NEWS | アート / 展覧会
2018.05.11 17:00
まだ日本人女性の留学が珍しかった1961年、ヨーロッパに渡りバウハウスの流れを汲むドイツ・ウルム造形大学(1953-1968)でデザインを学んだ人がいる。今もスイスに暮らしながらアーティストとして活動する吉川静子だ。スイスグラフィックデザインの先駆けであるヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの妻として知る人も多いかもしれない。
吉川静子の約20年ぶりとなる展覧会「私の島は何処」が2018年5月17日から27日までアクシスギャラリーにて開催される。彼女はヨーロッパを中心にウルム造形大学の初代学長でもあるデザイナー、マックス・ビル率いるスイス・コンクリート派の重要な芸術家として知られているが、作家も来日する本展覧会はヨゼフ・ミューラー=ブロックマンのデザインによるポスターを含む彼女の初期から近年に至る作品25点を日本で観ることのできる貴重な機会となる。
今回初めて彼女を知る人には、東京での学生時代からスイスに暮らすようになるまで一貫して自身で進むべき道を切り開いてきた事実も驚きをもって映るのではないだろうか。展覧会の開幕前に才能と情熱と勤勉さを持ち合わせた彼女の勇気ある人生の物語もぜひ知っていただきたい。
1934年福岡県大牟田市生まれ。当時中学生だった吉川静子はラジオから流れる西洋音楽の響きに魅了され18歳で上京し津田塾大学英文学科で学んだ。卒業後、ハーバート・リードの「インダストリアル・デザイン」を読みデザインへの興味が芽生えると、彼女はもう一度大学で学ぶことを決意し東京教育大学(現筑波大学)工芸建築科に進学。彼女が東京教育大学の3年生だった1960年に開催された世界デザイン会議に通訳として出席した際、後の夫のヨゼフ・ミューラー=ブロックマンを含めたヨーロッパのモダニズムを牽引する第一人者たちと出会った。ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンが会議で語った「デザイナーの仕事が公平かつ客観的であるべきだ」という言葉は彼女の視野を広げ、さらに彼女をデザインの世界へと導いていくことになる。
東京教育大学を卒業後、ウルム造形大学ビジュアルデザインコースに進学。2年で自主退学しグラフィックデザイナーとしての拠点をスイス・チューリッヒに移した彼女は、友人に誘われたことをきっかけにヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの事務所で働くこととなり、運命的とも言える再会を果たす。そしてその4年後の1967年、ふたりは結婚した。彼女は結婚後グラフィックデザイナーとしての活動から離れ、具体芸術家として制作を続け今に至っている。彼女がこれまでも強い意志と情熱によって異国で制作を続けてきた姿は現代においても並ではないが、当時の日本の社会と照らし合わせて考えるとその突き抜けた行動力には尊敬の念を抱かずにはいられない。
一見距離があるようにも思われるグラフィックデザインと具体芸術の両方の精神をもつアーティストとして歩んできた吉川静子。本展覧会の企画者でありグラフィックデザイナー、出版人のラース・ミュラーは今回展示される彼女の作品を「タイムレスなもの」と表現する。また、作品に一貫している彼女の個性について「日本文化を感じさせるポエティックな軽やかさをもつ色彩と欧州の数学的な文化の融合」とも語っている。
吉川静子も在廊予定のオープニング・レセプションは5月17日(木)18:00-21:00まで。会期中にはラース・ミュラーなどのギャラリートークも開催される。詳しいイベントスケジュールは下記の通り。
「私の島は何処」
- 会期
- 2018年5月17日(木)〜27日(日) 11:00-19:00 ※会期中無休
- 会場
- アクシスギャラリー(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル4F)
- 入場
- 無料
- 日時
- 2018年5月17日(木) 18:00-21:00 ※作家在廊
- 日時
- 2018年5月19日(土) 15:00-16:00
※ギャラリートークは申し込み不要。 - 日時
- 2018年5月20日(日) 15:00-16:00
- 日時
- 2018年5月26日(土) 18:00-19:00
- 展示詳細
- http://www.axisinc.co.jp/media/exhibitiondetail/63/
- 主催
- 吉川静子ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン財団
- 後援
- スイス大使館
- 協力
- アクシスギャラリー