11月3日の文化の日をはさんだ3日間、東京の渋谷キャスト スペース・ガーデンと渋谷モディで、ソニーの最新テクノロジーや研究開発段階のプロジェクトを体感できる実験的な展示イベント「WOW Studio」が開催された。
展示内容は、今年3月に米国テキサス州オースティンで開かれた世界最大のクリエイティブ・ビジネス・フェスティバル「SXSW(サウス バイ サウスウエスト)2018」 にソニーが出展した企画や、渋谷区のクリエイターと共創した体験型のコンテンツであり、渋谷キャスト スペース・ガーデンの入り口に置かれたネオンサインも、まさにSXSWの雰囲気が漂うものだった。
まず、個人的に一番期待していたのは、未来のゲームセンターをイメージした「A(i)Rホッケー(と書いて、エーアール エアーホッケーと読む)」である。これは円形のコートを使って3人で対戦するもので、最初にリアルなパックをマレットで弾いてスタートするが、進めるうちにプロジェクションによるカラフルな仮想パックが増えていき、徐々に、リアルとバーチャルの区別がつかなくなっていくという、ゴーグルなしで高い没入感が得られるゲームだ。
個々のパックの軌道が高速かつ正確に予測され、仮想パックを打ち込んだ際にも触感フィードバックがあるため、すべてが本物に思えるうえ、ゲームとしての完成度も高い。スマートフォンや家庭用ゲーム機では実現できないレベルの処理であり、まさに未来のゲームセンターに相応しい内容だった。
「デジタルメッセージボード」は、壁やテーブル面をタッチスクリーンにできるインテリジェントなプロジェクター「エクスペリア・タッチ」を用いて描いたメッセージが大画面でシェアされるというもの。会場では、「エクスペリア・タッチ」を設置した棚から下方の壁に向かって投影していたが、超単焦点プロジェクターならではの特徴が生かされていた。
「ARグラフィティラリー」は、4Kの解像度でAR演出ができるインタラクティブ・デジタルサイネージ「ミテネ」を使い、ジェスチャーによって自分の周りに絵を描いたり、花びらを舞わせたりしてポートレートを作成。渋谷キャスト スペース・ガーデンと渋谷モディ内の計3カ所のステーションを回って3つの異なるグラフィティを集めると、記念としてそれをダウンロードできるという仕掛けだった。
ポイントは、最初のステーションで顔認識を行うことで、他のステーションでも自動的に同一人物とわかり、すでに描いたデータと合成してくれるところにある。参加型のデジタルサイネージの、ひとつの方向性を示しているといえよう。
未来のストリートアートを標榜する「ドゥードゥルペン」は、壁に描かれた線画にデジタルペンでカラーリングしたり、その絵にまつわる仕掛けが動き出すという、ARドゥードゥリング(いたずら書き)を実現。これで描かれたストリートアートは、制作された場所だけでなく渋谷の街中にプロジェクションによって展開でき、ストリートを汚さないグラフィティのあり方にもつながっている。
また、会場ではダミーの料理だったが、期間限定で実在の「うさまるカフェ」(ラインの人気スタンプキャラクターとコラボレーションしたカフェ)は、料理をプロジェクションマッピングで演出した「インタラクティブ・キャラクター・カフェ」だった。
料理の形や配置をカメラで認識し、その位置にピンポイントで映像を投影できるインタラクティブ・テーブルトップ・プロジェクション技術を用いて、メニューごとに異なるうさまるのアニメーションが展開される様子は、新しいカフェの姿として十分あり得る提案に思えた。
そして最後に、予想以上に楽しめたのが、周囲の音を遮らずに音楽再生などが行え、内蔵された加速度センサーによるジェスチャーコントロールも可能なワイヤレスイヤフォンの「エクスペリア・イヤー・デュオ」を使ったサウンドARゲーム「迷子のおばけたち」である。
ジャックというおばけの声に導かれて、渋谷キャスト スペース・ガーデンの数カ所に仕込まれたブルートゥースビーコンのある場所へ行くと、ジャンプの強さに応じて仮想的な池の水が跳ねる音が変化したり、木から実を落とすことができる。そのようにして最終的に、はぐれてしまった兄弟のおばけを見つけ出すという趣向だが、同時に、参加者に「エクスペリア・イヤー・デュオ」の特徴やメリットを知ってもらうための、よくできた体験デモにもなっている。
すなわち、その場で指示するスタッフの声も、イヤフォンからのおばけの声もよく聞こえ、飛び跳ねてもズレることなく快適な装着感を維持し、さらにセンサーによって身体や頭の動きを感知できるということが、ゲームを楽しみながら理解できるのだ。
その意味で、ソニーは、この試みを単発に終わらせず、「エクスペリア・イヤー・デュオ」向けのオーディオARゲームが継続的にリリースしていくようなプロモーション活動を展開しても良いのではと感じられた。
「WOW Studio」は3日間限定のイベントだったが、ソニーは渋谷に集まるクリエイターや企業、行政などが協力して新しい文化創造の実現を目指すプロジェクト「#SCRAMBLE」に参加しており、今後もさまざまな実験的な取り組みを行う予定だ。読者の皆さんも、機会があれば、ぜひこうした新しいAR環境を体験し、ソニーが目指す未来の姿を垣間見ていただきたいと思う。