【ミラノサローネ2018】注目の10ブランドを解説!
フィエラから振り返る今年のミラノサローネ

今年のミラノサローネ国際家具見本市には、イタリアに加え33カ国・地域から1,841社が出展した。クラシックからコンテンポラリーまで幅広い家具が集まるロー・フィエラの見本市会場では、多くの新作が話題にのぼる。そのなかから10ブランドにフォーカスしてみたい。

MAGIS

Photo by Magis

マジスのスタンドを手がけたのはストックホルムをベースに活動するノート・デザイン・スタジオ。ピンクやベージュを基調に、落ち着きのあるトーンでまとめた色合いが印象的だ。

今回、イッタラとのコラボレーションで実現したオイヴァ・トイッカの「Linnut」は、有名な吹きガラス作品の「Birds」がベースになっている。1970年代に誕生し、現在でもインテリアイテムとして人気のある作品が、ポリカーボネート製の照明に変身。ガラスのようなテクスチャーとユーモラスな表情が、マジスのコレクションに加わった。

収納メーカーFamiとマジスの共作で実現した「Chess」は、コンスタンチン・グルチッチのデザイン。シートメタル製の頑丈なキャビネットであるにもかかわらず軽やかな印象を与えているのは、オーク材の引き手と台座を組み合わせているからだろう。インテリアに取り入れたくなる存在感に仕上がっている。

emeco

エメコのスタンド壁面を飾ったのは、アルミニウム製の鳥。ハト、スズメ、ツグミ、カラスをかたどったオブジェは、ジャスパー・モリソンの教え子だったユン・リーが自主制作をプレゼントしたことをきっかけにエメコの目に止まり、製品化されることになった。アルミニウムの成形、曲げ、陽極酸化による加工といった、エメコのものづくりが反映されている点でも新作にふさわしいと評価されたという。それぞれの鳥はほかのコレクション同様、ロゴが刻印されている。

ジャスパー・モリソンの「Alfi」シリーズは2015年に発売されて以来、好調な人気を得ている。その成功を受け、脚がアルミニウム製になった「Alfi Aluminium」が発表された。元のスタイルを損なわず、ヘビーデューティーな環境に耐える強度と機能性が備わっている。座面に脚を取り付けたというよりも、頑丈な脚の構造体の上に座面を乗せて固定してあるのが特徴的だ。

そしてもうひとつ、「1 Inch」シリーズに加わったのは「1 Inch Reclaimed」。原材料の90%が産業廃棄物(廃棄ポリプロピレン75%、廃木材繊維15%)というバージョンだ。従来のリサイクルアルミニウムを使用したアームチェアのデザインを踏襲しつつも、樹脂成分が多い素材と単色で仕上げられた本作は、よりカジュアルな印象が強くなった。持続可能性の高い素材への取り組みは、現代の家具ブランドに求められる姿勢のひとつでもある。

Established & Sons

Photo by MatteoCuzzola

エスタブリッシュ&サンズでは5組のデザイナーが新作を手がけた。ディミトリ・ベレはフロアランプ、ロナン&エルワン・ブルレックはソファ、コンスタンチン・グルチッチはコーナーソファシステム、マウロ・パスキネリはスタッキングチェア、そしてクリエイティブディレクターを務めるセバスチャン・ロングは吹きガラス製のペンダントランプを発表。スタンドの左右に、グルチッチとブルレックの新作ソファを並べ、まるで対比するように披露されていたのが興味深い。

コンスタンチン・グルチッチの「Barbican」は、いまやコンサバティブなスタイルにも感じられるコーナーラウンジソファを、色のブロックと直線的なシートパッドで再構築してみせた。非対称の台座や、非常に低い座面のソファは他メーカーでも増えている。その傾向を持ち込みながら、クッションやシートパッドで“かっちり”としたたたずまいを演出している。

Photo by MatteoCuzzola

一方で、同じくソファをデザインしたロナン&エルワン・ブルレックの「Cassette」は、金属フレームに柔らかいクッションを組み込んである。縦に置いても自立するほど堅牢に仕上げられたフレームは、両サイドの肘掛と脚部分に組み合わせた木がアクセント。大ぶりなクッションとのアンバランス感が軽快に感じられる。

