REPORT | 展覧会
2018.04.12 19:22
画家、彫刻家、発明家、著述家、絵本作家、造形教育者……。ブルーノ・ムナーリ(1907〜1998)は20世紀を代表するデザイナーのひとりであるだけでなく、多岐にわたる領域で啓発的な仕事をしてきた人物だ。2018年4月7日(土)に神奈川県立近代美術館 葉山館でスタートした「ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ」展は、没後20年にあたる節目に際し、一概にまとめることが難しいムナーリの活動の全貌を見渡す貴重な機会となっている。
異領域をまたいで深化し、広がった造形表現
ムナーリが本格的に芸術活動へと踏み出したのは19歳のとき。20世紀イタリアを代表する美術運動である「未来派」に参画したのが始まりだった。機械やテクノロジーに代表される工業化社会を新たな美として芸術に取り入れる未来派の活動において、ムナーリが描いた抽象絵画はヴェネツィア・ビエンナーレにも出品されている。運動の軌跡や空間と時間の連続性をモチーフにした多くの抽象絵画に取り組む一方で、よく知られるモビール状の作品「役に立たない機械」を発表したのも同時期にあたる。“絵画を空間に解き放った”と評されるように平面と立体の境界を行き来するムナーリの表現が、一時代に集中していることにも驚かされる。
これまで日本でも、ムナーリを紹介する展覧会は、子ども向けワークショップを含めて何度か開かれてきたが、未来派そして続く具体芸術運動の時代にまでていねいに振り返られることは少なかった。未来派の抽象絵画に加えて、第二次世界大戦中に手がけていた雑誌の表紙デザインや、1948年にミラノで結成された「具体芸術運動」での代表作である「陰と陽」などは、今回の展示の中でも時間をかけて見るべき作品群だろう。
子どものための本、その原画や試作も網羅
ムナーリを一般的に印象づけている子ども向けの本に関する作品も多く展示されている。1945年に息子・アルベルトのために制作した9冊や、文字がなく色と形だけで構成された絵本から、「木をかこう」のための試作(1976年)や「みどりずきんちゃん」の原画(1972年)など後年に手がけたものまでを見ると、ムナーリがどれほど長い時間をかけて子どもの造形教育に力を注いでいたかがわかる。今回の展覧会あわせて予定されていた、ムナーリが考案したワークショップの実施が急遽キャンセルになってしまったのは残念だが、絵本や著作、原画を通じて思想に触れることはできるはずだ。
会場の壁面には、ところどころにムナーリの言葉が登場する。「どんな素材にもファンタジアへのヒントがつまっている」「考古学のアイデアを美術の領域に取り入れる」「作品は無限の変化の一つとして出現する」……といった言葉を読み解くような会場構成はそのまま、多様なムナーリの活動を理解するための道筋にもなっている。
自然現象や身の回りにあるものへの眼差しや、初めて手にしたコピー機やスライドを本来の目的とはまるで違う使い方をして“遊び”を見つけ出してしまう奔放さ。好奇心を原動力に突き進むムナーリの創作精神を知れば知るほど、もし現代を生きていたなら加速度的に進化するテクノロジーをどう楽しんでいただろうか、と想像せずにはいられないだろう。
ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ
- 会期
- 2018年4月7日(土)〜6月10日(日)9:30〜17:00(月休、4/30は開館)
- 会場
- 神奈川県立近代美術館 葉山
Mapでみる> - 詳細
- http://www.moma.pref.kanagawa.jp/
- 巡回展
-
北九州市立美術館 分館 2018年6月23日(土)~8月26日(日)
岩手県立美術館 2018年9月8日(土)~11月4日(日)
世田谷美術館 2018年11月17日(土)~2019年1月27日(日)