作品に共通する自然の色彩と陰影。
吉川静子「私の島は何処」、
そのインスピレーションの源を辿る。【5月27日まで】

Photo by Yuta Fukitsuka

5月17日(木)より27日(日)までアクシスギャラリーにて開催されている吉川静子の個展「私の島は何処」。17日のオープニングでは現在スイスに在住する吉川静子も在廊し、自ら作品に触れながらドイツ・ウルム造形大学やスイスでの暮らしについても語るなど、1960年代のドイツやスイスのデザイン、具体芸術そして作家本人の言葉を通じて当時の熱に触れることのできる機会となった。

この日は会場で先行販売もされている吉川の作品集「shizuko yoshikawa」(ラース・ミュラー・パブリッシャーズ)の著者である美術史家のガブリエレ・シャードと企画者であるラース・ミュラーも来日し、約20年ぶりとなる吉川の展覧会に際し作品の見所を語るとともに長年をスイスで過ごしてきた彼女と作品の里帰りを祝福した。

Photo by Yuta Fukitsuka

今回展示されている27点の作品は会場右の立体的な作品より1970年代から2000年代のものへと変遷していく構成となっている。興味深いのは初期の作品と近年の作品とのあいだに約40年もの月日が流れているのにも関わらず、決して古びて見えないことだ。ミュラー氏が「タイムレス」と評する吉川の芯のある作風が会場を見渡すことで実感できる。

また、スイス・コンクリート派の芸術に精通するシャード氏からも本展覧会の作品について美術史家の視点から話を聞くことができた。「彼女の作品に見られる、印象派のアプローチとも近いさまざまな色が混ざり合う柔らかな色彩は、ほかのコンクリート派には見ることのない画期的な表現です。理性的な幾何学の奥に、溢れんばかりの感情が色彩によって感じられます。パステルカラーなどの色づかいもほかに類を見ないもの」。夫ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが亡くなった後の1997年に制作された吉川の作品の前でシャード氏はそう語った。

Photo by Yuta Fukitsuka

吉川の作品には一貫して自然界の光によって移ろう色彩と陰影が共存している。特に彼女が70年代後半から80年代にかけて制作したレリーフ「色影」シリーズにその特徴を見ることができる。このシリーズは立体的な正方形の集積が色と影を織りなす作品で、正面から見据えたときに最大の視覚効果が得られるだけでなく、立ち位置を変えて鑑賞することで全く違った表情を見せてくれるものだ。

Photo by Yuta Fukitsuka

シャード氏はこれら作品が放つ個性を「かつて建築工芸を学んでいた吉川は建築空間において意図的に苔を生やしたコンクリートを用いてレリーフを製作している時期がありました。表現はあくまでも幾何学的なものですが、それだけではない彼女の内側から滲み出る光と影への繊細な関心や色彩が彼女の作品のエッセンスなのでは」と指摘する。5月27日(日)までの開催期間中に、ぜひ直接作品との距離を変えながらゆっくりと眺めてもらいたい。

また、26日(土)には六本木アートナイトの参加イベントとしてミュラー氏によるギャラリートークを開催する。詳細は下記の通り。End

▲ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンにデザインを学び、吉川静子とは長年の友人でもあるラース・ミュラー。

「私の島は何処」

会期
2018年5月17日(木)〜27日(日) 11:00-19:00 ※会期中無休
会場
アクシスギャラリー(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F)
入場
無料

ラース・ミュラーによるギャラリートーク

日時
2018年5月26日(土)18:00-19:00 ※事前申込不要
展示詳細
http://www.axisinc.co.jp/media/exhibitiondetail/63/
主催
吉川静子ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン財団
後援
スイス大使館
協力
アクシスギャラリー