コンピュータグラフィックスや360度ビデオによって、リアルな臨場体験を作り出すVR(バーチャル・リアリティ、仮想現実)技術は、ゲームの世界で定着しつつあり、新たなドキュメンタリー映像の記録手法としても注目されている。
頭の動きに応じて、前後左右上下どの方向も自在に見ることができるという視覚的なインパクトの大きさから、これまでは、それを撮影するための全天周カメラに話題が集中しがちだった。しかし、映像としてのクオリティが向上したことによって、徐々に音のVR化、つまり、360度の集音記録装置の重要性も高まりつつある。
30年以上にわたってレコーディング機器や電子楽器の開発を行い、その製品が世界各地の録音スタジオやミュージシャンに愛用されている日本のズームは、この新たな市場に着目し、「ズーム H3-VR」(オープン価格、10月下旬発売予定)を開発した。
頭頂部の4つのマイクは、立体音響技術のなかでも特にリスナーの頭の回転などによる音場の変化をソフトウェア的に再現することに秀でたアンビソニックス方式の配置となっており、左右のみならず上下や奥行き方向の音も余さずに集音することができる。
また、円錐型の筐体は、空間音声の録音と必要なすべての回路や機能を収めたうえで、全方向からの音の収録を可能な限り邪魔せず、VRカメラにも映り込みにくい形状としてデザインされ、6軸のモーションセンサーも内蔵している。そのため、撮影者の意図や現場の状況に応じて、正立、倒立、横倒しなど、どのようなセッティングでも、収録時の音の位置関係が自動的に維持されるとともに、ディスプレイの表示も上下が入れ替わる仕組みだ。
さらに、従来は外部コンピュータなどを利用して後処理する必要があったVR再生に適した音声ファイル形式への変換を本体内で行え、出力もVRのみならず一般的なステレオ再生や人間の耳の集音特性を再現したバイノーラル再生にも対応できる。
このような機材の発達により、空間音声の収録が高品位かつ手軽に行えるようになることで、VR体験のリアリティもますます高いものとなっていくに違いない。