優れた「データプロダクト」を設計するための9の原則

「データプロダクト」(ユーザーデータを活用する製品・サービス)はちまたにあふれています。スマホの経路検索アプリからECサイトなどのレコメンドシステムまで、ユーザーデータによって実現する体験は、ますます人それぞれに即した理にかなったものになってきています。しかし、それと共に特有の課題も見えてきます。ユーザーデータ活用による高品質な顧客体験を実現するには、データ収集と分析、結果の使い方と伝え方について、慎重な検討が求められます。ユーザーに愛される魅力的なデータ製品を設計するための9の原則を紹介しましょう。

1. データ収集は受動的に

ユーザーデータの収集が、ユーザーの体験の質を損なうものであってはなりません。プライバシーの問題はもちろん重要なのですが、実のところ「より良い体験と引き換えに、自分のデータがどのように使われるのか」に対する消費者の期待は高まっています。この傾向は特にミレニアル世代に強く、取引相手の企業が自分の個人情報を安全に保護してくれることを、この世代の80%が「ある程度信頼している」あるいは「非常に信頼している」と答えています。

スマートフォンは、膨大な「受動的データ」(ユーザーが能動的にデータを提供するのではなく、スマートフォンを身に着けて生活する中で自動的に残すことになる各種ライフログのこと)を収集し続けています。「加速度センサー」「GPS」「アプリ使用状況」などはすべてユーザーのことを知り、より良いユーザー体験を提供するために利用できます。例えば、「Googleマップ」は何百万人ものユーザーのGPSデータを利用して、渋滞を回避できる最速ルートをユーザーに提案していますね。受動的データ収集は、隠れたビジネス価値の発見にもつながります。例えば、大部分の企業がアクセス者のサイト内での行動履歴といった「クリックストリームデータ」を収集していますが、標準的な分析ソリューションを使う以上のことをしている企業はほとんどないでしょう。

frogでは、フォーチュン100に名を連ねるある企業が、自社のウェブアプリ上でのユーザー行動についての理解を深めるために行った、1年分のクリックストリームデータの分析をサポートしました。その結果得られたのは、顧客がコールセンターに電話をしなくてもデジタル環境で取引を完了させられるように、ユーザーインターフェース(UI)を改善する方法の数々でした。私たちは体験全体にわたるユーザーのフローを視覚化し、彼らが苦痛と感じる点を発見できるようにした「ユーザー・インターアクション・フローチャート」を開発しました。そしてそのデータを使って、UIの変更が全体的な「デジタル取引完了率」に与える影響を推定できるユーザー行動モデルを生成しました。それに基づきUIを改善した結果、顧客体験が向上し、コールセンターのコストを年間60万ドル以上削減できたのです。

2. ユーザーを疲弊させない

ユーザーが製品に接するまでは、データは存在せず、パーソナル化はできません。能動的データ収集法ならコールドスタート問題(新規ユーザーや新商品は、データが少ないため適切な情報をレコメンドしづらくなる)を克服できますが、その収集法はユーザー体験の自然な一部でなければなりません。優秀なデータ製品は、煩わしくなり過ぎずに必要なデータを収集できる、簡単で興味を引く事前体験をユーザーに与えることで、この問題を回避します。アップル・ミュージックでは、新規ユーザーに「何に興味があるかを教えてほしい」と尋ねてジャンルが書いてある吹き出しをいくつか表示し、ユーザーがその中から選択するようになっています。パーソナル・スタイリング・サービスのStitch Fix(スティッチ・フィックス)は、最初の答えにユーザーの好きなアイテムが必ず入るようにする質問リストを使ってユーザーを誘導します。Netflix(ネットフリックス)は、サインアップ時に新規ユーザーに好きな映画を三つ選ぶように求め、残りについては時間をかけて対応しています。