PLANK

プランクからは、コンスタンチン・グルチッチと深澤直人の新作チェアが発表された。
グルチッチの「Cup」は、プラスチック製のスーツケースに着想を得た構造。「薄く中空成形されたスーツケースは、プラスチック成形に革命をもたらした」と語る。その技術を椅子の構造体に活かせないかと考えたときに行き着いたのが、甲殻類のように外側から内側を包み込む構造体だったという。黒または白のシェルは、無限の色や布との組み合わせに調和し、支えているように感じられながら、この椅子の主役であり続けるだろう。

深澤直人の「Land」はラウンジチェア。低く、わずかに傾斜した座面は、高い背もたれに体を預けるのにバランスがちょうど良い。自然に足を伸ばしたくなり、全身でくつろぐ姿勢になる。回転成形によって凹凸のない滑らかな流線型に仕上げられたプラスチック製で、屋内外どちらの使用にも耐える。

ふたつの新作はどちらも、新たな技術力が発揮されてこそ成立するものだろう。1953年の創業以来、時代の先端技術が広げる可能性を探求し、それを家具に応用してきたプランクの挑戦が製品に宿っている。

GLASITALIA

グラスイタリアは毎年のように吉岡徳仁と組み、新製品を発表してきた。今回の「Starlight Glass Table」と「Starlight Mirror」は、吉岡が継続してきたクリスタルに対する探求から生まれた2作品だ。

円形のテーブルは15mm厚の透明な天板を支える脚の構造が、星の輝きのような光を放っている。これは、透過度の高いガラスとプリズムを結合させて角柱をつくり、光を屈折させているもの。6つの角をもつ形に組み合わせて星型にしてある。

透明な天板からは脚の中央に鋼のプレートが見えるので、鋼製の脚かと錯覚してしまうが、実際に鋭く輝いているのはガラスだ。

Photo by TokujnYoshioka

ミラーは、このガラスとプリズムの角柱をフレームに用いてある。45度の角度で接合されており、輝きを損ねないように壁から数センチ浮かせるように設置されていた。ミラーもテーブルの脚も、ガラス自体のきらめきを鑑賞させる彫刻作品のような存在感である。

MOROSO

Photo by A.Paderni

パトリシア・ウルキオラはモローゾのクリエイティブディレクターとして20年来、ブランドイメージを培ってきた。ミラノサローネでのスタンドデザインは毎年、ウルキオラが特に注力する部分だ。今回のテーマは「マテリアル&アート」。たとえば、プロダクトに用いる色彩計画を反映した壁面が、ナチュラルなカラーから鮮やかな紫色へとグラデーションになっているのは、クリエイティブなプロセスの暗喩だという。芸術から材料へ、徐々に移行する無限の試行錯誤を表現したようにも感じられる。

Photo by A.Paderni

多くの新作のなかで、今のモローゾがかもしだすイメージと重なったのは、ベンジャミン・ヒューバートの「Tape」。モジュール式のソファだ。座面、背面、側面の組み合わせが自在で、それぞれが異なる色や質感をもち、そしてテーピングしたような縁取りが施されている。スポーツウェアに使われることの多いポリウレタンテープが丸みのあるソファの形状を強調し、自由な色使いを調和する役割も果たしている。広い公共の場にも、小規模な居住空間にも似合う柔軟さは、モローゾの新たな定番となりそうだ。

diabla

スペインのアウトドアファニチャーメーカー、ガンディアブラスコが、3つ目となる新ブランド「ディアブラ」を立ち上げた。既存の2ブランドよりもさらに自由でシンプル、カジュアル、大胆で遊び心を重視した新鮮さを打ち出すという。建築家でデザイナーのサラ・ロメロがクリエイティブディレクターを務め、今回は4コレクションを披露した。

そのうちのひとつ、「Donut」は小林幹也がデザインしたスツールだ。その名のとおりドーナツ型をした座面はポリウレタンフォームでできていて、屋外での使用に耐える防水性の高いファブリックで包まれている。

