2020年に向けて改装期間へ。
年月が築いた箱根・富士屋ホテルの魅力【前編】

2020年の東京オリンピックを前に、さまざまなことが変化している。特に、古くからある多くの宿にとって、オリンピックは改装を決断するきっかけになっている。

そのひとつが、箱根・宮ノ下にある富士屋ホテル。2018年3月31日宿泊のお客様を翌4月1日のお昼にお見送りしたのち、2年間の改装期間に入った。

写真提供:富士屋ホテル

明治11年に創業したこのホテルを愛する人は山ほどいる。親子孫にわたる来訪者も多いだろう。たかだか数回、泊まっただけの人間がこれ見よがしに説明するのはおこがましいが、改装前に行くことのできなかった方に少しでもこのホテルの素晴らしさを知らせたい、と、ごくごく個人的な紹介をさせて頂く。

そもそも、このホテルに興味を持ったのは、古本で「We Japanese」という本を見つけたことからだった。日本の風習などを、絵を交えて英語で説明する不思議なこの本は、富士屋ホテル発行。古本は、元の所持者が本に関連する新聞の切り抜きなどを入れておくことがしばしばあるが、この本には「富士屋ホテル小史」というリーフレットが挟まれていた。そこには、創業者である山口家が明治・大正・昭和にかけてホテルを大きくしていったストーリーが書かれていて、とても劇的だった。設立初期にはいち早く電力を引き、地元の道を整備することまでした。

▲we japanese と小冊子。

今使われている宿泊棟は4つ。明治24年建造の本館、明治39年建造の西洋館、昭和11年に建造の「花御殿」は室内プールも備えた鉄筋5階建、そして、昭和35年に建てられたフォレスト館。神奈川県・藤沢市で生まれ育った私にとって、箱根は遠足の近さだったので、泊まりに行く感じでもなく、いつか、と思っているうちに時は経ち、数年前、衝動的に予約を取った。

ホテルに公共交通機関で行くには、箱根登山鉄道の宮ノ下で降りて、7分ほど歩くか、小田原や箱根湯本からバスに乗り、その名も「ホテル前」で降りる。「富士屋ホテル前」ではないところが、このホテルの、歴史と地元での存在感を感じさせる。(登山鉄道の方が風情はあるが、実は、バスの方が早く着く)。

▲ホテル前の停留所 奥に見える<菊華荘>は改装中も営業している。朝ご飯が美味しく、いつもここでいただいた。

建物は「ホテル」というにはあまりにも和風で、御殿と言っていいような屋根が連なる。一歩足を踏み入れると、瞬間的に、空気が変わる。つくられた当時から手を加えられてないのでは、と錯覚するほど、自然な時代の流れを感じさせる。その時代感だけでなく、雑多な一方で統一されているという矛盾のために独特な雰囲気を放っている。いろいろな様式を取り込んでいるので、雑多に感じるが、不思議と筋が通っているのだ。「あれも好き、これも好き、全部、盛り込んでしまった」と欲張りとも取れる建物の造りは、有り余るもてなしの気持ちに感じられる。

最初に宿泊したときは「本館」だった。フロントから、そのまま2階に上がる。同じ建物だが、段を上がっただけで、まったく別世界になる。この建物は明治24年(1891年)に建てられた。まず、通された部屋の天井高に圧倒される。今では、こんな贅沢に(ある意味、無意味なほど)高い天井はないだろう。彫刻を施した古いクローゼットや高い天井に付けられた照明も年代物だ。

▲高い天井の部屋(※この部屋は西洋館)。

部屋全体が醸し出す雰囲気に圧倒され、館内に出た。白い壁(本館の白い壁は、進駐軍の指令で白くしたのでは、という話もあるらしいが、真偽のほどは解らない※注)に赤い絨毯の廊下、長い年月、人が触ることでツヤが出た木製の手すり。人工的にはつくれない「時」を感じさせる。ラウンジ、喫茶ルームを抜け、西洋館、そして花御殿に向かう。(後編に続く)

▲白い壁に赤い絨毯。

※注 知られざる富士屋ホテル図鑑(富士屋ホテル発行)ほか、箱根富士屋ホテル物語 山口由美著(トラベルジャーナル発行)も参照した。

前回のおまけ》

iF design award表彰式のパネル。実はこんなに大きいのです。

展覧会「産地とはなにか」

会期
4月26・27・28・29日(木金土日)
5月3・4・5・6日(木金土日)
5月10・11・12・13日(木金土日)
OPEN 13:00 CLOSE 19:00
会場
工芸青花
東京都新宿区横寺町31-13 一水寮101(神楽坂)
詳細
http://www.kogei-seika.jp/gallery/20180401.html

講座:日野明子「産地のいまとこれから」

日時
4月28日(土) 15:00−17:00
会場
一水寮悠庵
東京都新宿区横寺町31-13(神楽坂)
定員
25名
会費
3,500円
お申し込み
https://shop.kogei-seika.jp/products/detail.php?product_id=226