事前調査の他にも解決策はあります。frogでは、ある金融機関のために、顧客に理想的な車を見つけてもらうためのウェブアプリケーションを設計しました。まず、市場に出ている全ての車種の属性と、アプリを利用するユーザーの好みを活用した高度なレコメンドシステムを構築しました。ただし、このアプリは新規ユーザーにはレコメンドを提示できませんでした。この問題を回避するために事前調査を設計する方法もありましたが、そうするとユーザー体験が冗長なものになってしまいます。そこで、既存の調査データを利用し、それぞれの車種に「スポーティー」「ファミリー向け」「ラグジュアリー」「ユニーク」といった属性を割り当てました。次に、これらの属性を切り替え、推奨される車種をクリック一つで表示できるユーザーインターフェースにしたのです。これらの属性には願望的な性質があるおかげで、ユーザーの興味を引き続けることができ、レコメンドシステムに投入できる大量のユーザーデータを容易に収集することができました。

3. 絶えずデータを使って検証する

データプロダクトの導入は、始まりにすぎません。ユーザーが利用を開始したら、定量化できる重要な指標を追跡することにより、データプロダクトを継続的に検証することが大切です。世界は絶えず変化しており、今日うまく機能したからといって、そのモデルが永久に使えるわけではありません。また、重要な指標を追跡すれば、データプロダクトのパフォーマンス向上に役立つ実験、つまりA/Bテストを実施できます。ユーザー体験とデータプロダクトの提供を反復することによって、Airbnb(エアビーアンドビー)は常に仮説駆動型実験を実行しています。これには、ウェブサイトの見た目の変更からスマートプライシング(需要の変動に合わせて宿泊費を自動設定するツール)・アルゴリズムの最適化まで、あらゆる要素が含まれます。A/Bテストの実行に用いられる内部ツールを活用することで、Airbnbは広告などが表示された回数に対してクリックされた割合を示すクイックスルー率や予約件数などの重要な指標に変更が与える影響を評価できるのです。

ユーザーのフィードバックを収集してユーザー体験の向上を図ることは重要です。特に優れたデータプロダクトは、フィードバックを即時かつ自動的に、あらゆる体験に取り入れることができます。frogの車種レコメンド・アプリケーションでは、提案した車種をユーザーが自分の「ガレージ」に入れられるボタンを加えました。これにより、ユーザーは気に入った車を全て一つのページで一覧することができ、しかもユーザーからのフィードバックを収集するための格好のメカニズムにもなっているのです。このフィードバックはデータベースに保存され、それを使ってリアルタイムでレコメンドを作ります。レコメンド生成に利用するのと同じデータベースにユーザーのフィードバックを保存することによって、車種レコメンドシステムは、ユーザー数が増加するほどにパフォーマンスが向上しました。

4. ユーザーに主導権を与える

熱心過ぎてユーザーに判断を要求する回数があまりにも多い機械学習システムは、どれほど精度が高くても、ユーザーを当惑させ、ウンザリさせてしまうことでしょう。とはいえ、ニーズの予測と、ユーザーへ程よく主導権を与えることの理想的なバランスをとるのは、かなり難しいものです。Nest Labs(ネスト・ラボ)のデザイナーらがこの原則を学んだのは、同社のサーモスタットに関する経験を通じてでした。ユーザーは自分が選択しても望んでもいない温度調整スケジュールと格闘することで、いら立ちと不快感を募らせただけでなく、サーモスタットを調整しなくなり、エネルギー使用量は前より高くなってしまったのです。人は生来、こうしろと指図されるのが好きではありません。Nestのサーモスタットに関しては、ユーザーに自分が主導していると感じさせることが、ユーザー体験とエネルギー効率の向上につながりました。当初の自動スケジュール設定は、エネルギーコストを削減するように最適化されていましたが、エンドユーザーの体感を考慮に入れていなかったため、結果的にエネルギー使用量が増えることになってしまいました。Nestのデザイナーはユーザーの話に耳を傾け、快適さを確保するように自動スケジュール設定を更新しました。

frogVentures(フロッグベンチャーズ)がHeatworks(ヒートワークス)と協力し市場に導入した、ネット接続でアプリを利用するタンクレス温水器「モデル3」では、主な目標の一つが省エネルギーでした。この省エネの一部は、加熱効率の向上によって達成されています。しかし、その大部分は、ユーザーに温水の使用量を減らすように促すことで実現されているのです。エネルギー効率を向上させる簡単な解決策は、各世帯が1日に使える温水の量に厳しい制限を課すことでしょうが、そんなことをすれば不満や摩擦を招くことになりかねません。モデル3ではその代わりに、収集されたデータから節約履歴と目標、推奨される対策を提案し、ユーザーが自らが温水の節約に取り組むよう促しているのです。

