各分野の、豊富な知見や知識がある人のもとを訪ね、多様な思考に触れつつクリエイションを通じて学びを得る「Perspectives」。3回目のゲストは、2018年2月に初の写真集を刊行した石田真澄さん。高校生の石田さんが毎日撮り続けた写真に魅せられた、UXデザイナーの入矢真一さんが話を伺いました。大学に通う20歳の写真家が捉えた、朝の光の魅力とは?
俯瞰して撮影するふたりの視点
2017年から写真家として仕事を始めた石田真澄さん。18年2月に出版した写真集「light years -光年-」は、自身が通った中高一貫の女子校を舞台に、高校時代の3年間に撮影した写真をまとめたもの。タイトルの意図を「今見ている星の光は何億年も前のものだけど、それが今の自分を照らしている」と石田さん。被写体は、クラス替えもなく6年間ほぼ一緒に過ごした、26人のクラスメイトのたわいもない日常だ。中学から高校に上がり、この生活もあと3年で終わってしまうと気づいたことが、写真を撮り始めるきっかけになった。
「高校生はなんでもできちゃうし、なんにでもなれる。ある日、高校生という肩書きの無敵感や目の前の楽しい時間にも終わりがやってくると気づいて、卒業までの3年間、毎日フィルムカメラで写真を撮るようになりました。写真があれば、いつでも戻れると思ったから」。
写真集をめくっても、そこに石田さんの姿はない。撮影者が写っていないのは当然だが、終始俯瞰したような視点で存在を潜め、一歩引いた視点から撮影することで、失われゆく時間をより鮮明に残したいとの考えがあった。
この写真集を発売前に予約し、購入したUXデザイナーの入矢真一さんもまた、同じように毎日写真を撮っていた時期がある。それは大学生のとき、大学卒業までの1年間をモノクロ写真に収め続けた。毎日を撮り続けた動機を「残り1年と気づいて、やばいなって思いました」と説明する。さらに「ここ10年くらい、ほぼ毎日写真を撮っています。子どもが生まれたときにも、もちろん子どもの写真も撮りましたが、その日がどんな天気でどんな日だったか、周囲の風景を撮って残そうと思いました」と語る。記憶に留めるため俯瞰して撮影するという視点がふたりの共通点だ。
朝の光と時間軸に惹かれて
入矢さんが石田さんの写真に興味を持った理由はふたつある。ひとつ目は、石田さんが捉えた光に強く惹かれたから。高校生のときは、光を意識して写真を撮っていたわけではないという石田さんだが、その後の写真集の出版や個展の開催を経て、写真を見た人の言葉を通じ、光を撮っていたと気づいた。石田さんは、「例えば、電車に反射している光は、電車が動くと見えなくなる。光は、タイミングや角度によってぜんぜん違って写るんです。今では、2秒後のほうが光が綺麗と思えば2秒待つし、2歩動いたほうが光が綺麗と思ったら移動するようにしています」と言う。石田さんが撮影する時間帯は朝と昼が多く、夜撮られた写真はあまりない。確かにlight yearsでも、太陽光や水面に反射した光など、爽やかな朝の光がひときわ目を引く。
もうひとつの理由は、入矢さんの普段の仕事との共通点を感じたからだ。入矢さんが、スマートフォンで使うアプリのUXデザインをする際に欠かせないのが時間軸だという。入矢さんは「朝、昼、晩と変化する時間のなかで、このアプリをどう使ってもらえるかを想像しながらデザインしています。初めて使うときに、どんな心境の変化を与えられるか。一方で、たとえ長い時間使い続けても飽きることのないように」と語る。「ここで情報を示せば、ユーザーは次の動作に移るんじゃないかなど、気持ちの変化を考えながらデザインすることが多くなっています。1日でも1年でも、時間ごとに異なるユーザーの気持ちを捉える必要があると考えます」と続ける。
刻々と移り変わる繊細な光や時間を捉えるように、人々の興味や感情を捉えるにも、状況に応じた視点の持ち方は欠かせない。デザインの領域が広がり身近なものになった今こそ、一瞬の気持ちの変化や起伏を見極める視点が、デザインにも求められる。(文/廣川淳哉)
もうひとつの「Perspectives」ストーリーでは、今回の対話をきっかけに石田さんと入矢さんがあらたに写真を撮りおろしました。そのプロセスと考えは、Sony Design Websiteをご覧ください。