REPORT | ソーシャル
2018.07.18 20:17
サスティナブルな暮らしに対する関心は、今や世界的なトレンドとなっているが、メルボルンの生活者は、どのようにフェアトレードの農作物や安心して口にできるローカルの食材を手に入れているのだろうか。ここでは、30年以上に渡ってメルボルン近郊で、ソーシャル・エンタープライズを実践してきた「CERES Community Environment Park」を紹介したい。
約4ヘクタールの敷地を持つコミュニティパークには、都市型農園とオーガニックマーケット&グロサリー、カフェ、ガーデニングショップ、教育施設などが含まれる。立地はメルボルン中心部から6、7kmほど北にあるブランズウィックイーストというエリア。運営母体の非営利組織CERESが1982年に開設した同パークは、現在では毎年50万人近い来場者を数え、コミュニティと教育のハブとして地域に愛されている。
CERESが展開する事業について、広報担当のMaria McConkeyさんに聞いた。
「私たちは、地球環境にとって、そして、人間にとってより良い暮らしを実現することを目指して1980年代から活動してきました。現在展開する、ソーシャル・エンタープライズ(社会的な目的のために行われるビジネス)は、フェアフード、カフェ、グロサリーショップから、教育事業まで多岐に渡ります。私たちにとって直接的な利益を生み出す教育や物販の事業もあれば、参加者同士の結びつきを主な目的としたイベント開催など、さまざまなアクティビティーを仕掛けています」
定期的に開催される「Tamil Feasts」というタミル料理のディナーを35豪ドルで振る舞うイベントは、スリランカからの難民をサポートする目的でスタートし、本格的なタミル料理が味わえることと、そのイベント時にシェフとして働く4人の亡命希望者を支えるという双方の面から人気イベントとして定着している。
オーガニックマーケット&グロサリーでは、パーク内で収穫された野菜や、メルボルン近郊の農園から仕入れた農作物を購入することができる。価格の面では大手スーパーマーケットに分があるものの、それでも人が集まる理由を尋ねると「私たちの顧客は、CERESの思想をよく理解し、共感してくれているのだと思います。大手スーパーが化石燃料を利用して遠く離れた生産地から、時に生産者を圧迫するような低価格で大量に買い付けてきた野菜ではなく、ローカルの採れたての野菜を適切な価格で購入することに魅力を感じてくれるのでしょう」
彼らは店舗での販売のみならず、フェアフードのデリバリーも行っており、消費者は、ベーシックボックスやサラダ用などといった好みのオーガニック野菜を詰め合わせたボックス、または、希望する品目をインターネットで注文することができる。各地域に一軒ずつある、フードホストと呼ばれる会員宅の庭先までのデリバリーであれば、送料無料で受け取れることもうれしいサービスだ。また、車で行き来する環境負荷を低減できる点もこのサービスのポイントだ。
CERESにとってもう一つの大きな収益源となっている教育事業については、毎年多くの児童生徒たちが、学校の遠足や課外授業として同パークを訪れ、太陽光発電の施設やエコハウスを見学している。こうした次代を担う子供たちへの教育活動は、環境問題に関心を持つきっかけづくりや、子供らが将来的にアクションを起こす種を社会に蒔いていると言える。
取材の終わりに、今後のビジョンについて尋ねると、「私たちは現在、総予算の95%を教育活動とソーシャル・エンタープライズの利益で賄っています。非営利組織としては極めて高い収益構造を維持できているのですが、将来的にその割合を100%に上げることを目指しています。また、ビクトリア州のより広範囲の子供たちへの教育活動に取り組むことで、環境問題に対する理解をさらに広めていきたいと思っています」
安心して食べられる素材のみを使用し、グルテンフリーメニューなども数多く揃えたオーガニックカフェは朝食の時間帯から賑わい、子供の遊具コーナーを隣接したグロサリーショップには幼い子連れの買い物客の姿が目立つ。長年に渡って続けてきた、地球環境と共に生きるという志と、社会貢献をテーマにした取り組みにより、近隣のみならずメルボルンシティから顧客を引き付けているということもうなづける。
環境配慮という軸を中心にしたーカルでの活動に加え、13年前にはCERES Globalというプログラムを立ち上げ、インドやキューバなど国外の環境NGOとも連携してきたCERES。時に難民雇用など、社会問題にも目を向ける彼らの姿勢が、対外広告費を使わずに、口コミだけで年間来場者数47万人(2016年度)、ソーシャルメディアの総リーチ数100万人超という数字に表れている。