5. 言葉にされないニーズを満たす

受動的であれ能動的であれ、ユーザー行動データを収集することは、優れたデータプロダクトを開発する作業の一部にすぎません。ユーザーのニーズを予想し、それに対応するために、そのデータをどう利用するかを理解することが同様に重要です。クリックストリームデータ、購入データなどのユーザー行動データを追跡すれば、将来の行動予測に利用できる顧客行動モデルを構築できる可能性が生まれます。また、より個人に適した提案を作成するため、各セグメントのユーザーをグループ分けするのにも役立ちます。iPhoneの予測テキストや、Netflixの番組の提案、個人財務管理サービスのMint(ミント)の予算管理に関するアドバイスなどは全て、膨大な量のユーザー行動データを活用して、時々の個々のユーザーニーズに合ったタイムリーな情報を提供するものです。こうした予測アプリケーションは、用途はさまざまに異なりますが、アプローチはすべて同じなのです。それは、満たされていないニーズを予測するのに利用できる、ユーザーデータ履歴の中の関係性を見つけることです。

コネクテッド・ビークル(ネットワークに常時接続する自動車)は、ユーザーの要望やニーズの予想に利用できる大量のユーザー行動データを収集する新たな可能性を開くものでしょう。frogでは、ある保険会社のために、スマートフォンのGPSデータと加速度センサーデータ、および自動車のOBD-Ⅱポートから得られる走行中の車両データなど、運転行動データを収集するモバイルアプリを設計・構築しました。このモバイルアプリはこれらのデータを利用して、その時いる場所に適した販促サービスや経済的なアドバイスをタイムリーに提供したり、安全運転行動を促したりします。

6. 発見や喜びを喚起する

レコメンドシステムは、最も一般的なデータプロダクトの一つです。一人一人に合わせたコンテンツや製品の紹介など、質の高い提案を行えば、ユーザーの関心を引きつけ続けることができます。ですが、質の高い提案とは何でしょうか。単純に最も関連性の高い提案をするだけでは、結果が見え見えのものやうんざりするものになりかねません。本当の意味でユーザーの関心をつかむには、発見や喜びを喚起する提案が必要です。つまり、ユーザーが楽しめる、かつ自分では考えつかなかった意外性のあるコンテンツです。

既製のレコメンドシステムの提案でも、まずまずの体験を提供できます。しかし、ユーザーに発見の感覚を味わってもらうには、本当に個人のためにあつらえた提案が必要になります。frogでは、自分にぴったりの大学を見つけるためのウェブアプリを開発しました。インターフェースの裏側には、コンテンツ・レコメンド(この事例では大学の一覧)と協調レコメンド(ユーザーが好きな大学と特徴の似た大学)とを組み合わせたハイブリッド・レコメンドシステムがあります。ハイブリッド型アプローチは関連性と意外性のある結果を提供し、より豊かな顧客体験につながるのです。

7. 透明性で信頼を築く

データプロダクトが正しく機能していても、どうやって判断が下されているかを全く理解できないと、ユーザーは利用することに疑念を抱いてしまいます。データプロダクトの内部動作に関する透明性を提供することが、ユーザーの信頼を得る一助となるでしょう。例えば、音楽ストリーミングサービスのSpotify(スポティファイ)は、「Because you listened to…(あなたは……を聴いたので)」というタグラインを使っておすすめ曲を提案します。この情報を提供することにより、ユーザーは何を期待できるのかをより理解でき、次にどの曲を聴くかについて、情報に基づいたより良い判断ができるようになります。多くの機械学習アルゴリズムは、予測に加えて確率スコアや信頼スコアを生成します。この信頼スコアをユーザーと共有すれば、ユーザーが情報に基づいた判断をするのに役立ちます。これは天気予報では一般的な手法で、雨が降るか降らないかという二元的な予報ではなく、パーセンテージで表した降水確率をユーザーに提示するわけです。

