【第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展2018】
中国館 最先端の未来を中国建築家の地方都市プロジェクトに見る

イタリア・ヴェネチアにて、5月26日から11月25日まで開催中の第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展。今回の総合テーマは「freespace」と銘打たれ、各国パビリオンや、招待作家が様々な応答としての展示を連ねている。

今回取り上げるのは、中世の造船所を改装した本会場の一つ、アルセナーレの最奥部に大展示空間を有する中国館である。

テーマ「freespace」への応答として、「Building a Future Countryside」と題し、中国の田舎・地方で数々と実現している建築家による魅力的で「自由」な作品群を展示している。

▲Photo courtesy of Gao Changjun

だいぶ時を遡ってしまうが、10年ほど前までの中国建築シーンといえば、北京五輪スタジアムの「鳥の巣」やOMAによる「CCTV本社屋」を始めとした巨大アイコン的建築の印象が強かった。

その衝撃的な形態も相まって、「外国人による新奇な建築の実験フィールド」として中国を認識する建築・デザイン関係者もいるかもしれない。

しかし、目まぐるしい経済・政治・産業の変化と併せ、日本で想像しうる何倍以上のスピード・規模で中国のシーンは変化・深化し続けている。

市川紘司氏の論考に詳しいが、2010年代以降、プリツカー賞を受賞した王澍(ワン・シュー)による「批判的地域主義」的な建築や、MAD Architectsの流線的な建築、Neri&Huの素材感や洗練されたデザインなど、表現としては百花繚乱の様相を呈しつつ、自国の建築家が次々と魅力的な建築作品を発表している。

また現在、大都市部での投機的建設は以前より落ち着き、現在活発に進むのは美術館や教育施設などの文化的プロジェクトが多い。

さらには、地理的にもプロジェクトの対象は都市圏から地方都市に広がりを見せている。

今回はキュレーターとなったLi Xiangningが、その「地方都市(あるいは田舎・countryside)」に焦点を当て、建築作品単体の紹介にとどまらず、世界中で見ても先進的な地域づくりの一例としての中国の地方都市の未来を垣間見せてくれる。

▲Photo courtesy of Gao Changjun
地域に根付く建築文化や、自然・観光資源を汲み取り、体験型・滞在型の観光地あるいは現代美術の生まれる文化発信地など、日本でもなかなか見られないほどの多様で魅力的な枠組を設定しながら、それらを真摯に空間化した秀作が所狭しと展示されている。

▲Photo courtesy of Gao Changjun
雲南産アラビカコーヒーのブランドオーナーが建築家(Trace Architecture Office -TAO)に依頼して実現したリノベーション+増築によるコーヒー工場+ビジターセンターの複合施設。既存のヴォールト構造と呼応する増築部もあれば、上階のホテル空間はミニマルなコンクリートの空間とするなど、様々なレイヤーで新旧・地域文化のデザイン的な応答がなされている。

▲Photo courtesy of Gao Changjun
(左)Rural Urban FrameworkによるThe Old-New House。雲南省で作られた展望用の構造体が解体・輸送・再建されて展示された。
(右)Archi-Union Architects(Philip F. Yuan)による、成都の外れにある道明(Daoming)にて、現地の文化遺産及び竹の伝統工芸を振興するために建設されたBamboo Craft Villageの屋根構造。このプロジェクトにおいて現地の工場にロボットアームが導入され、在来の技術と最新のファブリケーションを組み合わせた先進的な施工技術がこの地方にもたらされた。

▲Photo courtesy of Zhang Liming
屋外展示部で目を引くのは、同じくPhilip F. Yuanによる、中国で研究が進むデジタルファブリケーション技術を用い、構造解析・建設まで行ったパビリオン「Cloud Village」。地方都市でこの設計・建設が可能であったわけではないようだが、先述のプロジェクトのように、最新の技術と辺境の文化・歴史が様々に交錯する様子を見ることができる。




展示を俯瞰して驚くのは、プロジェクトの規模の大きさと表現の多様さであり、またリノベーションも含んだ作品が多々見られることである。

世界的にも最新の技術やデザイン議論を組み合わせながら、建築プロジェクトで地域・社会の発展を目指す機運や、新しい試みへのチャレンジ精神、それでいて、ただ奇抜な新築を作るのだけではない、それぞれの地域・歴史文化への成熟した共有理解を感じることができる。

ちなみに、現在の中国建築シーンの第一線に立つのは、海外留学あるいは海外有名事務所勤務から帰国し、中国で自身のキャリアをある程度重ねた建築家も非常に多い。

表現の多様さは、それぞれが師事した建築家の違いによるところも大きいようである。

その層は年ごとに厚みを増して、アメリカ建築大学院への中国人留学生は、2016年のハーバードデザイン大学院にあってはひと学年100名に迫る勢いであった(ちなみに日本人はほとんどゼロに近い)。

世界のアカデミックな場においても、中国人建築家への世界からの注目は年々増している。2年前のハーバードで、現役で活躍する中国人建築家の大規模な展覧会が開催され、その充実した建築家の層をまざまざと見せつけられた。




前回のヴァチカン市国の展示にも共通するが、中国館では、建築の可能性を「建築」そのもので見せていることに、ストレートな清々しさを感じさせる。ただし、ここに立ち現れているムーブメントを成立させる世界は、そこまでシンプルではない。

中国館は「ローカルとグローバルの文脈が重層的に入り混じる辺境」を「(グローバルに教育を受けた)多様なローカル建築家たち」が可能性を切り拓くさまを展示している。

それは決して牧歌的な田舎のイメージでは一括りにできない、非常に現代的なフィールドなのだ。

建築は、わたしたちが生きる社会・文化・経済などを映し出し、また逆に(大小あれど)それらに対し影響を及ぼしもする。

作品そのものの魅力はもちろんのこと、その建築が示唆する、グローバルとローカルが入り混じるダイナミズムに思いを馳せるのも、ヴェネチアで身を以て体感できることのひとつだろう。End