昨年5月に「CLAYスタジオ」に移転した富士フイルム デザインセンター。「CLAYスタジオ」のアイコン的なコンクリート壁をイメージした表紙のリクルート用冊子が社内外で好評です。白いお皿に美味しい料理を盛り付ける、というコンセプトに基づき、余白を生かしたレイアウトに添えられているのがAXISフォント。グラフィックグループのデザイナーに、冊子デザインの意図や、現在手がけている多彩な仕事について聞きました。「CLAYスタジオ」についてはこちらの記事をご覧ください。
「白いお皿」に盛り付けるように
――富士フイルム デザインセンターのリクルート用冊子をAXISフォントで組んでいらっしゃるそうですね。
佐藤大輔さん(富士フイルム デザインセンター デザインディレクター) デザイン系学生の採用のために、10年ほど前から自分たちでリクルート用冊子をつくっています。ここ数年はずっと、和文をAXISフォントで組んでいますね。昨年5月にデザインセンターがここ「CLAYスタジオ」に移転したので、最新版ではCLAYのトーン&マナーにそろえました。
――CLAYという場所やコンセプトにはどんな想いがあるのでしょうか。
佐藤 CLAYはクレイモデルのクレイ(粘土)であり、ほかにも「天性、資質」といった意味があります。この冊子は主に学生に配るものなので、「われわれも皆さんと同じように手を動かしてものづくりをしている」ということを伝えたくて、最初にCLAYのコンセプトイメージを載せました。続くページでは新しいスタジオの雰囲気を伝えながら、そこで若いメンバーがいきいきとものをつくっている様子を紹介しています。
――製品の紹介ページでは、余白を生かしたシンプルなレイアウトが印象的です。デザイン誌「AXIS」のシリーズ広告やデザインセンターのウェブサイトも同じコンセプトですね。
佐藤 おいしい料理を「白いお皿」に盛り付ける、というコンセプトに基づき、情報をできるだけ省いてモノそのものをきれいに見せることを心がけています。製品画像もなるべく真正面のカットですっきり見えるように。
というのもこの冊子は、われわれが学生さんと対面するときに手渡し、ページを広げながら自分たちで仕事を説明するという使い方をするからです。各ページでは製品デザインそのものの魅力がしっかり伝わることが大事で、行間のこだわりなどはデザイナー自らの口で語る。デザイナーを目指している学生さんは、こうした余白の取り方をたぶん理解してくれると思う。白い空間に小さなサイズのAXISフォントを入れても映えるので、しっかり読んでくれますね。
――AXISフォントを選んだ理由は。
佐藤 フォントそのものの個性がありながら、主張しすぎていないから使いやすいんです。文字をかたちづくっている線と線のあいだの空間がきれいですよね。われわれは自分たちの仕事について「誠実なデザイン」を目指すと言っているのですが、AXISフォントは「誠実な書体」だと思います。硬派なビジュアルにも、遊んでいてデザイン性のあるビジュアルにも合うと思います。
「アスタリフト」のパッケージデザイン
――ところで、富士フイルム デザインセンターにおけるグラフィックグループはどういったお仕事をしているのでしょうか。
佐藤 デザインセンターはいくつかのグループに分かれていて、カメラを例に取ると、カメラ本体はプロダクトグループ、操作部分はインタフェースグループ、パッケージはわれわれグラフィックグループが担当します。プロジェクトによっては混成で活動することもあります。
グラフィックグループは、かつてはフイルムのパッケージをデザインしていました。その後、CDやMDなど記録メディアのデザインを手がけ、2000年以降は化粧品やサプリメント、医療分野などへと領域が広がっています。それらの製品開発に沿って、ネーミング、ロゴ、パッケージをデザインしています。
――化粧品「アスタリフト」の、ハッとするような赤いパッケージが印象的です。
佐藤 この化粧品は「アスタキサンチン」という抗酸化成分を含んでいます。フラミンゴやイクラの色などに含まれているのと同じ、赤い色素を持っている。ジェリーアクアリスタの容器は、ジェリー状の中身そのものに見えるように、透明感と赤色を極力シンプルに表現しました。
また、セルアクティブセラムの容器は、カッティングによって赤い色が増殖していくようなイメージです。百貨店の化粧品売り場で扱われるブランドなので、プレステージなきらきらしている印象に。同時に毎日使うものですから、手に取った時に気持ちよく、モチベーションが高まるようなたたずまいを考えました。
