藤村龍至展「ちのかたち」レポート
ものをつくるための「知恵」の意義を問う

▲3階ギャラリー「ROOM_TL」。手前に「鶴ヶ島太陽光発電所環境教育施設」(2014)、奥に「BUILDING K」(2008)のプロセス模型。

知とかたちの創造的な関係

建築家・藤村龍至の個展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」がTOTOギャラリー・間で始まった。

タイトルの「ちのかたち」には、「人間の知をつかさどるかたちのあり方として建築を再定義したい」という藤村の考えが投影されている。「より多くの知恵が集まれば集まるほどよりよいもの(ちのかたち)ができる」と語る藤村の理念のもと、一対一での施主との対話による「ちのかたち」から、集団との対話による「ちのかたち」、人工知能(深層学習)による「ちのかたち」に至るまで、さまざまな「ちのかたち」を連続的に捉える展示構成が目指された。

▲ギャラリートークにて、4階の「離散空間」を解説する藤村龍至氏。

これまでの「時間」、現在の「公共空間」、これからの「空間」

今回の展示では、大きく3つのエリアが設定されている。最初に足を踏み入れる3階ギャラリーの展示「ROOM_TL」では、時間をテーマに過去のプロジェクトのプロセス模型だけが時系列(TL=Time Line)に沿ってひたすら並べられる。

初期作品の「BUILDING K」(2008)から、近作の「OM TERRACE」(2017)や「すばる保育園」(2018)まで、10年以上にわたるプロジェクトのプロセス模型が一望できる。

▲3階ギャラリーのプロセス模型群。それぞれプロジェクト毎に大量の模型群が時系列で並べられている。

つづいて、都市の公共空間に見立てられた中庭「ROOM_MA」には、今回の展示のために制作された家具が配置される。これらの家具は解体してコンパクトに運搬できるようデザインされており、会期後には藤村氏が現在まちづくりにかかわる「鳩山ニュータウン」と「椿峰ニュータウン」の公共空間で活用される予定だ。

▲中庭の展示「ROOM_MA」。複数の使い方が同時に可能な家具「離散空間家具」を制作。古着を販売するためのハンガーラック、コーヒースタンド、円形のベンチとテーブルが並ぶ。展覧会期間中に、これら家具を利用したイベントを開催予定。

4階ギャラリーの展示「ROOM_DS」では空間をテーマに、未来の社会の空間モデルとしての「離散空間(DS=Discrete Space)」(つながることと隔てられることが等価にある空間)を提案している。映像や家具を展示するための空間を提案。厚紙を利用した中空の構造体を用い、連続するひとつながりの形態(初期作品の「UTSUWA」(2005)を彷彿とさせる)として構成している。

▲4Fギャラリー「ROOM_DS」。チリの建築家・映像作家のディエゴ・グラスによる映像作品が7台のモニターで展示。それぞれの映像作品は、これまでに藤村が手がけてきた作品の現在の様子を撮り下ろしたもの。

▲3階の中庭「ROOM_MA」から3階ギャラリー「ROOM_TL」と4階ギャラリー「ROOM_DS」を見る。

これからの「ちのかたち」を考える

このように、3階から中庭を経て4階へ至る展示動線のなかで、「ちのかたち」の過去・現在・未来を見てとれるようになっている。そして4階の離散空間を一巡した先に現われる「DEEP LEARNING CHAIR」が展示の最後を飾る。

世界上位9カ国語で画像検索をした椅子の大量のイメージをもとに、人工知能(深層学習)によって典型的な椅子の形態を生成する試みだ。実際に大量の知(情報)を扱ったプロジェクトだが、最終的にアウトプットされた椅子は「なんともいえないかたちをしていた」という。

▲「DEEP LEARNING CHAIR」(協力:堀川淳一郎、2018)。Google画像検索から類型化し、要素を統合し、人力でデザインした「Global G Chair」(2014)の機械版。

たくさんの知恵が集まるほどによりよいものができると言った先に、手放しでは褒められないような、ちょっと笑ってしまうようなユーモラスな形態が現れた。

「この椅子をみた人はモヤモヤした気持ちになるかもしれない。しかし、このモヤモヤに建築家は向き合わなければいけないのではないか」と藤村自身が語るように、「DEEP LEARNING CHAIR」はこれからの「ちのかたち」をめぐる問題提起として配置されている。

「より多くの知恵が集まれば集まるほどよりよいものができる」という宣言から始まった展覧会は、過去の建築作品を一望しつつ、現在進行中のまちづくりとも連動しながら、未来に向けた空間モデルが示され、さらなる問題提起とともに締めくくられる。

そこでは、実現した建築作品だけが展示されるのではなく、また抽象的なコンセプトだけが表現されるわけでもない、藤村龍至という建築家自身の思考と実践のプロセスが、起承転結のある物語のように再構成されている。

「ちのかたち」としてのカタログ

最後にカタログのデザインについても少し触れておきたい。

藤村はこれまで設計活動と並行して展覧会の企画やフリーペーパーの発行など、さまざまなメディア活動を行なってきたが、それらのグラフィックやエディトリアルを一手に引き受けてきたのが、今回の展示とカタログのデザインを担当した刈谷悠三(neucitora)だ。そうした意味において、今回の展覧会は藤村と刈谷によるデザインワークの集大成であるとも言える。

特にカタログデザインの密度と精度には驚かされた。表紙・帯・見返しからイントロが始まり、本文では用紙を細かく切り替えながら、写真・テキスト・図面などが混ざり合うように配列されていく。

しかも用紙の切り替えと目次の切れ目は必ずしも一致するわけではなく、用紙の変化に影響を受けながら内容が展開していくようにも見える。著者とデザイナーの対話による「ちのかたち」が、カタログにおいて体現されている。End

▲書籍のディスプレイを利用したカタログのプロセス展示。

藤村龍至展「ちのかたち――建築的思考のプロトタイプとその応用」

会期
2018年7月31日(火)-9月30日(日)
開館時間
11:00-18:00 *月曜休館
入場料
無料
会場
TOTOギャラリー・間
詳細
https://jp.toto.com/gallerma/ex180731/index.htm