REPORT | ファッション / 展覧会
2018.04.17 15:06
NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のセット衣装や、野田秀樹が演出する舞台衣装などを手がけるコスチューム・アーティスト、ひびのこづえの展覧会「60(rokujuu)」が千葉県の市原湖畔美術館で開かれている。
タイトルの「60」とは、4月に誕生日を迎えたひびのの年齢だ。展覧会に寄せた文章には、「30代直前でこの仕事をスタートしたときから、クリエイターとして常に年齢の限界に怯えながらいた。(中略)でも私は60代直前でやりたいことを見つけた。それは人に本当の服を着せることだった」とある。
30年に及ぶキャリアのなかで、数多くの「舞台やコマーシャルを彩るアート」を手がけてきたひびの。しかしやがて、関心は衣装そのものから「衣装を纏う人間の身体の美しさ」へと向かっていったという。還暦を迎え、「人生のスタート地点に還ってきたのかもしれない」と綴るひびのが目指す、「本当の服」とは何だろうか。
想像力や身体感覚に働きかける、本当の服
トップライトから光が降り注ぐ、まるで天然のステージのような展示室には、これまでのコスチュームデザインの仕事から厳選した約50作品が展示されている。
ほとんどの服がマネキンに着せるのではなく、ワイヤーハンガーにかかっている。展示室全体が衣裳部屋のようだ。誰かに着られなければ“抜け殻”かオブジェのようだが、だからこそテレビや舞台では目にすることのできないディテールが際立って見える。
一着一着に近寄ってひびのの手の痕跡を眺めていると、例えば女の子たちが「ごっこ遊び」のために、身のまわりの材料を使って即席の衣装をつくるような、その過程自体を楽しんでいるような趣を感じる。
バルーンや結束バンド、プラスチックテープ、ワイヤーなどで布を立体化し、布もカーテンやウェットスーツのように厚みのあるものや、ストッキングのように薄くて伸縮性があるもの、おそらく手芸用のフェイクレザー、足拭きマットなど、通常の衣服では使わないような素材が多い。しかし、それだけでは日用品と布でできた造形物にすぎない。仕上げに、ひびのがミシンや手縫いでステッチをかけ、スパンコールや装飾パーツなどを縫い付けることで、造形に魔法がかけられるように「衣装」へと変わるのだ。
着心地は必ずしも快適ではなさそうだが、それがかえって着る人の想像力や身体感覚に働きかけるのかもしれない。実際に「イソギンチャクの服」を身につけてみると、最初は恐る恐るだが、バルーンを内包したスカートの揺れ方が不思議で、身体が自然に動き出す。ひびのが言う「本当の服」を少しだけ体感できたような気がする。
全10回のダンスパフォーマンスを通じて
現在、「美しさに満ちた世界とその生命のエネルギーを表現したいという衝動に駆られている」と語るひびの。本展のメインイベントは、会期中に開かれる全10回のダンスパフォーマンスだ(有料、事前申込制)。島地保武や引間文佳といったダンサーが服をまとい、踊りを通じて服に生命を与える。逆に、ひびのの服がダンサーの身体や想像力にインスピレーションを与え、両者が一体化しながら即興的なダンスが生み出される。
人生とキャリアの節目に立つひびのにとって、これこそが本当に「やりたいこと」だという。天井から吊るされ、今や遅しと“出番”を待っている服たちと同じように、新たなステージの幕が上がろうとしている。
60(rokujuu) ひびのこづえ展
- 会期
- 2018年4月6日(金)〜6月24日(日)
- 会場
- 市原湖畔美術館
- 詳細
- http://lsm-ichihara.jp/exhibition/2018/hk60
- パフォーマンス
- http://hibinokodue60.peatix.com