――製品ロゴをつくるときに気をつけていることはありますか。
若林あかね(富士フイルム デザインセンター グラフィックデザイングループ チーフ) 基本的にすべての製品ロゴは既存のフォントを使わず、イチから描き起こしています。アスタリフトは化学メーカーがつくる化粧品としての誠実さを訴求しているため、ロマンチックで動きのある文字よりは、凛と立っているような雰囲気を大切にしました。
ほかにも「飲むアスタキサンチンAX」というサプリメントでは、「服用することで気持ちがあがる」ように文字の一部を曲げてみたり、イタリックにしてポジティブな気分を表現しています。
研究者・技術者を徹底的に取材する
――BtoB向けの製品も数多く手がけています。
佐藤 例えばこの超音波診断用のジェルは、プローブ(探触子)をあてる前に皮膚に塗るもの。業務用なので通常は味も素っ気もないパッケージやロゴが多いんです。でも現場は女性技師が多く、妊婦さんの目にも入り、さらに肌に直接つけることも配慮して、化粧品のようなたたずまいを目指しました。「ボトルだけでもほしい」と言われるんですよ(笑)。
若林 女性技師に向けた商品ということで、どのくらい女性らしさを出すか、どのくらい堅実さを出すか悩みました。親しみやすさと同時に精緻な感じのする、信頼の持てそうなバランスを探して、このロゴを描き起こしました。
佐藤 ほかにも再生医療の研究用試薬のロゴも手がけています。
若林 「セルネスト」は、骨や皮膚の欠損した部分に移植することで、細胞を再生させるバイオマテリアルです。細胞がつながっていくことを表現するために文字をつなげました。ネーミングの「セル」が細胞、「ネスト」は鳥の巣を意味し、細胞がそこに落ち着いて育っていくようなイメージです。また「セルザイク」は立体の試薬で、構造体と細胞を組み合わせることで再生を早めるためのもの。立体を表現したモザイクのようなモチーフを添えています。
――富士フイルムという会社は実に多彩な製品をつくっているんですね。
佐藤 領域が増えているので、グラフィックチームは本当になんでもやっています。ロゴやネーミングを作るために、時には各地にある研究所を訪問して、研究者たちに取材するんですよ。
――どんな話を聞くのですか。
佐藤 ユーザーがロゴやパッケージを見たときに、「製品のこの機能を表しているんだな」ということが直感的にわかってほしい。なので、機能について徹底的に取材します。自分たちが理解しなければいいものはできないので、わからないことは正直に「わからない」と言い、納得するまで聞きます。そしてとことん理解したところでグラフィックで表現していくのです。
若林 製品でも技術でも、長く愛され続けるためには、それに携わる人が自分の言葉で想いやこだわりを語ることが大事なのではないかと思っています。なので、研究者・技術者の根っこにある気持ちを汲み取って、それを誰に届けたいのか、ということを意識しながらデザインしています。
佐藤 われわれグラフィックグループの役割はコミュニケーションです。つくる人と手に取ってくれる人とのコミュニケーションに重きを置いています。
社内プレゼンにもAXISフォント
――おふたりはプレゼンテーションにもAXISフォントを使っていると伺いました。
佐藤 CLAYスタジオに移ってから、デザイナーがいろいろな人に向けてプレゼンする機会が増えてきました。プレゼン資料をつくるときには画面のビジュアルにも気を使っています。社内でも、デザインセンターの全グループが毎週集まって「今こういう活動をしている」というプレゼンをしています。そのときの資料にもAXISフォントを使うことが多いです。
若林 私も社内向けの資料はAXISフォントでつくります。小さな会議室でプレゼンするときと、大きな部屋でプロジェクションするときでは、画面の大きさや解像度によって見え方が全く変わります。AXISフォントはウェイトがたくさんあるので、発表する環境に合わせて調整しています。また、どんな領域の製品の資料でも、AXISフォントは違和感がなく使いやすいですよ。
―ありがとうございました。
Photos by Kaori Nishida
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富士フイルム デザインセンター http://design.fujifilm.com