京都では着物姿の人をよく見かけます。
最近は色とりどりの着物を着て、いつもと違う気分で京都観光される方も多いです。京都の街に馴染むようにさり気なく着物を着こなす女性の姿は、控えめながらも上品な美しさがあります。今回はそんな着物の色にフォーカスしたいと思います。
良質な水が生む鮮やかな色
京都で着物と言えば、京友禅や西陣織が知られています。かつての京友禅における染色の過程では、白い絹織物に絵を描いて染めた生地を川の流れでさらし、余分な糊や染料を流して鮮やかな色彩を出す“友禅流し”の光景が見られました。京都は地下水脈が豊富な土地であり、その地下水は不純物が少ない軟水で水温も一定のため染色に適しています。現在は“友禅流し”の光景は見れませんが、京都の染屋さんは今でもその良質な地下水を汲み上げて水洗いをされているそうです。
絹の美しさ
白い絹織物は、丹後地方で織られた生地が多いです。丹後地方は雨が多く高湿なため、乾燥を嫌う絹織物に適した環境を生かし、古くから絹織物業が発展してきました。なかでも丹後ちりめんは絹糸の美しさが際立つシボが特徴です。
ちりめんは、経糸(たていと)に撚りのない生糸、緯糸(よこいと)に強い撚りをかけた生糸を織って生地にします。その後、絹糸に含まれるセリシンというニカワ質や汚れをきれいに洗い落とすための精練作業で糸が収縮し、緯糸の撚りが戻ろうとする糸同士の干渉効果で生地全面にシボができます。その生地はしなやかでシワになりにくく、凹凸による光の乱反射は染め上がりの色合いに深みを与え、美しい陰影をつくり出します。
友弾
友禅は布に模様を染める技法のひとつで、京都・加賀・江戸が三大生産地に挙げられます。特徴は、自然描写と加賀五彩(えんじ・黄土・藍・草・古代紫)を基調とした「加賀友禅」。多彩な配色に刺繍・金銀箔の加飾・図案的な「京友禅」。ほかの産地では描かれない磯の松・釣り船・網干し・千鳥・葦などのモチーフ選択と渋い色調の「江戸友禅」。産地による表現の違いはとても興味深いです。
それぞれの友禅の画像を検索し、色相を単純化して特徴の抽出を試みました。
■加賀友禅・・・グレイッシュ、淡彩、中間色が多い。美術工芸を復興した加賀藩の下、武家社会を背景とした落ち着いた色調と品のある色あい。
■京友禅・・・カラフル、鮮やか、とくに赤系統が多い。金銀の光もの、白や黒を併用することで主役色がより映える。公家文化を背景にした華麗な色あい。
■江戸友禅・・・徳川幕府による度々の奢侈禁止令により鮮やかな色づかいをせず、藍をはじめとした青系統、赤は控えめで茶やグレーのトーン変化。渋さのなかに色彩を楽しむ町人文化の粋な感覚。
これらのなかでも、最も多彩できらびやかな京友禅。その色のイメージはどうやってつくり出されているのか?京友禅の色構成や質感表現に注目しながら、少し掘り下げてみたいと思います。
京友弾
京友禅は手描き友禅と型友禅があります。型友禅においては、草稿(デザイン・図案)から完成までに多くの工程があり、各分野の専門職人さんの手を経て一枚の着物が完成されます。
筆者の父親は型友禅の図案家だったため、京友禅について尋ねてみると、父親が図案を担当した昔のカタログを手にそのデザインの意図を教えてくれました。
青い振袖については、裾に暗めの青をひき足元に重みを持たせて安定感を出しています。花はふっくらさせるためにボカシを3〜4段入れて立体感を、白い花は要素が多く窮屈になりがちな上前をすっきりさせるため白で抜いています。花粉のまわりや道具もののフチは金・銀、黒で囲い形を絞め、色と形のコントラストをつけています。
父曰く、着物を着たときにどう見えるかはとても大切で、「上前に目が行くように袖のあたりの色や線は控えめにしてバランスを取っている」と教えてくれました。そして、この振袖には約60-70枚の型紙が使われているそうです。
図案を描く工程から、職人さんの各工程へ。多彩で華麗な着物が生まれる背景には、高度な技術、図案の意図を汲み取って表現する繊細な感性をもった職人さんの存在があります。白い絹織物が美しく染め上げられていくさまは、まさに技術と感性の連携プレーと言えます。
京都を通して
2回に渡って京都と色をテーマにお届けしましたが、取り上げた四季の色や着物の美しさはどれも京都で生活するなかで何気なく目にしていたものでした。古から受け継がれてきた芸術や文化が醸し出す美しい風景や、街をゆっくりと歩くだけでも創作意欲が刺激されたり、心を動かされるような出会いが京都には溢れていると改めて感じます。
少しずつ春の気配が感じられるようになったこの頃、京都に暮らす人、訪れる人それぞれの春にどんな風景が映し出されるのか、そっと覗いてみたいと思うのです。