街のなかに投げ出されるような宿泊体験。
平田晃久が設計したカプセルホテル
「ナインアワーズ赤坂」

▲「ナインアワーズ赤坂」の2階は男性専用フロア。カプセルユニットを大きくずらしながら配置している

5月10日、カプセルホテル「ナインアワーズ赤坂」がオープンした。立地は、地下鉄・赤坂駅から徒歩約4分の、テレビ局やオフィスタワーの裏通りに面した比較的落ち着いたエリアだ。ガラスファサードの奥に、ナインアワーズを象徴する近未来的なカプセルが並ぶ様子はインパクトがある。建築家の平田晃久が目指したのは、「これまでのカプセルを反転した状態」。カプセルが街のなかに投げ出され、街と一体化していくようなコンセプトだ。

▲外観

▲全体の模型

細胞のように集積するカプセル

ナインアワーズは2009年に京都にオープンし、「都心における機能的で高品質なトランジットサービス」というコンセプトを踏襲しながら成田、仙台、北新宿と展開してきた。7店舗目となるナインアワーズ赤坂は初の建築プロジェクトとなる(注:今年3月にオープンした竹橋よりもプロジェクトとして先行していた)。

ナインアワーズの立ち上げ時からクリエイティブディレクションとプロダクトデザインを担う柴田文江は、「はじめて建築家に依頼することになり、真っ先に思いついたのが平田晃久さんでした」と振り返る。「私がカプセルユニットをデザインしたときから、カプセルが細胞のように集積することでモノや建物ができていくようなイメージを思い描いていました。平田さんは普段からオーガニックな考え方でものづくりを実践しているので、ナインアワーズの理想を実現してくれると期待したのです」。

平田が提案したのは「街のなかにカプセルを投げ出す」というコンセプトだった。「この周辺は“すり鉢の底”のようになっていて、それを象徴するように、高いところには高い建物、低い所には低い建物が建っている。そんな地形の面白さを感じられたらと思い、カプセルが街に投げ出されるような、透明なビルを構想しました」(平田)。

ビルの中央にある男女別のエレベーターでカプセルのフロアに上がり、奥へ進むほどに、視界に赤坂の景色が開けていく。床から天井までがガラス壁のため、平田がいう「街に投げ出される」ような感じを覚える。フロア数カ所には吹き抜けと、「温室」の塚田有一による植栽が設けられ、カプセルホテルの閉鎖的なイメージを覆すような、明るく開放的な雰囲気が印象的だ。

▲3、4階は女性フロア。全体に柱がないように見えるが、カプセルが収まっている各ユニットボックスの四隅に100ミリ角の柱が入っている。建築法規上、カプセルは家具(ベッド)と同じような扱いとなる

▲4階の配置図

▲4階の一番奥。赤坂のすり鉢状の地形を目の当たりに

平田が「個人的にこの部屋が好き」という2階窓際のカプセルから外の道路を眺めると、クルマが自分に向かって走ってくるようなスリルを味わえるという。「街は自然に近いものととらえることもできます。キャンプ感覚で寝泊まりしてみると、自分が生きているのとは違う日常の世界が見えて面白い。交差点に放り出されるような感じと、植栽もあってくつろげる感じとが混ざり合っているのはナインアワーズ赤坂ならでは」。

▲平田によると、「2階男性フロアがいちばんカプセルユニットのずれ方が激しくなっている」

▲2階の道路に面したカプセルは、通行人の目線の高さにあり、「さらされ感」が特に強い

▲吹き抜けがあることで、縦方向にも開放感が感じられる

カプセルホテルと言えば、黒川紀章の「中銀カプセルタワー」など、60〜70年代に提唱・実践された未来都市の概念「メタボリズム」を思い浮かべる方もいるだろう。平田にもその意識はあったという。「60年代のメタボリズムは巨大な構造物にカプセルユニットをプラグインすることで、それ自体がひとつの都市システムとして働くという構想ですが、ナインアワーズは得体の知れない都市のなかに直接カプセルをプラグインするという考え方です」。

黒川紀章が生活に必要な機能を凝縮してカプセルに閉じ込めたとすれば、ナインアワーズのカプセルは睡眠という機能に特化し、それ以外の機能は街に委ねている。メタボリズムを反転させたようなイメージだろう。

イメージは「東海道五十三次」。ロケーションごとの個性と機能

現在、平田は複数の新店舗の設計を手がけている。そのなかで平田が心を砕くのは「周辺との関係性」だ。ロケーションの地形や人の営みを読み取り、それらとの新たな関係性を生み出すような建築やプログラム(機能)を開発している。

例えばナインアワーズ赤坂では、東京のスペシャルティコーヒーをリードする店のひとつである「GLITCH COFFEE & ROASTERS(グリッチコーヒー&ロースターズ)」によるハンドドリップ専門のコーヒースタンドを併設。宿泊者以外も利用でき、街で活動する人々との接点が生まれるきっかけをつくった。

また3月にオープンした「ナインアワーズ竹橋」では、皇居周辺を走るランナーのためのランニングステーションを併設した。ほかにも、進行中の「ナインアワーズ新大阪」では新幹線から見える看板のような構造物とカプセルを融合させたり、「ナインアワーズ浅草」では仲見世通りを垂直方向に展開したようなものと融合するという。その街にある要素との融合の仕方はさまざまだ。「周辺との関係性によって見え方や機能が変わります。毎回手探りですが、取り組んでいてとても面白い」。

▲ハンドドリップ専門のコーヒースタンド「GLITCH COFFEE BREWED @9h(グリッチコーヒー ブリュード アットナインアワーズ)」。

▲ナインアワーズ竹橋(左)と浅草の模型。こちらも平田による設計だ

こうしたサイトスペシフィックな店舗展開について、平田のなかでは「東海道五十三次」のイメージがあるという。「浮世絵という形式は同じでも、そこに描かれている景色は全く違います。ナインアワーズも、カプセルというニュートラルなフォーマットを使って、各ロケーションの個性を際立たせていく取り組みなのだと思います」。

街に開き、街のなかの機能として存在するカプセルホテル。ナインアワーズのチャレンジは建築家を得て、今後さらに勢いを増していきそうだ。End

ナインアワーズ赤坂

所在地
東京都港区赤坂4-3-14
[東京メトロ千代田線赤坂駅より徒歩約4分
東京メトロ銀座線・丸の内線赤坂見附駅より徒歩約5分]
営業時間
24時間
延床面積
999.21㎡[約302.79坪]
敷地面積
350.17㎡[約105.92坪]
規模
地下1階地上4階建
客室数
168室[男性80室/女性88室]
料金
宿泊4,900円〜[チェックイン13:00〜、チェックアウト翌日10:00]
仮眠1,000円〜[最初の1時間は1,000円。以降1時間毎に500円。利用可能時間13:00〜21:00]
シャワー700円
所有
南海電気鉄道株式会社
運営
株式会社ナインアワーズ
URL
ninehours.co.jp/akasaka/