REPORT | ソーシャル
2018.10.15 18:57
国際ユニヴァーサルデザイン協議会(IAUD)が主催するワークショップ「48時間デザインマラソン」が、去る9月6日から8日にかけて、芝浦工業大学を会場に開催された。本ワークショップは2004年に初開催で、今回が13回目となる。
障害を持つユーザーを中心に、5~6名のインハウスの若手デザイナーと学生2名がチームを構成。48時間の制限時間の中で、課題を発見・発掘するフィールドリサーチから、アイデアの抽出、デザインワークを行い、最後のプレゼンテーションとその評価へとつなげていく。ユーザーの抱える障害も聴覚障害や視覚障害、下肢障害などさまざまで、各チームが、いかにユーザー視点で考え抜いていくかが問われる。
今回のテーマは「応援」。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたもので、選手だけでなく、また障害者だけでもなく、すべての人を楽しく、元気にさせようという、ユニヴァーサルデザインの考えにつながるテーマだ。
初日の9月6日には、A〜Eの全5チームが東京の街へと繰り出し、移動やショッピングなど日常において、ユーザーがどのような問題を抱えているかを観察・探索した。行き先は新国立競技場から表参道、東京駅周辺、浅草などさまざま。障害者にとって、東京という街がいかに優しくないかは、従来のワークショップでも常に議論されてきたこと。このワークショップでは、そうした問題を直線的に取り上げるのではなく、課題の認識からいかに思考をジャンプさせるかが問われる。
「48時間デザインマラソンの良い点は、ユーザー視点でデザインを考え抜くプロセスを学ぶことにあります。自分の考えたアイデアやデザインを率直にユーザーにぶつけ、時には方針を変える勇気も必要になります。ユーザーが答えを持っているわけではなく、メンバーは全員が初対面。アイデアのジャンプのためには、他のメンバーの意見を聞き、同調と議論を繰り返す対話力が重要となります。それを制限時間内に行わなければいけない。心身ともにハードなワークショップなのです」(運営委員長 藤木武史氏)。
初日のフィールドワーク終了後には、全体の振り返りを実施。各チームがそれぞれの“気づき”について報告した。そして、このワークショップの醍醐味とも言えるのが二日目。課題の抽出とそれに対するアイデア出し、そしてデザイン提案の作成である。喧々諤々、意見の衝突は当たり前で、デザイナーだけで盛り上がってしまい、ユーザーが置いてきぼりになるケースなどもあり、各チーム、常に軌道修正を行いながら、多様な問題をくぐり抜けて最終提案へとつなげていった。
最終日の公開プレゼンテーションで高い評価を得たのが、Dチームによる「U-cheer」。フィールドワーク時、自律神経障害のため汗がかけない手動車いすのユーザーが、霧吹きで水を身体に吹きかけ、体温調整を行っていた。そのユーザーに向けて、そして2020年、猛暑の炎天下で競技や応援を行うであろう人々に向けての、ミスト噴出機能を持った団扇の提案である。ユーザーの切実な課題を“カッコよく”誰でも使えるものへとつなげた点が高い評価を得た。
ワークショップを通して語られていたのは、行動観察の難しさ。課題を見つけようと血眼になるのではなく、ユーザーがなんとなくした行為の流れやその要因を観察する、ユーザーが普段使用している道具についた傷や汚れを観察することで課題が見えることもある。「困ったことはなんですか」と直接訪ねても、ありふれたニーズにしかたどり着かない。
「商品やサービスを機能・性能で語る時代は終わりました。そういう意味で、48時間デザインマラソンの真のミッションは、ユーザーに経験的価値をいかに提供するかにあるのです」(藤木氏)。
健常者と言えども、見方を変えれば、メガネを必要とする時点で障害があるとも言えるし、身体のどこかに常に痛みを抱えている人もいる。何が障害なのか。画一的な考え方にとらわれては、良いデザインはできない。今回のワークショップで参加者たちが痛感したのは、このことだろう。
今回のデザイン提案だが、今後は墨田区の下町企業 とともにプロトタイプを製作するという。起業塾のような形態で、製品化だけでなくデザインの考え方や事業としての発展などについて、ワークショップを行っていく。そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに商品化の実現を目指す予定である。