24万人を動員した世界最大の照明見本市「Light + Building 2018」
テックと意匠の先端が集う場が照らす未来とは

▲Messe Frankfurt GmbH / Petra Welzel

2年に一度、世界中の照明デザインとその関連機器や技術の最先端が集結する見本市「Light + Building(ライト・アンド・ビルディング。 以下L+B)」が、2018年もドイツ・フランクフルト国際見本市会場で開催された。照明、電子工学、ホーム&ビルディングオートメーションなど、従来のプロダクトデザインとしての照明にとどまらない、意匠とテクノロジーそれぞれの先駆的企業が一堂に会し、3月18日(日)から23日(金)の6日間にわたってブースを展開した。

本年のL+Bは前回(2016年)を上回る規模を見せ、動員数は世界177カ国から22万人を、出展団体は世界55カ国から2,700社を超える大盛況に。広大な敷地で繰り広げられたさまざまなブース群、その一端を紹介する。

▲見本市会場は広大な敷地に11のホールを構える(Messe Frankfurt GmbH / Jens Liebchen)

テック系と意匠系

世界最大の照明見本市であるL+Bでは、造形としての照明デザインから、新しい照明生活を実現するための部品やデバイス、ネットワークといったテクノロジーまで、さまざまなジャンルのブースが軒を連ねている。さらに言えば、L+Bは照明に限らず、スマートハウスやオートメーション技術といった分野までもカバーする一大イベントであるため、訪問の際にはある程度の目星を立てておく必要があるだろう。

多様な分野が集まっていることもあり、ホールによってその場の世界観は明確に異なっている。特にテック系と意匠系とでは、ブースのつくり方がまるで違う。一巡するだけでも長い道のりと時間を要するが、いく先々で別の世界に触れることのできるのだから、訪問先の分野を絞っている人でもそうでない人でも飽きることのない物量がそこにはあった。

▲テック系の企業ブースが立ち並ぶホールの一角。テックベンチャーのデモ会場に近い雰囲気

▲nimbus group、Louis Poulsenなど意匠系(スタイリングとしての照明デザインのクオリティが高い)企業のブース

スマートホーム向け製品を扱うEnOceanNodOnが共同で開発した「Soft Remote(ソフト・リモート)」は、セルフバッテリー、防水、耐衝撃のリモコン。バッテリーに加えてマグネットが内蔵されていることから冷蔵庫やヒーターに付随させておくことができ、またシンプルな外観ながらもプッシュ回数やスワイプといった簡単な指の動きによってさまざまなデバイスを操作することができる。

▲Soft Remote(ソフト・リモート)の外観と中身


▲MILOO-Electronics(上)とFLOSは共にスマートフォンやタブレットによる照明操作システムを体験できるブースを展開

メタリックな質感で洗練されたフォルムが特徴の製品を展開するOcchioの「Mito」シリーズは、造形と機能双方において優れた製品だ。天井から吊るされた照明本体はワイヤーの仕組みによってロックやネジを必要せず、本体を自由に無音で上下移動させることができる。また調光や調色においては付属のオリジナルコントローラーを使う以外に、本体の近くで手を動かすだけで、触れずとも照明を操作することができた。そのストレスのない操作設計が、プロダクトとしての審美性と同様に秀逸だ。

▲Mito by Occhio (Messe Frankfurt GmbH / Pietro Sutera)

▲Mitoのコントローラー。こちらのデバイスを使う以外に、スマートホンによる操作、手の動き(正確には本体と手の距離)による操作が可能

進出する日本企業

L+Bには10数社の日本企業が出展。スタンレー電気は主軸の自動車照明の展示に加え、2016年にナイアガラの滝のライトアップパフォーマンスに採用された超狭角配光LED投光器を全面に出した空間演出を展開した。また日本の職人とコラボレーションする海外メーカーとしてSanta & Coleは提灯にインスピレーションを受けてデザインされた、マグネットと和紙がともに使われている照明「Tekio」を出展。キャプションまで日本語を用意するなど、会場では他に見ない空間を演出していた。

