特集「世界のデザイン大学2018」に合わせて、コルク代表取締役の佐渡島庸平さんのもとを訪ねたソニーのデザイナー。「学び」を起点に始まったこの日の話題は、コンテンツづくりやインタラクションにも及んでいきました。「Perspectives」は各分野の豊富な知見を持つ人の思考に触れる連載です。
漫画づくりを支援する「CORK BOOKS」
講談社で「ドラゴン桜」や「宇宙兄弟」などの作品を担当してきた編集者の佐渡島庸平さん。「人は体験からしか学べない」と言う佐渡島さんがこれまで手がけた漫画の多くは、作者本人の体験や取材をベースにした現実味溢れるものばかり。読めば疑似体験となるような内容が人気を集め、数々のヒット作をつくり上げてきた。入社時に希望したのは文芸誌の編集部だったが、配属先となった「週刊モーニング」に連載される、実体験が詰め込まれた漫画にも興味を持っていたとか。
2012年に佐渡島さんが立ち上げたコルクは、クリエイターのエージェント会社。コルクは、ドラゴン桜の作者である三田紀房さんが描く投資をテーマにした「インベスターZ」など、漫画家や小説家といった作家らのエージェント機能を担っているが、それだけではない。近年は、新たなウェブサービスの提供も行っている。
作家とファンが一緒に作品をつくる「CORK BOOKS」は、「お題」に対して作家が漫画をアップ。作家同士やファンがコメントし合うことで質を高めていく、ウェブ上の作家支援プラットフォームだ。立ち上げ当初は、漫画を描いたことがないコルクのメンバーが作品を投稿するなど、表現が拙い作品がアップされることを狙った。多様な作品が集まるほうが場を盛り上げ、プラットフォームとしての機能を果たしやすいと考えたからだ。
佐渡島さんは「出版社にいた頃は『YouTubeに最初に動画を投稿したのがスティーブン・スピルバーグだったら、どんなサイトになっていただろう』と考えていました。でもそれではきっと、今のYouTubeにはならなかったはず。ITが素人にパワーを与えて素人革命が起きたからこそ、新しいプラットフォームとして受け入れられたと思うんです」と語る。既存の型にとらわれない「なんでもあり」の場にあえてすることで、新たな表現の創出につながっていく。
予期せぬ楽曲を生む「Jam Studio」
今回の取材に同行したソニーのUXデザイナー坂田純一郎さんが手がけた音楽SNSアプリ「Jam Studio」もまた、ウェブ上に作品が集うプラットフォームだ。CORK BOOKSに寄せられるのが漫画であるのに対し、Jam Studioには音楽が集まってくる。ユーザーがつくってアップした楽曲に別のユーザーが音源を重ね再びアップすることで、新しい楽曲をつくり上げていく。Jam Studioは、ユーザー同士の協奏によって新たな音楽表現を生むコミュニケーションの場なのだ。
2018年1月に発売となったエンターテインメントロボット「aibo」のインタラクションデザインも坂田さんの仕事だ。ユーザー体験のコンセプトを立て、aiboの振る舞いによって、ユーザーにどのような感情が立ち上がるかなどを検討した。こうしたインタラクションについて、佐渡島さんが「例えば、緊張した表情を省いた自分のアバターで、会話するというアプリがあります。そのアプリを使うと緊張を感じさせず、相手はリラックス。すると、今までしたことがないような深い話もできるそうです。自分の行動が、相手に変化を引き起こすのが面白いですね」と語ると、坂田さんは「aiboも役割としてはそう。テクノロジーは単に便利なものよりも、何かを後押しする存在でありたいと考えています。人の人生観を変えたり、広げる方向に使っていけたら」と共感を示した。
テクノロジーによってあらゆる境界が取り払われ、関係性がフラットに近づくことで、さまざまな体験がより身近になった現代。体験の先に学びの醸成を見据え、新しい場や新しいインタラクションを生み出すサービスの構築に、デザイナーのクリエイティビティが求められている。それがまた、新しい「学び」の体験を生み出すというように循環していくのではないだろうか。(文/廣川淳哉)
もうひとつの「Perspectives」ストーリーでは、佐渡島さんのお話をきっかけに通常のデザインワークとは異なる視点からものづくりをした坂田さんがその考えを語ります。Sony Design Websiteをご覧ください。
また、コルクがエージェントを務める漫画家・三田紀房さんの「インベスターZ」がテレビ東京でドラマ化、好評放映中です。「インベスターZ」の原作についてはこちらまで。