PROMOTION | デザイン誌「AXIS」
2018.04.24 11:04
セイコーウオッチ デザイン統括部によるAXIS本誌シリーズ広告では、これまで「Illuminates your life(着けて輝く)」というデザイン統括部のフィロソフィーをテーマに、さまざまなビジュアルを展開してきました。そのなかでも187号から190号で展開された広告シリーズでは、デザイン統括部内から4人のプロダクトデザイナーが広告グラフィックのデザインを担当。製品のデザインプロセスに欠かすことのできないラフスケッチの手法で、それぞれが思う「Illuminates your life」を表現しました。ここでは制作を担当した4人に、イラストの意図やこだわりについて聞きました。
デザイナーの息づかいや思考を感じてほしい
ーーまず、イラスト形式という広告ページの方向性が出てきた背景を教えてください。
三村 これまでのシリーズ広告で、「Illuminates your life」というフィロソフィーを伝えるために、さまざまな表現に挑戦してきました。製品の写真を使うとか、ウィットに富んだお洒落な画面にするなど色々な案があったなかで、今回はプロダクトデザイナーらしい表現方法で時計の魅力を伝えられないか、と考えました。
松本 我々は時計を開発するプロセスのなかでたくさんのスケッチを描きます。手を動かして描いたものを通じて、デザイナーの息づかいや考え方、ひとつひとつの時計の背景にあるストーリーを感じてもらえたら、と思いました。
ーー時計のデザインプロセスにおいて、スケッチはどのような役割を担うのでしょうか。
松本 企画がスタートしてまだ何も決まっていない段階で、どんな時計か、誰が着けるのか、どういった場所で使われるのかといったイメージを描きながら、デザイナーが発想を膨らませていくプロセスがあります。ラフスケッチと呼んでいますが、デザイナーの頭の中を広げて視覚化するような感じを誌面でも見せたいと思いました。
ラフスケッチでデザイン過程のリアリティを表現
松本 187号は私が担当しました。「PROSPEX」というスポーツブランドのなかの「ALPINIST」と呼ばれる登山用のデジタル時計がモデルです。私自身、山に登るのが趣味ということもあり、実際にユーザーが登山を楽しんでいる様子を描きました。
ーー特にこだわったところを教えてください。
松本 山の景色や時計の質感などを、線画だけで表現したかった。またラフスケッチらしさを出すために、あえて細部を描き残しているところもあります。普段のスケッチでは色を塗ったり精緻に描いたりはしません。短時間でたくさんアイデアを出すスタイルなので、そのリアリティをここでも踏襲しました。
ーー普段、お互いのラフスケッチを見せ合うことはあるのですか。
松榮 共同開発や同じチームの場合はお互いのスケッチを見て意見交換することはあります。初期段階のラフスケッチのなかに「ラインが生きている」と感じる瞬間があり、そのラインをいかにモデルに落とし込めるかがプロダクトデザイナーとして腕の見せ所でもあるので。
松本 後でIllustratorなどのグラフィックツールを用いて清書することもありますが、その前の手描きのスケッチのほうが、デザイナーの思考や「こうしたい」がわかる感じがあります。
「使い手へ想い」と「自身の興味」がかけ合わさったスケッチ
ーー連載に際して、4人で決めたルールなどはあるのでしょうか。
吉田 手描きであることと、「Illuminates your life」を伝えるということ以外は、すり合わせしませんでした。むしろ、各デザイナーの頭のなかにあるイメージや個性を誌面にぶつけていきました。スケッチに使っている道具も違います。
松本 絵からにじみ出る人柄みたいなものが、ばらばらになるといいなと話していましたね。
吉田 私が担当した188号は夏の発行だったので、ダイバーズウオッチのコンセプトモデルをイメージしました。この時計を着けることによって、様々な体験を楽しんでもらいたいという、デザイナーとしての想いを描きました。あと、このときはダイバーズウオッチの担当ではなかったので、今後の希望も込めて(笑)。(※現在は「PROSPEX」のダイバーズウオッチを担当している)
ーーラフスケッチというよりは、アート作品のようですね。
吉田 普段はもっと簡略化したスケッチで、形が伝わりやすいよう線の少ない絵を描いています。今回は自分の頭のなかのイメージを手が動くままに描き、そのまま紙の上に乗せました。
松本 吉田君本人の印象はどちらかといえば静かなんですよ。スケッチを見せ合うことがなかったので、こういう躍動感のあるアグレッシブな絵を描くんだと驚きました。
ーー生きものの描写がダイナミックです。
吉田 海の動物に興味があって研究しているんです。動物の身体は機能をもった形をしているので、それを取り込んで新しいデザインの開発につなげたり、こういう世界観の好きな人に刺さるといいなと。実際、7月に発売予定の「Save the Ocean」シリーズでは、シロナガスクジラの腹部にある横線のパターンを文字盤に取り込んでいます。
