【卒展2018】昭和女子大学プロダクトデザインコース。
生活に寄りそう明日のためのデザイン

▲昭和女子大学 プロダクトデザインコース 卒業展示「Enter」の会場。総勢26名の作品が展示された

2018年の卒業制作展のうち、首都圏の学外展を中心にレポートするシリーズ。それぞれの大学、学部、コース、そして今の時代の学生たちの特徴や雰囲気を伝えていきたいと思う。

第2回目は、2月2日(金)〜4日(日)に開かれた昭和女子大学 生活科学部 環境デザイン学科 プロダクトデザインコースの卒業制作展「Enter」。タイトルは「ここで終わりだが、ここからまた新しくはじまる」という、エンターキーの持つ「決定と改行」の役割を込めて名付けられた。

▲会場はAXISビル地下1階のシンポジア。ガラス壁面に描かれた展覧会ビジュアルのエンターキーは、DMやポスターでは立体で表現されていた

生活のなかで笑顔を生むデザイン

毎日の生活を少し良いものにしたい。手に取ってくれるひとりひとりを笑顔にしたいーーそんな想いをそれぞれの作品から読み取ることができる展示だった。

「私たちが目指しているのは『人の生活のなかで、人々を笑顔にすることができるデザイン』なんです。身近なものを、少しだけ先のビジョンを持ってデザインしています」と話すのは、学生とともにこのコースを育ててきた桃園靖子教授だ。

美術大学と異なり、同校のデザインコースは、入学試験にデッサンや色彩構成などの実技が含まれていない。そのため学生のスキルにばらつきがあり、まず1年をかけて基礎的な技術を学ぶ。

美術大学に比べると専門領域に打ち込める時間は短いが、桃園教授は「さりげない提案のなかに、個性が表現できている。今年は講評会が終わっても、展示に向けてブラッシュアップを続ける学生が大半でした」と、学生の真剣な態度を話してくれた。

身の回りを見つめ直した作品

展示は、花瓶やテーブルライトなどの卓上小物、個人用の家具、また知育玩具や絵本といった子ども向けアイテムの提案など、自分たちの身の回りを見つめ直して、新しい工夫をしたり、価値を与えたりするアイデアの作品で構成されていた。

今回はその中から、大学より選抜された優秀作品も含めて5点を紹介する。なお、今年は「甲乙つけがたかった」という理由で、優秀作品は2点選ばれた。

▲「routeーー明日の行ってきますに繋がる経路」五十嵐里美

▲作品を説明する五十嵐さん。コートハンガーのフックは動かすことができる

優秀作品賞の1点目は、五十嵐里美さんの制作したコートハンガー、靴箱、壁掛けミラーの3点からなる玄関家具。

「玄関はちらかりやすいので、帰宅後にスムーズに定位置に仕舞えて、次の日に気持ちよく出かけられるような家具シリーズをつくりました」と、五十嵐さん。支持材として使用しているのは、鉄を酸化皮膜で覆った黒皮鉄。なかでもコートハンガーは同じ角度と回数で曲げ、家具に統一感をもたらすことにこだわったという。

▲靴箱の鉄の脚は、靴紐を結ぶ場所として使える高さに設定した。五十嵐さんが実演

もう1点の優秀作品賞は、熊澤花笑さんによる革製のケース。革の経年変化に着目し、使っているうちにそれがあえて見えやすいところに現れるような形にデザインした。少しずつ変化する色や形を楽しむために、長く使用した後のリペア案として、革に金継ぎを施したものも展示されていた。

「『tsure』という作品タイトルは、友人や家族を表す『連れ』から取りました。モノと人の関係を考え直す、新しいライフスタイルの提案をしたかったんです」と熊澤さん。マグネットで開閉する機構を含めて、ひとつつひとつ手で縫い付けていったという。

▲「tsureーー共に成長するモノ」熊澤花笑

▲金継ぎしたリペアの例。革の特性を知るため「煮たり焼いたり電子レンジでチンしたり」しながら可能性を探ったという。

島村日菜美さんによる「KOSHI」は、格子状の紙を組み上げてつくった子ども向けのブロック。都会の小さな家では玩具の収納場所が問題になることも多いが、畳むとほとんど平らになる構造により、小さな箱にたくさんのパーツをしまうことができる。

「積み木は誰もが最初に触れるおもちゃのひとつですが、実は木の収納ケースが多く、子どもにはしまうのが難しい。片付けは親の役目になっていることが多いと気づきました。これは子どもでも簡単に片付けられますし、たくさんのパーツで遊ぶこともできます」と島村さんは話す。

▲「KOSHIーー格子の動き」島村日菜美

▲「紙製だけれど、子供のなかのブロックのイメージを崩さないように色は原色を選んだ」と島村さん

「again+」は、日本古来の紙漉き技術に着目し、古紙とオリジナルの型を用い、再生資材をデザインした佐藤彩加さんの作品。それぞれの色は染料ではなく、マンガ雑誌などの色をそのまま使用している。

▲「again+ーー紙漉き技術の研究とオリジナル再生資材の制作」佐藤彩加

▲「この辺の色は週刊ジャンプです」と説明してくれた佐藤さん

「願かけ」は、「魚屋でアルバイトしている」という後藤万璃子さんによる「魚の皮を鞣して、革生地にする」という大胆なプロジェクト。出世魚のブリは名刺入れに、「川に帰る」習性を持つ鮭はキーケースに、というように、日本における魚の意味が作品に込められた「革小物」だ。

▲「願かけーー魚の表現研究」後藤万璃子

▲作品を持つ後藤さん。ちなみにホッケは「開きにする」のでブックカバーとのこと

強い個性を作品に持たせるには

自分たちの周囲を見つめ直し、作品にしていった学生たち。誰しもに身近な題材が多いため、小さなアイデアでも光るものを感じさせてくれた反面、既視感を拭えない作品が見られたのも事実だった。

生活用品はいろいろなデザイナーが長い時間をかけてデザインし続けてきた領域。これまでどんなデザイナーが、どんなコンセプトで、そのプロダクトをつくってきたのか? 自分の作品の新しい部分はどこか? 歴史をたどり、丁寧なリサーチを背景に用意すると、作品をより強いものにしてくれるだろう。

昭和女子大学の学生たちの「ここからはじまる」未来が楽しみだ。End

昭和女子大学 生活科学部 環境デザイン学科 プロダクトデザインコース卒業制作展「Enter」

会期
2018年2月2日(金)〜4日(日)
会場
シンポジア(AXISビル地下1階)
詳細
昭和女子大学 プロダクトデザインコース