高架下にできたタイニーハウス(小さな家)の複合施設。
まちを変える
「ものを持たない」という価値観。

▲「タイニーズ 横浜日ノ出町」の場所は、京急・日ノ出町駅から徒歩約4分の大岡川沿い

2018年4月28日、京急日ノ出町駅(横浜市)の高架下に、タイニーハウス(小さな家)の複合施設「タイニーズ 横浜日ノ出町」がオープンした。タイニーハウスとは、小屋やトレーラーハウスといった小さな空間、およびそこで暮らす考え方のこと。数年前からアメリカでブームとなり、日本でもキャンピングカー市場が活況となるなど広がりを見せている。

▲「タイニーズ 横浜日ノ出町」のエントランス

必要最低限の設備を備えたホステル

「タイニーズ 横浜日ノ出町」は、ホステル(5月8日オープン予定)、カフェ&イベントスペース、水上アクティビティ拠点で構成される。「タイニーズホステル」はタイヤのついたシャーシの上に20フィートコンテナを載せた、いわゆるトレーラーハウス。電気や水道などのインフラはワンタッチで取り外しができ、公道を走ることができる。

▲「タイニーズホステル」の1棟貸し用の部屋。1棟1泊18,000円〜(4名まで同料金)

▲トレーラーハウスのシャーシ

一棟貸しタイプと男女別のドミトリータイプの3棟があり、それぞれ外装やインテリアが異なっている。設備は、4つのベッド、トイレ、シャワーブース、シンク、2脚の椅子とテーブルのみ。ベッド下に鍵つきの貴重品入れも備わりセキュリティも万全だ。

電車が通過するとそれなりの音はするものの、終電から始発までの時間は静かだ。そもそも利用者は、昼間はイベントや水上アクティビティに参加したり、観光に出ているという想定。ホステルへは睡眠と身支度を整えるために戻るだけだから、必要最低限の設備があればいいという考えだ。

▲女性用ドミトリーのベッド。ひとり1泊ドミトリー3,600円〜

▲男性用ドミトリー

▲部屋の設備は、Wifi、シャワー、トイレ、湯沸かしポット、ドライヤー、ボディーソープ、シャンプー、コンディショナー、フェイスタオル、バスタオル、金庫のみ

2030年がターニングポイント

タイニーハウスのホステル、しかもそれが鉄道の高架下に設置されたのは日本初だという。それにしても、なぜタイニーハウスなのか。京浜急行電鉄とともに運営するYADOKARI(ヤドカリ)は、住まいや暮らし・働き方にかかわるイベントやワークショップを企画・運営するソーシャルデザイン会社。世界のタイニーハウス事例を紹介するメディアを手がけ、移動式スモールハウスの開発・販売も行っている。

共同代表のさわだいっせいとウエスギセイタは、「3.11以降、僕らはアメリカをはじめとする世界のタイニーハウスの事例を5,000件以上も調査してきました」と説明する。「金融危機や自然災害を経験し、人々は本質的な豊かさとは何かを模索している。“ものを持たない”“断捨離”“ミニマリスト”はこれからの新しい暮らし方を示すキーワードであり、そうした暮らし方を選ぶ人が増えています。同時に住宅のダウンサイジングが進み、今は動産、すなわち動く空間が重要なトレンドになってきているのです」。

▲プロジェクトについて説明する共同代表のふたり。マイクを持つのが、さわだいっせい、左がウエスギセイタ

いわゆるトレーラーハウスは動産であり、土地建物(不動産)と比べたとき、さまざまなメリットが考えられる。まず工期が短く、コストは安い。固定資産税や自動車税もかからない(駆動装置を持たないため)。何よりいつでも動かすことができ、通常は建物を建てられない場所にも設置可能だ。「インターネットが当たり前の時代に生まれた僕らミレニアム世代は場所に縛られず、多拠点での生活や働き方を選ぶことができます。例えば朝起きて海でサーフィンし、それからシャワーを浴びて通勤する。翌週は山のなかで仕事をしてもいいのです」。

YADOKARIは、ホステルというかたちでタイニーハウスを人々に体験してもらいながら、モビリティを活用した新しい暮らし方や働き方、価値観を啓蒙していきたいという。

さらに、「タイニーズを他の地域にも展開していくことで、移動サーカスのように小さなまちが移動していくようなことが起きる可能性もある」とも。トヨタが発表したモビリティサービス専用EV「e-パレット コンセプト」を例に挙げ、「クルマは移動から家の領域へと入ってきた。同じように、タイニーハウスにオフグリッドと自動運転の要素が加わると、10年後のまちのあり方が大きく変わる」と言う。「2030年がまちづくりのターニングポイントだと思っています」。

コミュニティビルドのノウハウを生かす

日ノ出町に隣接する黄金町エリアは、かつて違法風俗店が集まり深刻な社会問題になっていたが、2005年のいっせい摘発後、2008年には京急電鉄と横浜市の協力で高架下に文化芸術スタジオが設立され、アートによるまちの再生が進められてきた。今回の「タイニーズ 横浜日ノ出町」はそうした浄化運動の延長線上にありながら、アートに限らず幅広いコミュニティや観光を取り込もうとしているところがポイントだ。

▲「黄金町アートブックバザール」は、アート系の古書店

目を引くのはここで開催されるイベントの数の多さ。年間で200本を予定しているという。YADOKARIは、日ノ出町の前身となるタイニーハウス施設「ベッタラスタンド日本橋」(2018年3月クローズ)で、2年間で450本を超えるイベントを運営し、約3万人が来場するなど日本橋界隈のコミュニティビルドに大きく貢献した実績を持つ。そのノウハウを横浜日ノ出町エリアの活性化につなげていくという。

▲飲食・イベントスペースを備える「タイニーズリビングハブ」

▲イベントスペースからの眺め。目の前の大岡川でSUP(スタンドアップパドルボード)などの水上アクティビティを楽しむことができる

直近では、古本市や映画上映のほか、路地を歩きながら美味しいものや珍しいものを探して共有するイベント「日ノ出町をおもしろがる会」などが開催される(5/9は満員御礼)。そのほか詳細はオフィシャルサイトで確認してほしい。End

「タイニーズ 横浜日ノ出町」

所在地
〒231-0066 神奈川県横浜市中区日ノ出町2丁目166番地
最寄り
京急線「日ノ出町」徒歩約4分・「黄金町」徒歩約7分、JR線「桜木町」「関内」徒歩約12分
詳細
http://tinys.life/yokohama/