時計を通じて「エレガンス」を探求する
三村 私が担当した189号のテーマは「デザイナーのスケッチブック」です。私は、デザインプロセスにおいて「この時計を誰に使ってもらいたいか」をより詳しくイメージします。ユーザー像が具体的に見えていたほうがより説得力があるので、リアルな世界観をつくり上げられるかに重点を置いています。ここでは、「Miss, Little Black Dress」という名前の女性が暮らしているパリ、彼女が見ている景色、身に着けているもの。それらをすべてひとつの世界観に落とし込んでみました。
ーー時計は実際の商品がモデルですか。
三村 具体的な商品ではありませんが、流れるようなラグのラインや側面のラインなど、「どこから見ても美しい」理想の造形を表現しています。
ーー時計のデザインで大事にしていることはありますか。
三村 私は主にドレスウオッチと呼ばれるカテゴリーを担当してきたこともあり、時計ならではの魅力のひとつとして、エレガンスという要素についてずっと考えています。時計は単に新しくて機能的なものがいいというわけでもなく、様式美も大切なエレメントであるプロダクトです。そのバランスを常に追求するようなプロセスやデザインを心がけています。
松榮 三村さんは芯の通ったかっこいい先輩です。ご自身の中でしっかりとしたスタイルを築き上げていることがスケッチから伝わってきます。
時計に集約する先端テクノロジーを表現
松榮 私が担当した190号では、普段「セイコーウオッチのデザイナー」として考えていることを込めて描いてみました。日々、世界中からさまざまな情報やトレンドが集まるなかで、デザイナー自身が情報の取捨選択を行い、それをどう腕時計のデザインに落とし込むことができるのか。その過程を、無数に都市をつなぐ高速道路のジャンクションのように、情報が一カ所に集約したりまたそこから離れていくようなイメージに置き換え、今回のスケッチに盛り込みました。
ーーこれはCGですか。
松榮 はい。私は普段ペンタブレットでのデジタルスケッチをメインにしています。また、メンバー3人の温かみがあるスケッチに対して表現上コントラストをつけたいと思い、機械的でSFらしい世界観に纏めました。スケッチの腕時計は、GPSを搭載した最先端のモデルをイメージしています。
ーーデジタルスケッチのよいところは。
松榮 デザイン統括部としてペンタブレットを導入したのはここ3、4年なのですが、表現の幅がより広がったと感じています。私は、アパレル関係の方々と一緒に仕事をする機会が多い事から、素材や色からイメージを膨らませていくことが多く、表現方法としてデジタルスケッチが向いているんです。
松本 ファッションとリンクさせて、時計がもつ魅力や世界観を伝えるのが松榮君はすごく上手。この絵でも、ハイテクノロジーのコンセプトがはっきり出ていてさすがだな、と感心しました。
シリーズ広告の制作を通じて得たもの
ーー今回の制作を通じて感じた、皆さんにとっての「Illuminates your life」について教えてください。
松榮 腕時計は、その人自身や想いを映し出すようなアイテムだと捉えています。身に着ける人にとって、「よい脇役」になるべくデザインしていると、日々心がけています。また、今回の制作を通じて、改めて人に喜んでもらえる製品に携わりたいといった初心に立ち返る、良いきっかけとなりました。
松本 腕時計は、着ける人の人生と一緒に時を重ねる、とても特殊なプロダクトです。今回ページを担当したことで、時計のもっと情緒的な部分を大事にしたいと思いました。腕時計は今、新しいフェーズに入っています。機能だけではない価値をどう提供していくか。我々はデザイナーですから、デザインを通してそれを考え、伝えていきたいです。
吉田 私は時計は相棒のような存在だと思っています。ダイバーズウオッチは冒険に必要な情報を与えてくれる頼れる存在であり、ドレスウオッチは着けた人の魅力を引き出してくれるパートナーです。その人にとって大切な一瞬一瞬を支えられる、頼れる相棒をデザインしていきたいです。
三村 人生って、実はすごくドラマティックだと思うんです。普段の忙しい生活のなかではスルーしてしまいがちな、プレシャスな部分の気づきをデザインを通してつくっていけたら。その時計がただ美しいだけでなく、本当にその人を輝かせているか。そういう感覚をこれからも追求していけたらと思います。
ーーありがとうございました。(Photos by 西田香織)
最後に:セイコーウオッチ デザイン統括部部長 佐藤紳二氏によるコメント
今回、シリーズ広告に参加したデザイナーたちの話を聞いて、改めて「いいな」と思いました。普段の製品開発においても、自分が取り組んだこと、デザインに対する想いを今回のように表現してくれたら、確実に人に伝わる。スペックとしての企画の説明というよりは、情緒的な部分のプレゼンテーションですね。それはデザイナーだからこそできる大事なことだし、また得意なことでもあると思うので、どんどん生かしてもらいたいです。