生活に密着した地球観測衛星の魅力を伝えたい
JAXA・第一宇宙技術部門で使われるAXISフォント

「JAXA」と聞いてどんなミッションを思い浮かべるだろうか。記憶に新しいのは、国際宇宙ステーションに長期滞在して6月に帰還した金井宇宙飛行士や、同じく6月に科学惑星「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに到着したといった、地球から宇宙に向かっていく話題だ。

一方で、タイの洞窟に閉じ込められた少年の救出に「だいち2号」の地表画像が活用されたり、10月末に打ち上げられる「いぶき2号」では地球上の温室効果ガスを観測して温暖化対策に貢献するという。これらの地球観測衛星のミッションは、宇宙から地球を見つめ、生活に密着したさまざまな情報を提供すること。

こうした衛星の存在をもっと広く知ってほしいと、JAXAでは10年ほど前から広報物などのデザインに力を入れている。そこで採用されているのが、AXISフォントだ。

人びとの生活に役立つ地球観測衛星

――第一宇宙技術部門とは、どんな分野を扱っている部門なのでしょうか。

山下裕史国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門事業推進部 主査)
JAXAにはいくつか部門があり、ロケット開発や、宇宙飛行士などの有人宇宙技術の部門、また小惑星探査機「はやぶさ2」などの宇宙探査、宇宙を見るための天文衛星、基礎研究などを行っています。私たち第一宇宙技術部門は、地球観測衛星など地球と関わるような衛星の開発と運用を担当している部署です。

▲山下裕史氏(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門事業推進部 主査)

――7月にタイの洞窟に閉じ込められた少年たちが救出された際にも、JAXAの衛星による観測画像が役立ったそうですね。

山下 はい。今回貢献した「だいち2号」は、宇宙から地表に向けて宇宙から地表に向けて電波を照射して、地形の情報を取得する衛星です。電波を使うので、雨季の厚い雲を透過して地表を観測することができます。また、「だいち2号」は波長の長い電波を使うことで、熱帯雨林の葉を透過して地表を把握できるので、どのあたりから水が流れこみそうか判読するために使われたと、聞いています。

▲「だいち2号」が観測した伊豆大島

――ほかにはどんな人工衛星がありますか。

山下 去年12月に打ち上げられた気候変動観測衛星「しきさい」は、人の目には見えない近紫外線〜熱赤外線までを捉える特殊な工学カメラを使って、地表の色をとてもきれいにとらえる衛星です。8月に、地表面の温度の画像を公開して大きな話題になりました。

▲気候変動観測衛星「しきさい」


また、10月末に打ち上げを予定している「いぶき2号」は、宇宙から地球上の温室効果ガス、二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスを観測するための衛星です。地上にも温室効果ガスの観測点はあるのですが、世界で数100ヶ所と少なく、また国によって観測機器や手法にばらつきがあります。衛星を使えば、同じ観測機器で、3日で約56,000点の観測が可能です。「いぶき2号」によって、地球規模での温暖化対策や規制に貢献できるのではないかと考えています。

▲温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号」

地球観測衛星の存在とミッションを知ってほしい

――こうしたなか、10年くらい前から印刷物やグッズ、展示などのデザインに力を入れるようになったそうですね。それはなぜですか。

山下 第一宇宙技術部門は、さまざまな地球観測衛星を開発・運用しているわけですが、一般の方々には馴染みの薄い科学的な内容が含まれている。それが私たち広報担当の頭を悩ませているところなのです。科学的な視点とは違うところから、地球観測衛星に興味を持っていただけないかと、デザインに力を入れるようになりました。

例えば、「だいち2号」の観測画像に色をつけてみるとアート作品のように見えます。ほかにも光学レンズで撮影した画像は、雲の模様もきれいで、地球を見る目が変わるかもしれません。画像を示して科学的な意義がありますよというだけではなく、「宇宙から見ると地表ってきれいでしょう」といったまっさらな視点で、私たちの取り組みを伝えられないだろうかと思っているわけです。


「だいち2号」「いぶき2号」「しきさい」などの衛星が認知され、より幅広い人びとに興味をもってもらえると、次のミッションにもつながります。また、将来を担う子どもたちにも衛星に興味をもってもらいたい。