保健医療や金融など、判断が重大な結果につながり得る分野では、透明性が特に重要です。frogでは、メキシコのある大手銀行との協力で、顧客のサポートに当たる行員が使用するダッシュボード(パソコンなどの画面に必要最低限の情報を整理して表示したもの)を開発しました。この銀行の顧客は主に低所得層で、その多くが店舗での対面取引を行う傾向が見られました。この識見をもとに、私たちは関連する顧客情報が表示される行員用ダッシュボードを作りました。そこには、行員が顧客に提案できる、一人一人に応じた推奨の対応策と財務上負うべき責任に関する助言が表示されます。それぞれの推奨案については、最近の生活上の出来事や支払い履歴などの関連情報を引用して根拠が示されます。このように透明性をもう一層増したことにより、行員は自信をもって提案を行うことができるようになりました。

8. 複雑な概念を視覚化する

データを解釈しやすくすることは、優れたデータプロダクトを設計する上で欠かせません。経路検索アプリは渋滞している道路を太い赤線で示すことで、通勤中のユーザーがその道を容易に避けられるようにします。フィットネス・トラッカー(活動量計)・アプリは、一目で分かるようなシンプルなグラフと傾向線を表示します。FiveThirtyEight(ファイブサーティーエイト)などのニュースサイトでは、データを単に数字だけではなく視覚的に表現することで、複雑なストーリーや概念を読者に理解しやすくしています。データの視覚化はいたるところで使われていますが、複雑になりすぎたり、ごちゃごちゃしすぎないようにバランスをとりながら、分かりやすくデータを視覚化するのはそう簡単ではありません。配置や形、色、大きさ、線の太さ、動きなど、情報を視覚的に記号化するための各種の手段を慎重に使い分けることで、重要な情報に注意を引き付けることができるのです。

取り扱うデータの規模と複雑さが増すにつれて、その視覚化はますます難しくなっています。この難関は、膨大な量のストリーミングデータをリアルタイムで視覚化する必要のあるIoTアプリケーションにおいて特によく生じます。frogでは、油田やガス田の完全性評価のため、掘削装置の計測機器から得られるセンサーデータを収集していた大手石油ガス会社に協力しました。ユーザー中心の設計アプローチを採用することで、技術職員もそれ以外の職員も、この複雑なデータを利用して判断を下すことができる、データ視覚化ダッシュボードを開発したのです。

9. 生活に溶け込む

SF映画は、機械学習や人工知能(AI)がロボットやより高度なチャットボット(自動応答システム)、完全な自動運転車といった形で人間社会に存在する未来を描き出します。機械学習に関する記事の多くが、こうしたあり得そうもない現実に焦点を当てていますが、実際のところは、機械学習はすでに現在の私たちの生活にもっとさりげない形で入り込んでいます。多くの場合、ユーザーは自分のお気に入りの製品を高度な機械学習が動かしていることに気付いていません。そうした仕組みが提供する改良点を目にするだけでしょう。ここで得られる教訓は、最高のデータプロダクトとは、人々がすでに使っている製品を補完することによって、現在の人々の生活に役立つものだということです。

frogでは常にユーザー体験を最も意識しており、設計する製品がユーザーの生活に溶け込むようにするため、徹底的なリサーチを行っています。データ製品を設計するときは、ユーザーに現在の行動を変えさせるような未来的な製品をつい作りたくなるものです。ただ限界を押し上げることも重要ですが、ユーザーの関心を引き続ける最善の策は、顧客の生活に無理なくなじむ、理にかなって信頼できるデータプロダクトを開発することなのです。End

この連載は、frogが運営するデザインジャーナル「DesignMind」に掲載されたコンテンツを、電通エクスペリエンスデザイン部・岡田憲明氏の監修のもと、トランスメディア・デジタルによる翻訳でお届けします。