シートは取り外すことも可能。金属製の脚はシートの色に合わせて粉体塗装されている。実はこのスツール、07年にミラノサローネサテリテ(35歳以下の若手デザイナーが自主出展するエリア)で小林自身が発表したものが原型になっている。10年を経て製品化されるにあたり、シートの縫製など細部のクオリティを上げたい、と量産化へ向けた最後の仕上げにも余念がない。新ブランドを牽引する新作として、ディアブラのスタンドで注目を集めた。

KARIMOKU NEW STANDARD

本会場へ2度目の単独出展を果たしたカリモク・ニュー・スタンダード。日本の広葉樹を原材料に、国内外のデザイナーとのコラボレーションで積み上げてきたコレクションは、ヨーロッパでも徐々に認知度を高めている。今年は、ゲッケラー・ミヘルス、ビッグゲーム、クリスチャン・ハースによる新作6アイテムを発表し、コンテンポラリーなデザイン要素がカリモク・ニュー・スタンダードの個性であることを改めて印象づけた。

クリスチャン・ハースの「Elephant Sofa」は、昨年発売となったシリーズに1シーターとアイランドが登場した。無垢材から削り出した脚に、大ぶりのクッションを組み合わせるスタイルは踏襲しながら、ゆったりとした座り心地を追求している。1シーターでは特にアームレストのカーブが強調され、“象”っぽい愛嬌のある姿も際立つ。プライベート空間に限定しない、幅広い用途を前提に考えられたシリーズが充実してきている。

MARUNI

マルニ木工が国内外のデザイナーを起用し「MARUNI COLLECTION」を発表してから10年目。本会場への出展は3度目となる。今年も、深澤直人とジャスパー・モリソンによる新作がコレクションに加わった。

ジャスパー・モリソンの「Fugu」は、無垢材の質感が全面に押し出されながらも、重厚感というより優しい心地よさをイメージさせる。アームレスト部分などは、積み木で組み立てたようなポップな楽しさを演出しているかのようだ。実際に座ってみると、座面の緩やかな傾斜が、体を自然と背もたれに寄りかからせる。無垢の素材に支えられる安心感は、この姿勢から生まれるのだろう。

深澤直人の「Roundish」は、成形合板による柔らかな曲線が、一度見たら忘れられないシルエットを描くアームチェア。平面の板を立体的に曲げるという素直な加工で、シンプルさを生み出している。薄いシェルは座ると想像以上に体をすっぽりと包み込み、立ち上がるのが億劫になるほどちょうどよい高さに肘をかけられるのは、計算し尽くされた構造体によるものだ。

SANWA COMPANY

隔年で開催されるキッチンの見本市「ユーロクッチーナ」に、日本企業として唯一、出展しているサンワカンパニー。住居空間の狭小化が進む都市部を見据えて、「The Impact of Compact」をテーマにさまざまなコンパクトキッチンを提案した。

Photo by SANWAcompany

アレッサンドロ・メンディーニのスタジオが手がけた「AM 01」は、アイランド型として自立可能なコンパクトキッチン。木製パネルのキャビネットドアが緩やかな曲線を描き、その一方で内側はスケール感を重視して機能性が確保されている。そしてなんといっても、鮮やかな色彩による仕上げはトレンド感が満載だ。ガラスやステンレスを組み合わせた光沢に加え、外側と内側をつなぐカラースキームでも魅せるのは、ポストモダンデザインを経てきた巨匠のなせる技といえるだろう。

いま注目したいデザイナーのひとり、エリザ・オッシノの「EO 01」は、ミニマリストにうってつけのユニットキッチンだ。日本の伝統的な生活様式が意識されたつくりで、空間の仕切りとなる壁面に隠れてしまうような、さりげない存在として考えられている。とはいえ、キッチンとしての装備は過不足なく満たす。食の環境を優雅に演出するための大がかりなキッチンとは対照的に、狭い空間の問題を解決する現実的な提案でもあり、ストイックさは未来的な要素も感じさせる。

ここで取り上げた10社に限らず、これからのプロダクトやインテリアデザインの潮流に強い影響力をもつブランドがどのような新作を発表するか。その動きを目のあたりにできるのが、ミラノサローネの魅力のひとつだ。