――そうした広報活動の一環で、AXISフォントを使っていただいています。

▲下間恵美子氏(デザイナー)

下間恵美子氏(デザイナー) はい。私は、第一宇宙技術部門の広報印刷物や学会の資料、グッズ、展示パネルなどのデザインを担当しています。

AXISフォントは、私が制作するほぼすべてのものに使用しています。部門全体の制作物を担当しているので、グッズから展示パネル、研究チームの学会用のポスターまで制作物の幅はとても広いです。内容も、研究者、一般の方、子ども向けまでとさまざま。AXISフォントはウェイトの種類がたくさんあるので使い分けても統一感が出ますし、硬い情報を扱っていてもフォントにやわらかさがあるので、敷居が低くなる。

視認性が高いこともポイントです。学会のポスターは英語も併記してかなり情報を詰め込んだ状態になりますが、それでも読みやすい。また、小さなお子さんから高齢の方までご覧になるような展示パネルでは、細いウェイトでも見やすいです。

――5年前、採用の決め手となったのはどういったことでしたか。

下間 地球観測衛星の画像の印象やインパクトを邪魔しないようなフォントを求めていました。あと、あまりイメージを偏らせないニュートラルなフォントであること。AXISフォントはぴったりでした。

――「あまりイメージを偏らせない」とは。

下間 簡単に言うと、「宇宙っぽい」デザインに寄りすぎないようにする、ということです。皆さんの宇宙やロケットに対するイメージって、太めのゴシック体であったり、頑丈な機械みたいな感じがあると思うんです。小惑星探査機「はやぶさ2」だったらいいかもしれません。でも、地球観測衛星は、地球の方を向いて、地球を撮影しているので、宇宙に勢いよく飛び出していくイメージとは違う。観測画像に太いゴシック体を載せると、ちぐはぐな感じがします。


 
見ていただきたいのは地球そのもの。皆さんの生活に密着したところで動いている衛星による観測画像そのものに説得力があるので、あまり手を加えないようにしたい。AXISフォントは、直線も曲線も適度なやわらかさがあって、画像を引き立ててくれるように思います。

よい意味で「JAXAっぽくない」デザイン

――グッズにもAXISフォントを使っていただいています。

下間 このボトルは、学会やイベントで配布するためのグッズのひとつです。人工衛星の分野は、研究機関や企業などさまざまなコミュニティとのつながりがあるので、こういったグッズを資料と一緒にお渡ししてコミュニケーションをはかります。印刷範囲の制限があったので、シンプルにAXISフォントを使いました。

――受け取る人の反応はいかがですか。

下間 私自身は、直接反応を伺う機会はありませんが、受け取る方が「使いたい」と思っていただけるようなもの、普段の生活の中で馴染んで、欲しいなと思っていただけるようなものをデザインするように心がけています。

――印刷物もグッズもエレガントな印象があります。よい意味で「JAXAっぽくない」感じがします。

下間 女性にも宇宙や人工衛星に興味を持っていただきたい、女性が「いいな」と思うものでアピールしていきたいと思っています。
人工衛星はとても機械的な硬そうなイメージがあるかと思います。こういったグッズや一般の方向けの展示物は柔らかさの部分も同時に演出し、女性でも受け入れやすいよう意識してデザインしています。


こちらから伝えたい情報の量が多くなってしまったとしてもAXISフォントを使用すると圧迫感なくデザインすることができます。観測画像との相性もとてもよくて。画像も生きるし、文字も読みやすく、本当にバランスがいいんです。

今は、10月29日に打ち上げ予定の「いぶき2号」に関する一般の方向けの展示を「筑波宇宙センター プラネットキューブ」で行うので、その展示用パネルを制作しているところです。もちろんAXISフォントを使用しています。(展示は開催中。2018年11月25日まで)

▲「いぶき2号」の特別展示用のパネル

山下 一般の方の人工衛星に対するイメージを変えたいという作業は地道で、一朝一夕にはいかないと思いますが、取り組んでいるなかで「とっつきにくさ」は緩和しているのではないかな、と思っています。これからもデザインに気を使いながら、一見難しいと思われがちな地球観測衛星の存在が一般の方々にも受け入れられるような、取り組みを続けていきたいです。

――ありがとうございました。End
Photos by Kaori Nishida

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