「犬ヶ島」 ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

「グランド・ブダペスト・ホテル」や「ダージリン急行」などで日本でも高い人気を誇るウェス・アンダーソン監督の最新作は、なんと近未来の日本が舞台。今までも「ファンタスティックMr.FOX」などでストップモーション・アニメの新境地を開いてきた同監督、今回も「あらゆることが規格外」な作品になっている。

ストーリー

今から２０年後の日本。“ドッグ病”が大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。あるとき、12歳の少年がたったひとりで小型飛行機に乗り込み、その島に降り立った。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、犬たちと特別な友情で結ばれていく。一方、メガ崎市では、ドッグ病の治療薬を開発していた渡辺教授を代表とする“親犬派”と“反犬派”の対立が深まっていたーー。

日本映画のエッセンスが詰まった表現に注目

「日本が大好きなので、日本映画からインスピレーションを受けたものをつくりたかった」と語るウェス・アンダーソン監督。なかでも黒澤 明監督と宮崎 駿監督の影響は大きい。「黒澤作品が一番この映画に影響を与えている」、「宮崎映画の素晴らしさのひとつは、そのディテールへのこだわりと沈黙にあるように思う。宮崎の映画には自然が描かれていて、平穏な瞬間があり、そしてアメリカのアニメ映画では普通観ることにない独自のリズムというものがある。それにものすごくインスパイアされたんだ。映画が静粛を必要としていたんだ。それは、間違いなく宮崎映画からの影響なんだ」と語る。劇中では「七人の侍」の音楽が流れるシーンもあり、どこでどういった使われ方をしているのか見つけるのも楽しい。

また、北斎や広重など、浮世絵をモチーフにした象徴的な演出や劇中のインパクトのあるフォント使いは小気味の良いテンポ感と、ウェス・アンダーソン監督らしい世界観を感じさせる。

こだわりの「鮨職人」のシーンに注目

実写の映画を撮る際にもたびたびインテリアや小物の可愛らしさが話題となってきたウェス・アンダーソン監督らしく、本作においても全編にわたり画面の隅々まで監督の細やかなこだわりとユーモアを感じさせる。なかでも「鮨職人が鮨を握るシーン」は3人のアニメーターとアニメーション監督のブラッド・シーフが2ヶ月以上費やして制作した渾身のシーンだ。「もしパペットが包丁を正しく使えなかったり、本物の鮨職人の緻密さで魚に向かい合わなかったりしたら、愚かだし面白くない」とウェス・アンダーソン監督が話すように、ストップモーション・アニメでポップに見せる手法を取りながらも実に繊細な表現に挑戦している。

今回のために制作されたパペットの数は1,097体。（主役の男の子「アタリ」の髪の毛は手で一本一本植毛されていて、2日間を要する）。実際に掛かった撮影期間は合計445日、スタッフ数は総勢670人、制作したセット数は240にも上り、100分の映画のために144,000の静止画が撮影された。

「犬ヶ島」 ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

個性的な声優陣のキャスティングに注目

本作には声優としてアンダーソン作品常連のビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテル、ティルダ・スウィントン、F・マーレイ・エイブラハム、ボブ・バラバンに加え、スカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、ブライアン・クランストン、リーブ・シュライバー、ランキン・こうゆう、ヨーコ・オノ、RADWIMPS野田洋次郎、夏木マリ、村上虹郎、渡辺 謙ら多彩な才能が一堂に会すのも魅力のひとつ。

▲（左）グレタ・ガーウィグ演じるトレイシー・ウォーカー。（右）村上虹郎演じるヒロシ編集員。
「犬ヶ島」 ©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

登場人（犬）物それぞれ個性が際立って感じられるのは声優を務める俳優陣のキャスティングの妙と言える。さまざまな規格外のこだわりを盛り込んだ本作ではあるが、根幹をなすのは主人公の少年アタリを通して誰しもが共感し得る、友情の物語だ。また現在の日本社会の構造の問題をも日本人に意識させるアニメーションだと感じた。

5月25日（金）よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開される。アニメーションやウェス・アンダーソンの映画ファンのみならず、音楽やファッション、デザインに関心がある人にとっても必見の作品だ。