「京都家電ラボ」にこれからの家電のあり方を見る。
Panasonic Design Kyoto訪問記(作品編)。

前回の施設編に続き、後編となる今回は「京都家電ラボ」の第2期作品群とその展示風景を紹介する。

Panasonic Design Kyotoの見学会に合わせて披露されたプロトタイプは、「Electronics meets Crafts:(家電と工芸の出会い)」という「京都家電ラボ」の基本テーマを継承したものである。そのうえで、新たに、真っ赤に燃える火の美しさやそよ風の心地よさなどに象徴される、人々の心に刻み込まれた感覚や体験につながる現象をデザインするという意味を込めた「Engraving Phenomena」という要素が付加され、体験価値を追求したものとなっている。

まず、「Hi to toki」と名づけられたプロトタイプは、熾火(おきび)の持つ魅力を、エレクトロニクスの力を借りて生活の中に取り戻そうとする試みだ。

枝竹炭(えだたけすみ)と呼ばれる、自然の形を活かした棒状の炭を電気制御によって加熱し、うつろう熾火を再現。燃え尽きるまでのひとときに魅入るという趣向である。枝竹炭は1回の加熱ごとに交換する消耗品であり、1本ごとに異なる発光のパターンが浮かび上がる。

デザイン誌「AXIS」vol.193の特集「工芸未来。」でも大きく採り上げられた「Soyo gu」は、大型の送風扇と竹工芸の融合から生まれた、そよ風の体験を再現する装置と言える。そよ風の心地よさを、全身で感じる優しい風、静かさ、風にそよぐ草花という触覚、聴覚、視覚的な3要素に分解し、それらが低速で回転する大型の羽根と、竹籠の技法で編まれた、ひご状の竹のソフトカバーのゆらぎによって再現されている。


建具に反射・透過する光の美しさを再構築した「To gaku」は、モジュラー化されたライトユニットとさまざまなパーツの組み合わせによって、伝統的な日本建築の光と空間の関係を見直そうとするものだ。

筒状の部分は、長さのバリエーションはあるものの、基本的に共通の構造を持つバッテリー内蔵型の光源であり、そこに組み合わせるシェード的なモジュールによって大きく表情を変える。しかも、配線の制約を受けることなく設置や移動を容易に行え、暮らしの変化にも柔軟に対応できるという特徴を持っている。

人とモノとの関係性を見直すことで、モノづくりの考え方そのものを改革しようとする実験的な灯りの「Kasa」は、少しでも振動などの刺激を与えると消えてしまう照明だ。実際に手にしてみると、金属の塊から削り出された筐体の意外なほどの重量感に驚かされる。

例えば、夜道の目印としてこの灯りを設置した場合、そっと歩かなければたちまち辺りは闇に包まれてしまう。人の振る舞い方を、モノが引き出し、変えていくところに、このプロトタイプの面白さがある。




 
そして、5つ目の「Oto no kotowari」は、音楽を聴き流すのではなく、もう一度、ひとつひとつの音に向き合って記憶に刻み込むための仕掛けを盛り込んだ、ワイヤレススピーカーだ。水が張られた上面の窪みにある底面スリットを通る光が、壁面に一期一会の波形を映し出し、音を視覚的に眺めることができる。

当初、筐体をガラス工芸の技法でつくったところ、剛性が高すぎて意図通りの振動が得られず、あえて樹脂でつくり直すことで、理想とする視覚表現が可能になったという。


これらのプロトタイプが、そのまますぐに商品化されることはないとしても、実際に旅館やレストランなどの商業施設などに導入されれば、人々に暮らしの豊かさとは何かを再考させるきっかけとなり得ることは十分に考えられる。

特に第2期の作品群は、実物を前に体験しなければ実感できない要素を多く含んでいる。パナソニックには、これらのプロトタイプを積極的に外部に公開し、より多くの人がこれからの家電のあり方を考えるきっかけを与えていくことを強く希望したいと思う。End