「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」。
現代日本の建築に宿る9つの特質

▲展覧会は9つのセクションに分けられている。各テーマは、01可能性としての木造、02超越する美学、03安らかなる屋根、04建築としての工芸、05連なる空間、06開かれた折衷、07集まって生きる形、08発見された日本、09共生する自然。

国際的に高い評価を得る日本の現代建築。そこに潜む遺伝子を、古代から現代を貫く9つのテーマで読み解こうとする展覧会が、東京・六本木の森美術館で開催中だ。それぞれのテーマごとに新旧さまざまな建築資料や模型、体験型インスタレーションを組み合わせたオムニバス形式の展示構成となっている。今回は、9つのテーマのうち4つに注目して本展を紹介していきたい。

01可能性としての木造

最初のテーマは「木造」。伝統建築における木造の技術や精神性が、どのように近代から現代にかけて活かされてきたかを探るセクションだ。まずは、北川原温による「ミラノ国際博覧会2015日本館」の立体木格子を再現したスクリーンが展覧会の導入を飾る。

立体格子のゲートをくぐると展示空間が広がる。「会津さざえ堂」や「東大寺南大門」などの古建築から、磯崎 新の「空中都市」や菊竹清訓「東光園」などのメタボリズム作品、隈 研吾の「檮原木橋ミュージアム」などの現代建築の模型がところ狭しと並べられるが、注目すべきは入口付近にガラスケースで展示された「大工秘伝書」だろう。木割書とも呼ばれるこれらの古文書は建築の各部材の比例関係を体系化したもので、日本建築の部分から始まる設計技術や美的感覚の基礎となったとされる。西洋建築の歴史が古代ギリシア建築のオーダー(基本単位となる円柱と梁の比例)を出発点にするように、現代日本の建築に連なる出発点に木割書を位置づけようとしている。

そのほか、「東照宮五重塔」の吊り下げ心柱と「東京スカイツリー」の制震心柱を比較しながらわかりやすく解説するなど、建築を専門としない人にとっても楽しめる内容となっている。

▲北川原温「ミラノ国際博覧会2015日本館 木組インフィニティ」。金物を使わず、紀州檜に単純な相欠き加工を施し組み上げた。

04建築としての工芸

4つ目のセクションのテーマは「工芸」。素材や手仕事に焦点を当てて日本の建築の特質を探る。村野藤吾の「日生劇場」や吉田五十八「大阪ロイヤルホテル」の素材と職人技が一体となった空間性から、工業製品を手仕事によって工芸にまで高めた石山修武の「幻庵」が紹介される。現在進行中の試みとしてはたったひとりでコンクリート造の住宅をつくり続ける岡 啓輔の「蟻鱒鳶ル」が異彩を放っていたが、このセクションの目玉はなんといっても「待庵」の原寸模型だろう。現代の工芸により、500年以上前に建てられた国宝の茶室が展示空間内に再現されている。

▲「待庵」。ものづくり大学の協力のもと、実測図や文献を丁寧に読み解き、釘一本から忠実に再現した。

05連なる空間

5つ目のセクションのテーマは「連なる空間」。「源氏物語二条院」の50分の1の復元模型から始まり、戦時中日本に亡命していたドイツの建築家ブルーノ・タウトがモダニズムの美を見たとされる「桂離宮」の石元泰博による写真を経て、丹下健三の「丹下健三自邸」と「香川県庁舎」が大きく取り上げられる。日本の伝統とモダニズムの融合を丹下健三に見る展示構成だ。1953年に建てられたが後に解体されたため、現在では見ることができない「丹下健三自邸」を、本展覧会では3分の1スケールの模型で再現。原寸の「待庵」同様に、実物に近い精巧さでつくられている。


▲「住居(丹下健三自邸)」模型。建築家が詳細図を起こし、宮大工が中心となって施工した。

▲齋藤精一+ライゾマティクス・アーキテクチャー「パワー・オブ・スケール」。3Dの体験型インスタレーション。レーザーファイバーと映像で数々の建築を寸法体系とともに原寸で再現している。

09共生する自然

最後のセクションのテーマは「自然」。環境共生住宅の元祖とされる藤井厚二の「聴竹居」も取り上げられているが、どちらかと言えばより広い意味で自然や環境と一体となった現代の建築が、多彩な模型表現によって多数紹介される。

石上純也の「House & Restaurant」は、土型を掘削してコンクリートを打設した後、土を掻き出すことで躯体となるコンクリートが現れるという現在進行中のプロジェクトだ。展示された模型は実物と同様にコンクリートでつくられている。他にも、象設計集団の「名護市庁舎」は粘土の模型が、藤森照信の「ラコリーナ近江八幡」は1本の丸太から削り出した模型が展示されている。かねてより「究極の建築は巨大な1本の大木から削り出したもの」とする藤森照信の理想を表した模型なのかもしれない。

▲石上純也「House & Restaurant」の模型。躯体部分には砂利を混ぜたセメントを使い、実物と同じ方法で図面通りにつくられている。

具体的な「建築」の展示

絵画や彫刻と違い、建築は実物を展示できない。これは建築展の独特なところで、しばしば弱点として指摘されることでもある。建築展では、図面や模型や写真を通してその建築の魅力を伝えなければならないため、どうしても抽象化された図面や模型に慣れていない建築を専門としない人には難しい内容になりがちだ。

しかし本展では、原寸大の「待庵」や3分の1の「丹下健三自邸」をはじめ、縮尺の大きい模型が多く集められたことで、一般の人にも親しみやすい内容になっている。各部材まで木材で精密に表現された模型は、スチレンでつくられた抽象化された模型とは違い、部材と部材がぶつかり合う具体的な「建築」として観る側に迫ってくる。具体的な建築そのものの力によって、この展覧会はより多くの人に開かれている。End

▲「家具のモダニズム」と題したブックラウンジ。丹下健三研究室による「香川県庁舎」のマガジンラック付ベンチや舎執務室間仕切り棚を中心に、剣持デザイン研究所や大江 宏、長 大作らの家具で構成される。

建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの

会期
2018年4月25日(水)~ 9月17日(月)会期中無休
開館時間
10:00~22:00 火曜日のみ17:00まで
会場
森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)
詳細
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/japaninarchitecture/