▲スタンレー電気のブース

▲Santa & Coleのブース

フランクフルトの街を照らす

L+B期間中のフランクフルトは街全体がお祭りムードに包まれる。国際見本市会場にとどまらず、街のいたるところでインスタレーションを楽しむことのできる屋外イベント「Luminale(ルミナーレ)」が同時開催された。会期を通じてのこちらの動員数は24万人にも及んだという。

▲プロジェクションマッピングのインスタレーションが披露された、現在はコンサートホールとなっている旧オペラ座(写真上:Messe Frankfurt GmbH / Jochen Günther)

▲都市における屋外生活と気候に関する考察のための装置でもある「URBAN CLIMATE CANOPY」(Messe Frankfurt GmbH / Jochen Günther)

L+Bから見るUIデザイン

照明デザインをめぐるテクノロジー。そこには日常生活のなかでユーザーが照明と接する際に必要となるインターフェースとしてのテクノロジーから、直接的には目にすることのできない、照明という機構を支える部品やネットワークといった縁の下のテクノロジーまでさまざまなものがある。L+Bとはまさにそれらすべてを網羅する展示会であるわけだが、ここで改めてL+Bで触れたインターフェースについて整理をしておきたい。

照明のインターフェースとは「スイッチのオン/オフ」と「調光・調色」が大きな割合を占める。そしてそれらふたつにまつわる従来のインターフェースとは「指や足など、ユーザーは自らの身体を使って、本体もしくはリモコンの該当箇所を押す」というものだ。そこに近年のIoT技術が加わり、インターフェースには以下3つの傾向が展開されているように思う。

ジェスチャー
身体やリモコン、ボタンといった物理的な要素同士の接触を介入させることなく、ユーザーの動きだけで照明を操作するもの。センサーとアクチュエーターの発達により、言われなければ、それどころか例え言われたとしても気づくことができないほど、技術や部品の小型化、不可視化が進んでいる。照明デザインからリモコンとボタンという大きな要素が削ぎ落とされることで、照明というプロダクトに残された光源や配線(給電)にまつわるデザインがどう変化するのだろうか。

スマートフォン/タブレット
世界中の誰もが所有するようになったと言っても過言ではないスマートフォンに従来のボタンやリモコンといった機能を代替させる方向性。スマホという世界共通のプラットフォームに乗っかることで、自社でデザインすべきインターフェースの大半はソフトウェア(アプリケーション)となる。トライアンドエラーのコストやスピードという点では、ハードウェアのウェイトを下げソフトウェアに集中できることは効率的。

オリジナルデバイス
従来の照明デザインにおけるリモコンにあたるもの。上記ジェスチャーやスマホなど、技術の進歩によって物理的な要素が削ぎ落とされていくという傾向に逆行するかたちで、それでもなおオリジナルなハードウェアをつくるということであれば、その必要性があるほど新しい技術を採用しているのか、それとも「手にとってみたい」と思わせる、照明への愛着を担う存在としてハードウェアに可能性があるのか。




冒頭でも触れたとおり、L+Bはテック系と意匠系でブースの棲み分けが明確に設計されている。両者それぞれに膨大な出展数があるため、会期中に全てをくまなく見ようとすることは、まさに嬉しい悲鳴として、厳しいものがある。多くの人は、目星のジャンルやエリアを思い浮かべて、ある程度対象を絞ったうえで会場をまわることだろう。

しかし人間の身体そのものがひとつのデバイスとしてネットワークや他の機器とよりシームレスにつながる時代——そう遠くない未来——では、既存のテック系と意匠系の境界はどんどん見えなくなっていく。L+Bに繰り広げられるブース群もまた、これまでの区分が取り払われた、より融けた場へと変わっていくに違いない。

従来の区分けから解放された、あの広大な敷地で展開される未来の照明展とは、どんなものになるのだろう。そんな先々の未来を見据えながら、次回2020年のL+Bの開催を楽しみに待ちたい。

L+B 2018で披露された諸ブースのより専門的な紹介と考察は、ウェブマガジン「AXIS」連載企画、ライティング・エディター谷田宏江さんの「Lighting Edit」でも展開中。是非ご一読を。End