自動車の構造をモジュラー化し、用途や嗜好に応じてボディの一部を入れ替えるという発想は以前からあり、ショーカーやプロトタイプのみならず、ダイハツ・コペンなど一部の市販車にも応用されている。しかし、これまでは、人間のドライバーのための空間を確保しなくてはならないという根源的な制約もあって、交換可能なモジュールは、車体後部の荷室であったり、屋根やフェンダーなどの外板部分に限られていた。
ところが、自律運転車の登場によって、より柔軟なモジュール化が行える可能性が高まりつつある。その可能性に対するひとつの答えが、メルセデス・ベンツの商業車部門によって発表された「ビジョン・アーバネティック」だ。
現時点ではもちろんコンセプトだが、ワールドプレミアの舞台として選ばれたハノーバー・モーターショーには、実物大のモックアップが持ち込まれ、手動のモジュール交換なども実演された。
自律運転車にはドライバーシートが不要なことから、ビジョン・アーバネティックのベース部分は、前端の駆動機構と後端の車輪を除いてほぼフラットな超低床のプラットフォームとなっている。モジュール交換時には、後輪部分のトレッドが左右に拡張され、後部から客室や貨物運搬用のユニットを合体し、トレッドが再び本来の幅に戻ることで固定される構造である。
また、プロモーションビデオでは、フロントグリルにメルセデス・ベンツの近年のコンセプトモデルで見られる外界への情報ディスプレーが組み込まれていることに加えて、ヘッドライトやウィンカーは走行時のみカバーが開いて現れる仕組みも採用されており、周囲の人間に視覚的にクルマの状態を知らせる工夫が強化されていると感じた。
人間用の客室はルーミーでサロンのようなインテリアを持つ一方、貨物運搬用のユニットは直方体に近く、それぞれの装着時には全体のフォルムも大きく変化して、全く異なる車両のようだ。さらに、後者は指紋認証機構も備え、無人配送された荷物を街中などでも安全に受け取れるような配慮もなされている。
ビジョン・アーバネティックは、モジュラーカーの可能性と、自律運転車のあり方の両面で、新たな進化の方向を示すものと言って良いだろう。