 MINGEI” を見ていると、そっと静かに抱きしめ返してくれるような感覚になるかもしれない。
民藝 MINGEI -Another Kind of Art展
- 会期
- 2018年11月2日(金)~2019年2月24日(日) 10:00~19:00(入場は18:30まで)
- 休館日
- 火曜日(12月25日は開館)、年末年始(12月26日~1月3日)
- 会場
- 21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2(東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
- 詳細
- http://www.2121designsight.jp/